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あぐりをみた。(第3週目まで)

朝の連続テレビ小説『あぐり』を観ている。

1997年に放送された朝ドラで、なんとこの度NHKオンデマンドでのアーカイブ配信が決定し、順次配信中。ありがとう、NHKオンデマンド。
なんだかんだつかず離れずで10年近くNHKオンデマンドに加入しているが、一番の悩みのタネは全ての番組が配信される訳ではないこと。特に人気である大河ドラマと朝ドラは、近年の作品はほとんど配信されているものの、過去の作品については、まちまちなのだ。(権利関係色々あると思うけど、細かい理由は不明)ただし、近年は視聴者の声を取り入れてなのか、どんどんあの作品が!というものが配信開始されている。その調子でお願いします。

さて、『あぐり』の話。自分は当時幼かったのもあり、リアルタイムというより、数年後の再放送でハマって見ていた好きな作品。内容は細かく覚えていないけど、今になっても「あれは良いものだ」という印象が強かった。あらためて配信開始しているので視聴してみると、なんともするする見てしまう…おそろしく展開が早い。やはり良いものは多少時代が過ぎても変わらないらしい。

NHKの紹介サイト:https://www2.nhk.or.jp/archives/movies/?id=D0009010445_00000

明治40年に岡山で生まれた川村あぐりは、15歳で資産家の息子で自由奔放な望月エイスケと結婚。エイスケはあぐりの美容師になる夢を応援するが急死。しかしあぐりは困難を乗り越え、美容師となってたくましく生きていく。90歳をすぎても現役の美容師だった、作家・吉行淳之介の母がモデル。

NHKアーカイブスより


ザックリとしたストーリーの中に重大なネタバレありすぎ。

大枠の内容は、朝ドラとしてはあるあるのテーマで、激動の大正昭和をかけぬけた実在女性の社会進出、というものであるが、構成・演出・キャラクターともに丁寧かつエンタメとしてユーモアのバランスよく組まれていると感じた。配信は一気ではなく、週毎に配信されているため、現在第3週「謎の女」までを視聴した。この週のタイトルも良いな…。

第1週のタイトルは「花嫁は15歳」なのだが、展開が早すぎる。15歳で結婚もすごいがそこにたどりつくまでに主人公あぐりの家族(父と姉二人)がどんどん亡くなっていく。15分の放送で見せていく朝ドラの演出としては、登場人物の死を扱うのは常套手段であるが、まさか1週目でここまで詰め込むとは。確かに若干の浅はかさは感じられるものの、当時のスペイン風邪の流行を考えると史実の方が残酷だなと思わせられる。もちろん悲しい演出だけではない。弁護士である父の人権・法の精神の教えや、姉から受け継がれる本質的な美に対する考え方によって、若干15歳ながらに明るく強く生きていくあぐりのルーツとして描かれるため、以降の厳しい現実への主人公の対応として唐突感が出ない仕掛けとなっている。ちなみに1週目でヒロインがメインの役者さんになるのも展開は早い方といえる。

第2週のタイトルは「エイスケの秘密」。15歳で主人公あぐりが結婚する相手のエイスケに焦点があたる。演じるのは若き野村萬斎。当時もハマり役として大人気を博したらしいが、それも納得。2週目ですでにエイスケさんに魅せられた。涼しい目元で表情豊か。あまのじゃくで小難しいセリフを飄々と語ってみせるが声はあの野村萬斎ボイス。活舌良すぎ。
ダダイズムを信奉する小説家志望の青年だが、両親によって東京から岡山へ帰ってこさせられたエイスケ。田舎のしがらみに辟易する中で、あっけらかんとしながらも本質をみようとするあぐりに光を見出す。そして、最初は印象サイアクだったのに、実は繊細でまっすぐ、そして心の根は優しいエイスケに惹かれていくあぐり。(完全に耳をすませばの手法)

とにかく展開が早く常にクライマックス。それでいて考えられた構成と演出が素晴らしい。そして、見ていて気付いたことがひとつある。かなり意図して描いてると思うが、このドラマの中で徹底しているのは、「察することの功罪」であるように思われる。あぐりは、朝ドラの主人公よろしく空気が読めない。察することができないので様々なトラブルを巻き起こしていくのだが、だからこそ本質を見抜き、がんじがらめの常識という名の当時の倫理観に切り込む。一方で暗黙の了解的な罪だけでは終わっていない。逆に、あぐりの周囲の登場人物は皆、察しが良すぎる。嘘とか秘密は絶対にすぐ明るみに出る。だからこそ、察しが良いことで、気遣える優しいシーンも多く描かれる。初めて嫁ぎ先から家出したあぐりに、母親は許しを得ずに勝手に帰ってきたことを瞬時に悟り、それでも追い返すことなくあぐりに優しく接する。そういったわかりやすい察しだけではない。魚釣りの釣果が良くなくて帰りに鯛を買ってきたあぐりだが、使用人たちはすぐに気づいて大笑いするが指摘はしない、といっためちゃくちゃ細かい所まで描いている。こういった細かい演出で、あぐりは優しい人に囲まれているからこそ、突拍子もない発言や行動もフォローしてもらえるのだとわかる。

みんながみんな暗黙知を共有している訳ではない現代的な感覚として、やっぱり言わないとわからない、という気持ちはありつつ、ドラマの演出として察することのバランスを考えてやっているな…と考えさせられる視聴体験であった。さて、この後の展開でも関東大震災や太平洋戦争といった朝ドラ定番試練が待ち受ける中であぐりはどう生き抜いていくのか。そして同時代を生きていくであろう、2024年4月にはじまった『虎に翼』の寅子の行方も並行して楽しんでいきたい。

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