エムスリーの成功要因分析

今日は、医療情報サービス会社の最大手エムスリーの成功要因を考えてみたいと思います。
エムスリーは、2000年に創業した新興企業です。
m3.comというサイトで、会員登録している医師31万人に対して、医療関連情報を提供しております。
主な収益源としては、会員医師に対して、製薬会社が情報を掲載するマーケティング支援です。
創業わずか20年程度ですが、2022年3月期の売上高2000億円超、時価総額が約3兆円と急成長を遂げています。
Strainerというサイトの時価総額ランキングでは、エムスリーの時価総額は、大手企業の東日本旅客鉄道や、花王や、第一生命HDよりも大きいです。
新興企業で、日本の一流企業よりも時価総額がすでに大きいとは、本当にすごいですね。
時価総額だけでなく、下図の売上高も急成長を維持してきました。

2022年4月会社説明資料


では、なぜこのように急成長できたのでしょうか?
インターネットを活用した医療情報プラットフォームは、新しい市場です。
経営学では、新興市場で勝つためには、First moverが有利とよく言われます。
つまり、最初にサービスを構築し、駆け抜けた会社が勝つということです。
では、エムスリーはFirst moverだったのでしょうか。
どうやら、完全なるFirst moverではなかったようです。
エムスリーは、2000年9月に創業し、すぐにインターネットを活用した医療情報サービスを提供しております。
しかし、競合であるCare Netも同2000年に、医療情報サイトをインターネット上で開設しております。
つまり、同時期にサービスを提供したライバルが存在しておりました。

では、何がポイントだったのでしょうか?
医療情報サービスは、ネットワーク産業とも言えます。
ネットワーク産業は、利用者が増えれば増えるほど、そのサービスの価値が上がるという特徴を持っています。
代表的な例としては、携帯電話です。
iPhoneを利用する人が一人では、二人目にとっては購入するメリットがほとんどありません。
しかし、日本の大半の人が利用している状況では、購入するメリットは非常に大きくなります。
医療情報サービスも同様です。
医者の会員が増えるほど、製薬会社にとってメリットが大きくなります。
実は、エムスリーは、ライバルのケアネットと比べて会員数が大きく上回っています。
エムスリーは会員31万人ですが、ケアネットは会員20万人となっています。

では、同時期に開始したサービスで、なぜこれほど差が開いたのでしょうか?
ポイントはスピードになります。
エムスリーは、Care Netと比べて、非常に速いスピードで会員数を増やしていきました。
・エムスリーの会員数推移(2005年:10万人、2010年:20万人)
・Care Netの会員数推移(2010年:10万人、2019年:15万人、2020年:18万人)

なぜ、エムスリーのスピードが速かったのでしょうか?
それは、初期に他社サービスを取り込むことで、自助努力で頑張るライバルよりも、早期に優位性を確立しました。
Care Netは2010年まで、自力でサービスを拡大させていきました。
一方、エムスリーは、2002年にウェブエムディの医療情報サイト事業を譲受、2003年にはソニーコミュニケーションネットワークの医療情報サイトも譲受しています。
つまり、First moverにはなれなかったものの、初速を加速させることで、実質的にFirst moverとしての優位な立場を獲得し、ネットワーク市場において、持続的競争優位となる会員数を獲得することができたのです。

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