USMLE Step1 合格体験記 令和最新版
こんにちは。東京で医学部5年生をやっているほもさぴという者です。
ふざけたタイトルですが本文は真面目に書きます。
このたびアメリカ版医師国家試験、USMLEのStep 1に合格しました。
USMLE Step1について書いた記事はネット上にかなりの数ありますが、まあ多くて困るものでもないので、自分も書こうと思った次第です。
そもそもUSMLEは日本では「みんなが受ける試験」ではないので、受験生の方は少なからず心細さを感じていることと思います。僕もそうでした。
この記事が少しでもそういった方の参考になれば幸いです。
参考にさせていただいた記事
今回USMLE Step1を受験するにあたって、nissychia先生のnoteを大いに参考にさせていただきました。
申込の方法、勉強の進め方など、基本的にはこちらに書かれている内容を実践した形になります。(僕は集中力が続かないので4ヶ月というわけにはいきませんでしたが……)
超オススメです。
大まかな流れ
2023年4月 海外実習・USMLE受験を決心
決心、というほど大したイベントでもないのですが、この時期に
学科同期がStep1合格
別の学科同期がUSMLEを受ける!と言い出す
大学の推薦で海外実習に行けるプログラムに興味をもち、英語で医学を学びたくなる
激重バイトを辞めて自由時間が増える
といったことが重なり、USMLEの受験を思い立ちました。
最初に見たのがさきほど先ほど紹介したnoteで、そこで合格までの大まかな展望を得ました。
教材としては、
・First Aid(テキスト)
・UWorld(オンライン問題集、1年プラン)
を思い切って買いました。
価格はもちろん米ドル設定なので、円安も相まってまあまあな出費です。しかし、自分は「こんだけお金出したんだから頑張らないと」という形で自分を追い込まないと物事を進められない人間なので、決断しました。
裏を返せば、使った教材はこれだけです。
暗記ツールとしてAnkiを使う人も多いようですが、自分でデッキを作るにしても、いい感じのデッキを探すにしても、結構な時間と手間がかかりそうなのでやらないことにしました。
高得点を目指すなら細かい知識もしっかり覚えるべき……なのですが、現在のStep1はPASS/FAILの判定しか出ないため、重箱の隅をつつくような問題は取れなくてもいいか、と割り切って、省エネで勉強する方針としました。
余談ですが、僕の大好きな小説『氷菓』の主人公、折木奉太郎のセリフに
「やらなくてもいいことならやらない。やらなければいけないことは手短に」
というものがあります。まさにこれです。本当は座右の銘として言いたいくらい好きな言葉なんですけど、無気力人間だと思われるかもな……と心配になってしまい、なかなか言えません。
2023年4月〜12月 とりあえずUWorldを1周解く
閑話休題。
UWorldはオンライン問題集で、だいたい3600問くらいが収録されています。
まずはこれを1周解くことを目標としました。
UWorldの問題はジャンル毎に分かれており、基本的には「適当なジャンルを選び、その中からランダムに出題される問題を解く」というスタイルで進めました。
勉強する順番は先述のnoteを参考にして、
Pathology→Pathophysiology→Physiology
→Pharmacology→Microbiology
→Anatomy→Histology→Biochemistry→Embryology→Genetics→Immunology
→Biostatistics→Behavioral Science
としました。
Pathologyの問題は「こういう症状の人が来た、診断は何でしょう?」的な、比較的日本のCBTや国家試験と雰囲気が似たものなので、比較的とっつきやすいかと思います。(自分の場合はCBTの知識がごっそり抜け落ちてたのでここも一苦労でしたが)
Pathophysiology, Physiologyは疾患そのものというより、その疾患のメカニズムや、疾患がなかった場合の正常機能についての理解が問われる分野です。基礎医学をサボっているとキツいところでしょう。
続いてPharmacology, Microbiologyです。日本の医学部で扱わない(もしくは扱われてたものの受け流せていた)ところなので、正直ここが一番キツいです。泣きながら問題解いてました。
Pharmacologyは日本の医学部での「薬理学」よりだいぶ範囲が広いです。薬が関わっていたら何でもPharmacologyです。ありとあらゆる疾患の治療薬(名前も)、機序、副作用、併用禁忌/注意の薬などの知識が求められます。
Microbiologyは感染症に関わること全般です。アメリカの試験なので、日本ではそうそうお目にかからない感染症(Rocky Mountain spotted feverとか)についても勉強することになります。あとAIDSも結構詳しくやります。地獄です。二度とやりたくない。
AnatomyからImmunologyは、PharmacoとMicroに比べれば幾分ラクです。
Biochemistryは結構細かいところまで聞いてくるので初見ではツラいでしょう。ただ、UWorldや模試(後述)の正答率を見る限り、現地の医学生もかなり苦しんでおり、本番の出題割合もそこまで高くないので、僕はそこまで気にしないことにしました。
Biostatisticsは統計です。感度・特異度とか、信頼区間とか標準偏差とかそういうのです。ただの算数の問題みたいなものもあり、日本の医学生的には最高のオアシスでしょう。本番2日前とかまで放置しても耐える癒やし分野です。
Behavioral Scienceは日本にはない科目で、精神科の問題と患者とのコミュニケーションについての問題が半々くらいで含まれます。
精神科の問題は(まあまあ細かいですが)勉強すればなんとかなるとして、問題はコミュニケーションに関する問題です。(学科同期は"道徳の問題"と呼んでいました)
日本人の感覚ではびっくりするほど正解できません。ここはいかに「自分はどう思うか」を捨て去って、「アメリカ的には何が正しいとされているか」の傾向を掴み取れるかだと思います。(日本よりも事実ベースで話し、謝り過ぎないのがコツかも)
まあ、ここも出題割合としては高くなく、コスパはよろしくないので、気にしすぎないことが吉だと思います。
という順番でUWorldを進めます。
基本的にはTutor mode(1問ずつ解説を読めるモード)で、「解く→解説読む→First Aidの該当箇所を読む」という形で進めました。
UWorldの解説は非常に充実しており、すべて読むのは一苦労です。あまりにも時間がかかりすぎるので、僕は「疾患の概要」「どう考えたら正解選択肢に辿り着けるか」の2点を意識して、情報を探す形で読みました。
思えば塾講師バイトでも、生徒たちに「解説を読むときは、自分に足りない知識・発想が何だったのかを意識するといいよ」という話をしていました。
ちなみにアメリカの医学生の平均正答率は6割強ですが、最初は30-40%くらいしか取れませんでした。いまUWorldを解き進めていて、自分の正答率に不安を覚えている方もいるかもしれません。大丈夫です、そういうものです。
UWorld1周は半年くらいで終わらせる予定だったのですが、実習が忙しくなったり、夏休みに海外旅行をしたり、Splatoonでシャケを狩ったり、メロンをくっつけてスイカにしようと頑張ったりでモチベーションの波があり……結局解き終わったのは年末でした。
1周終了時点で累積正答率は50%でした。
2023年9月〜10月 受験手続き
勉強と並行して、受験の手続きを進めました。
このあたりは先述のnoteや、セザキング先生のブログなどに詳しく書かれています。
僕の場合はかなりスムーズに進んで、ECFMG IDの作成開始から受験日の確定まで1ヶ月強でした。このあたりは所属する大学によっても変わるので、最低でも2ヶ月、長くて3ヶ月くらいかかるとみて準備を進めると良いようです。
2024年1月4日 模試を受ける①
UWorldを契約すると、Self Assessmentという模試(40問x4ブロック)が2セットついてきます。
1周ざっと解いた+該当部分のFirst Aidを読んだので、それなりの知識がついているだろうと思い、このタイミングで1度模試を受けることにしました。
結果は58%、Scoreは205でした。
合格Scoreは196なので一応超えてはいますが、目安となる正答率65%は下回っており、Self Assessment 1はスコアが高めに出るという情報もあったので、まあまあ焦りました。
この時点で受験日(1/28)まで4週間を切っていたので、コンパクトに効率よくスコアを伸ばす方法をと考え、1周目でIncorrectだった問題のうち、頻出分野(Pathology, Pathophysiology, Physiology, Pharmacology, Microbiology)と特に苦手だと感じていた分野(Immunology, Biochemistry)のものを解きました。問題数を絞った分、1周目より解説とFirst Aidは丁寧に読むようにしました。
また、頻出かつ苦手な分野についてはノートにまとめたり、First Aidに載っている表に緑マーカーを引っ張って赤シートで覚えたりもしました。
参考になるかはわかりませんが、以下に個人的に覚えるべきだと思った分野を列記しておきます。
2024年1月19日 模試を受ける②
本番まで1週間ちょっとのタイミングで、もう1度模試を受けておくことにしました。
結果は71%、Scoreは232でした。
Self Assessment 1がギリギリで、冷や汗をかきながら勉強していたので、この結果が出てかなり安心しました。
ここでボロボロだったら試験を延期(有料)しようかとも思っていたのですが、特攻することにしました。
直前1週間も特に勉強のスタンスは変えず、Incorrect問題を消化することと、ノートにまとめた分野の暗記に努めました。
また、本番のUIの確認のため、公式のPractice Questionsも解きました。
形式はUWorldとそっくり(というかUWorldがめちゃくちゃ頑張って似せてる)です。
2024年1月28日 いざ本番
いよいよ試験日です。パスポート、Exam Permitなる書類を持ち、途中のコンビニでおにぎり2個、お茶、ブドウ糖補給用のラムネを買って、いざ御茶ノ水のテストセンターへ。
日本でUSMLE Step1を受けられる会場は東京・御茶ノ水と大阪・中津の2ヶ所しかないようなので、お住いの地域によっては前泊することになるかもしれません。
8:30までに到着するよう案内がありましたが、8:10くらいに着いたらそのまま受付して入れました。
同じ会場ではUSCPA(アメリカの公認会計士試験)を受ける人が多かったようで、僕もUSCPAの案内を渡されかけました。
厳重な本人確認、ボディーチェックを受け、いざ室内へ。
試験室にはパソコンが20台くらいずらっと並んでおり、その中の1席に案内され、試験開始です。
USMLE Step1は40問x7ブロックを、計8時間の制限時間で解いていく試験です。各ブロックの制限時間は1時間ですが、早く解き終わった場合はブロックを終了し、残り時間をbreakに加算することが出来ます。
各ブロックを解き終わるごとに、休憩をとる(室外に出られる)か、そのまま次のブロックを解き始めるかを選ぶことが出来ます。僕は2ブロック解くごとに休憩し、4ブロック解き終わったところで昼食を取りました。
休憩時間をどう使うかについては、事前に戦略を立てておくと良いでしょう。
問題自体の内容は口外すると怒られるっぽいので言えませんが、難易度はUWorldと近いかと思います。体感として、「さすがに合ってる」と思った問題が50%、「まあ合ってるんじゃね……?」が25%、「全然わからん!」が25%といった印象でした。
Step1には日本のCBTと同じく、正答率調査のために出題され、採点対象にはならない問題があると言われています。ということで、激ムズ問題に当たったときは「まあ除外問題かな〜」という気持ちで向き合うことにしました。
かくして16時過ぎには試験を終えました。
晴れ晴れとした気持ちで帰宅し、フレンドの間で爆流行りしていたパルワールドを4時間遊びました。
2024年2月14日 結果発表
試験結果は一般的に2-3週間後、水曜日(アメリカ時間)に発表となることが多いようです。
僕の場合も2月14日水曜日の夜中にメールが来ました。
震える手で開いたScore report上に燦然と輝く"PASS"の文字。さすがに嬉しすぎてパルキアみたいな声が出そうになりました。
現状と今後
現在5年の3月です。
USMLEの勉強をしている間、日本の国試の勉強は完全に放置していたのですが、118回国試が終わったあたりで「さすがにやばいかな……」と思い、QBオンラインの1周目問題を解き始めました。
現時点でUSMLEの勉強の成果が活かされていると最も感じるのは、感染症分野です。
CBT時代はかなりの苦手分野だったのですが、USMLEに向けて白目剥きながら知識を叩き込んだおかげか、1周目から8割くらいの問題はサクサク分かるようになっていました。何類感染症とか、出席停止が何日か、みたいな公衆衛生的な部分は歯が立ちませんが……
それ以外の部分も、昔ほどの抵抗はなく知識が入ってくるような気がします。USMLEの知識が直接活かされるというよりは、解剖や生理の下地がしっかりした結果、勉強を進めやすくなった、という表現が適切かもしれません。でも基礎医学から真面目に講義聞いてたら元々こうだったのかな…
実際にアメリカで臨床をやっていくかはまだ決めていませんが、日本で働くにしても、たとえばマッチングでの話題にはなるかもしれないし、英語の論文を読む機会はこれから増えてくると思います。そういった場面で、USMLEを頑張った経験が役に立てば良いな……と思っています。
以上、長々と書かせていただきました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
ぜひUSMLEにチャレンジしてみてください。