さんかく/千早茜
一度きりの人生をどう生きるかは難しい。
正確に言うと、どう生きるかを自分できちんと「選択」することが難しい。
読後に、そんなことを思った。
仕事、恋愛、結婚、出産、何かを選ぶと何かを手放さないといけいのか。
手巻き寿司のシーンの一節
「選べる自由って一番を見失うよね」
堀教授が好きだ。
銀座でいちごパフェを食べるシーン
「若い頃の私は違う世界に目を向けないきらいがありました。合理的であろうとすることは研究者として大事な姿勢ですが、それは必ずしも正解ではないんですよ。無駄だと思うことの中にヒントが隠れていることもあります。」
正月に研究室で豚汁を食べるシーン
堀教授の娘さんから差し入れの豚汁を一緒に食べた後の一節
「堀教授は眉を下げて笑って、次の瞬間にはもう死体へ集中していた。同じ部屋にいるのに、瞬く間に違う場所へと行ってしまう。その姿に勇気づけられる気がした。」
自分の人生がこのままで良いのか悩む華に、研究者としてどう生きるか、不器用ながらも温かい助言、背中で示す、生き様を見せることで激励する姿に「普通」ではない良さがある。
高村さんが、伊東くんとの生活に行き詰まりを覚え、自分の気持ちに蓋をして生きてきたことに葛藤する中で、次のステップへと進むことを決断するまでの下りは、高村さんを応援したくなる気持ちもあるが、伊東君との生活が終わってしまう寂しさが勝ってしまう。あの静謐な、心地よい時間がなくなってしまう。
「そもそも、私がして欲しいことってなんなのだろう。」
「いろんなことに疲れて1人になったんだよね。年齢のせいにして。でも、やっぱり諦めきれてないみたい、それに気が付いちゃって」
「人に作る食事と自分のためだけの食事は違った。私は人との生活も、自分だけの生活と同様に慈しむことができた。」
「だから、これから探すのだ。ちゃんと自分が欲しいものを。」
華と伊東くんが、自分の選んだ道も、好きな人も、どちらかを選ぶのではなく、「普通」じゃなくても二人なりの関係性を築いていこうとする、その最後のシーンが良かった。
何度でもやり直す、うまくいかなくても選びなおす、そんな人生を。
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