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「私の思い出にある大阪のすべてを書こうと私は心にきめた」

 この春兵庫県の朝来市に移転しましたが、昨年末までの十一年間、大阪のそれも市内で本屋を営んでいた人間が、よもやまさかこの本を未読だなんて、一体誰が想像しうるでしょうか……!

 「読んでない」と言えば「嘘でしょ!」と驚かれるくらいに、大阪を愛し、そして大阪で生まれた文学を愛した人たちのなかで読み継がれているのが本書であり、本書の作者・藤沢桓夫です。例えばオダサクこと織田作之助のように、その代表作のいくつもが現在でも簡単に入手でき、今なお多くの読者を持つ作家であるとは言えないながらに、当時の文学者としては珍しく、学生時代をのぞいては上京しないままに、その一生を大阪で暮らした藤沢桓夫。その名を知らぬ大阪の本屋はない!と言っても決して過言ではありません。

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