見出し画像

他人の精子の上で体を洗うということ

どこのホステルだっただろう、常に安い宿安い宿で移動してきているので、設備に期待はしていない
シャワーが水しか出なくても、トイレに紙がなくきったなくても、常夏の東南アジアでエアコンが壊れていても、虫がうじゃうじゃでも、不満こそ感じるもののまぁ仕方ないよなと割り切ることにしている

設備に関してはこのスタンスで良いのだろうが、安宿というのはどうしても民度も下がっていくもので、宿泊者に関しても気づけばだいぶ寛容になってきてしまっているようだ
安くて汚い宿だとしても、それなりの節度を持って使いやがれ、というのが正しい主張だと理解はできるが、もうそんなことはどうでも良くなっている
別に夜中爆音で電話しようが、トイレで流して居なかろうが、わざわざ寝てるところを起こされようが、まぁいっかとなる

この日も案の定汚く少し臭いもあるシャワールームだった
少し前にも使用していた人がいたようで、扉を開くとむわっとした熱気を感じた
ちょっと水を出すと、すぐに床に水が溜まった
どうやら排水溝が詰まっているらしい
ゴミや虫や髪の毛で詰まっているなんてのは良くある話だが、この日排水溝に絡まっていたのは確実に誰かの精液だった

男の人なら人生で一度くらい風呂場で自分磨きをしたことがあるだろう
お湯で流そうとした時、それは固まってフヨフヨした白い塊になったはずだ、きっとあなたも心当たりがあるに違いない
間違いなくそれだった、一瞬でわかったが詳しく観察までしたので間違いない
なんなら私自身少し前に同じくシャワールームでフヨフヨを生成したばかりなので、脳裏にしっかり焼き付いたその白い塊を見間違うはずがなかった

まず、汚なっ!って思った
オナニーまでは同じ旅人として理解できる当たり前だ、でも普通なんとかして流し切るものだろう、僕だってそうしてきた
シャワールームが汚くてちょっと臭ったのも無意識のうちに影響していたはずだ、汚いなーと思って入った空間でどこの誰かも知らねーやつの精液を見たら誰しも汚いと感じるはずだ

しかしここで、二ヶ月の貧乏旅の成果が現れる
ドミトリーでムラムラが抑えられなくなり、シャワールームでいた仕方なくシコったことを思うと、嫌悪感を愛おしさが上回っていく
一瞬感じた苛立ちもすぐに収まり、そして、誰の精子なのか顔を知りたくなった

顔を知ったら興奮すると思った
僕の性癖は一般的なものではなく、対女性というよりは対概念であって(なんのこっちゃかもしれませんが…)、男だろうとおじさんだろうと、全然ウェルカムであった
ある男が、こっそり隠れて、オナニーをしたという状況は想像によって僕の性癖に入りうる
そうなってくると、想像する上でのリアリティーの部分で逆に、顔がわからないことに対する苛立ちが募っていった

顔さえわかれば、この今しようとしている妄想ストーリーのクオリティー、展開が決まるのに
イケメン、不細工、年下、おじさん、これらの要素はストーリー構築の上で重要な部分でここを蔑ろにして妄想を進めざるを得ない状況にもどかしさを感じた

そんなことを考えながらシャワーを浴びる
誰かの精液混じりの溜まった水はすでにくるぶしの少し下くらいまできている

体を洗い終わり最後足を洗って、ここで一気に今までの感情が崩れた
足を綺麗に洗った途端、その綺麗な足をまた精液混じりの溜め水につけなければいけないことにひどく嫌悪感を覚えた
普通にオナニーしてちゃんと流さなかった野郎がうざかった
なぜか最初に流さず、精液をそのままにシャワーの行程を進めた自分にもイライラした
賢者タイムに入り、さっきまで食い入るように見ていたはずのAVへの気持ちが一気に冷めるのと同じような感覚だった

要約すると、ただ、他人の精液の上でシャワーを浴びたというだけの話なのだが、
ここまで他人の性液に短時間で一喜一憂する経験もそうないと思うので書き留めておく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?