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今日は秘蔵のお菓子ボックスで見つけたキョロちゃん相手に脳内研究に励む

日曜の朝、「テストは3点 笑顔は満点」と流れていて、この歌詞が苦手だった。朝アニメが大好きだったのでオープニングが始まるとテレビにかじりついてたけれど、この歌詞がくると一旦胸がスッと冷める感じがした。

「テストは満点 笑顔は3点」な子は、生まれる時に手に取った武器が笑顔じゃない方だっただけで愛されにくい。

「テストは満点 笑顔も満点」な子は、大人が実は「テストは3点」な子が大好きだとわかってしまう。

ちょうど、お馬鹿タレントと呼ばれる人たちが毎日テレビに出ている時代だった。クラスで一番頭の良い子が「馬鹿な方が可愛いしモテるよね」って言ったとき、私はその横顔を彼女の右側から見てたこととか、「女の子が大学なんて行ったら、嫁の貰い手がいなくなる」と親切なおばあちゃんから善意で言われたこととか、やたら覚えている。

私が生まれ育った小さな世界で、本に夢中な子は、バスケに夢中な子より、とっつきにくくて愛しにくい。

早いうちになんとなく気づいちゃって、疎外感を感じたりもした。
けどもう心は本の世界にあったので、寂しいのは最初のうちだけだった。

今いる小さな世界で、「お馬鹿で可愛い」を演じる必要なんてない。本を読めば読むほど世界は広くて、私は何も知らなくて。一生かけて学んだって、地球の歴史規模で見ればまだまだお馬鹿で可愛いさ。

たまたま目の前にいる大人に、かしこぶった可愛げない子どもと思われてもなにも問題じゃない。芥川龍之介に、与謝野晶子に、江戸川乱歩に、島崎藤村に、甘えているのだ。「ねえ、続き聞かせて」って。

知識が増えるのは楽しい。若いサラリーマンがよく選ぶネクタイの色。少し黄色がかった青は「花色」「縹(はなだ)色」とも呼ばれて、1000年以上昔から若い男性の爽やかな色として使われてきた。フレッシャーズフェアで購入した無難な色のネクタイ、1000年前から君に似合ってたんだよ。いきなりこんなこと言ったら不審者なので、心の中で思うだけだけど。でも知ってるだけで、そのネクタイもっと好きになるんじゃないかな。

「テストは満点 笑顔は3点」でいいよ。そういう子って喋ってて楽しい。私は好き。そのうち君でも30点しか取れないくらい、張り合いのある世界に行ける。笑顔の0点は後からどうにでもなる。

鳥類学者だからって鳥が好きだと思うなよ』という本で、鳥類学者の筆者川上和人さんが、キョロちゃんを脳内研究するシーンがある。

鳥類学者の知識を通してみるキョロちゃん。彼は捕食者のいない孤島に住んでいる可能性が高いらしい。

こういう時はおコタでエア鳥類学に限る。今日は秘蔵のお菓子ボックスで見つけたキョロちゃん相手に脳内研究に励む。
さて、続きだ。彼らは茶色や黄色など、個体により微妙に異なる多様な羽色を持つ。これは、シベリアで繁殖するエリマキシギと同じタイプだ。
エリマキシギは繁殖期に雄が集まりレックと呼ばれる集団を作る。メスに綺麗な羽色を披露し競いあって、つがいになるのだ。春になると色とりどりのキョロちゃんが草原に集まりダンスを始める。メスはうっとりと寄ってくる。野外でこんな場面に出会ったら、食べ放題で絶滅の予感だ。やはり、捕食者不在の孤島仮説と合致する。ふむ、ますます説得力があるな。
川上和人 2020「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」新潮文庫

この後はキョロちゃんの足が前に3本、後ろに1本趾(ゆび)がある三前趾足であることから、樹上で生活する種であると仮説立てる。

キョロちゃんは捕食者不在の孤島に住み、樹上で生活している仮説。愛嬌たっぷりの顔に反して、孤高の存在。あまりに意外で、お風呂に浸かりながらケラケラ笑った。

川上和人さんのユーモアのセンスのおかげで、最初から最後まで徹頭徹尾「鳥!」の話を一気に読み切ってしまった。防水Kindleを天井にかざしながら湯船に浸かっていると、海鳥の背中に身を沈めて飛んでるみたいだ。

こうやって本の世界に入って、ふわふわ浮遊して、ちょっとでも新しい視点を教えてもらう。そのせいで現実でも浮くかも知れないけど、浮くのもそんなに悪くない。

「テストは3点  笑顔は満点」タイプの子どもじゃなかった。(そんなに賢かったわけでもない。念のため)
クイズ番組で、お馬鹿タレント(と呼ばれてた人たち)の人気が白熱し、曲を出してた。教室のスピーカーから毎日のように流されて、その曲を聴きながら給食を食べてた。記憶が定かじゃないけど、運動会でポンポン持って踊った気もする。それなりに楽しみつつ、どこか所在なかった。

大人になってみると、テスト満点にも、テスト3点にも、笑顔満点にも、笑顔3点にも、ちゃんと居場所がある。「テストは3点  笑顔は満点」の子はたぶん早いうちに大人の心に居場所を見つけられて、私はもうちょっと時間がかかった。

キョロちゃんを見て、孤島の樹上に立ち西日を見つめる姿を想像する。君がそんなに渋い鳥だなんて、知れてよかった。



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