動物園横の小さな家#1

僕は病気を持っている。
三十代はじめに発現したものだ。
疲れた時などに小さな声で人の話し声が聞こえると言ったものだ。

所謂幻聴である。

そんな僕もそれなりに働き、つい先日小さな一軒家を購入した。
動物園の横にある小さな二階建ての家である。
洋風の白い外観と内装の家はレトロで可愛く気に入った。
何よりも破格の値段で、買い手がないのが不思議なくらいだ。

動物の声で病気が紛れるのではとおもい踏み切ったのだった。

しかし購入には不思議な条件があった。

まず一つ目は前の持ち主が面接をするものだった。

面接では身体検査と体力測定、問診の様なものをさせられた。
問診ではキレイ好きか?などの簡単なものから、今の病気も聞かれ、
「なるほど、良いですね。」
と言われたのが印象的だった。

病気で困ることはあれ、良い事だと思ったことは一度もなかったので帰ってから不思議に思っていた。

2日後封筒が届き中にはこう書いてあった。

<購入OK!
ただしこの3つは守ったってください。
1つ目は2階のトイレの中の青い扉を内見の時に見られたと思います。トイレから見て外側から鍵がかけられる形ですが鍵を付け替えないで中には物を置かないでください。

2つ目は家の2階の赤い扉の中のものは捨てずに無くなったら補充して下さい。

3つ目はこれが一番大事です。

売る時は私に連絡して下さい。>

手紙の内容を電話で問い合わせたが、
「その内分かります。」
のひとことだった。

青い扉は少し広いトイレの中に入って左側にラックと並んで立っている。

中は小さな部屋で、青い扉には外鍵が(トイレの中から見て)掛かっている。

赤い扉はトイレに入る扉の横にある化粧台隣にあり、中には外国や日本を含めたアジア産の香水、整髪料、食料が入っている。
無くなるとはどういう事か?

その向かいには一階とは別に小さなキッチンが設置されている。

不思議な事は多いが"補充"以外は、前の持ち主は変わり者なのだな位にしか思わなかったので、越してくる事にして、荷物も運び入れた。

ひと段落して2階のトイレで用を足しているときに事は起こった。

青い扉からガチャガチャと音がして、
ドンと扉が開き珍客が現れた。


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