駒場祭本冊子についての色々

パズル党東京支部(パズ同)に色んな縁があって所属しているホームです
毎年、五月祭と駒場祭にて公開されるパズルの冊子に何問か寄稿させていただいていて、先日オンラインで開催された2021駒場祭の冊子にも参加しています。下のリンクから解けるので是非
パズ同のツイート パズ同のブログ(冊子のPDFに飛べます)

それで、冊子は問題なく公開されたのですが、元々パズ同はオフラインで展示を行っていたのもあって、自分の作ったパズルの感想や、解いている姿が見られないことにちょっと寂しいものを感じてしまいました
なので熱が冷めないうちに、自分の感想を書くことにしました。自分のパズルの感想が欲しいからこのノートを書いたというわけではないのですが、まあ何となくです

というわけで、まずは自作問の解説です

へやわけ2問目
らくらくが足りなくなるのが目に見えて分かっていたので、どうすれば簡単な問題が作れるかを考えてみて、飛び石定理(2in1×3とか)が一番単純な手筋だろうなという考えに至り、それをメインで問題を作ってみました
結果はおてごろになってしまいましたが、かなり自分好みな問題になりました。あまり好ましくないと世間では言われているけども、どうしても一方的な展開が好きで、左上の繰り返しはもうまさにって感じです。視点が大きく動く点も、最後の伏線回収みたいなのも好みです
まああと意識した点としては、左上から解き始められることと、高級定理を用いないこと(というか飛び石定理しか使わないこと)と、三連禁と分断禁をなるべく入れ込むということです。まあ、詰め込み過ぎておてごろになっちゃった感じもありますが…

ヤジリン4番
難易度についてはあまり意識せず作りました。でもやっぱり高級手筋は使わせないような作りになっています。というかそういうヤジリンが好きなんですよね。例の2in1×3みたいな直ぐに決まる表出だけを使って、ループ禁でするする進めていくみたいなのが解いてて一番気持ち良くて好きです。
でもそういう問題を作るときでも、線や表出の絡みも考えないと決まっていかないようにするので、この問題もそこまで素直というわけではないですね。展開に取り憑かれているのでしょう
まあもう少しすっきりした問題を作りたかったですが、点対称縛りをやるとなるとパターン的に厳しいものがあります
というか点対称人気無いですね…。以前は自分も気にしない派だったのですが、いつの間にかこっち側に来ていました

ぬりかべ4番
実はぬりかべを作るのがかなり苦手でして、どうすれば新しい展開を生みだせるのか、どうすればマンネリ化しないかとか考えて深い沼にハマってしまいがちです。そして道中絶対に出せない没問を作ってパズスクとかツイッターとかに投げるというのを繰り返しがちです。
そんなときは大体、もう数字を縛ってみるかと言って作り始めます。そしたら割と直ぐに出来ました。
それなりに難しいというか、ややこしいのですが、あまり見ない展開が作れたのでまあいいかなという。入口は特に悩んで、どうやれば素直じゃなくなるかというのを試行錯誤しつづけたのを覚えています。最後の方はたまたま吸い込みとか攻防とかをちょこっと入れられてラッキーでした

スリザーリンク5番
今回寄稿した問題の中で一番なんにも考えずに作った問題です。
上げられていた他の方の問題を解いて、もうとにかく豪快な問題を作ってやろうと思い配置を決めました。
というかこの配置にした段階で、唯一解にするために必要な線の動きがほとんど決まってしまうので、もうなんかユニークネスみたいな感じで上手く行くよう数字をポチポチ決めていきました。
そしたらなんか真ん中がいい感じになり、右上もいい感じにループを作れたりしました。左上のブロックの右上の1がお気に入りです。
唯一頭を使ったのは左下で、どうやってループを引き込もうかというのを色々試して、この配置だと多分こうするしかなさそうみたいな形に行き着きました。
で、間違いなく相当な数の余剰ヒントがあるのですが、何故か個人的には気にならなくて、なんでだろうなあという感じです。一個一個のヒント同士が離れていると気になるのかもしれない

Tapa2問目
自分で言うのもなんですが、もの凄くよく出来た問題だと思っています。
シンプルな配置、一方的な展開、分かりやすい入口と手筋、気持ち良さと意外性、上級手筋での締め。もうなんか俺こういうの好きだなあみたいな問題です
でも冷静に見るとあんまりTapaっぽくはなくて、もっとヒント同士の連携があった方がTapaを布教するという意味ではいいよねとは思っています(もちろんそういう問題も好き)
けれどもこういう問題も作れる懐の広さという点で、やっぱりTapaは一番好きなパズルですね。みんなもっとTapa作ろう

シャカシャカ3問目
既におてごろ程度の問題が二つ上がっていたので、少し難易度を上げて作りました。でもちょっと上げ過ぎた感(というかさらに後ろが来るとは)
ほとんどの難しいシャカシャカは三角形をどうやって置くかを考えさせるところから始まるので、ネット上だとほぼ見ない数字表出の入口をやってみようという魂胆でした
それ以降も素直には行かないのですが、序盤から三角形を仮定して進めるという風にはしないように心掛けました。やっぱり白マス確定からの三角形が伸びる展開が好みです
でも後半は例のL字禁止形を入れ込んだり対辺の確定をさせたりと、いい感じで難易度の勾配を付けられたかなと思っています
この問題も例によって点対称なのですが、とにかく作意を保つのがしんどかったです。1や2の効力がかなり弱く、自然発生で確定部分を持ってくるしかないので、スムーズに解けるように配置をチマチマ調整するというのを繰り返しました。そりゃ点対称人気出ないよね

スターバトル4問目
はい、この問題を解説するためにこのノートを書いたみたいな部分もあります。とりあえず制作過程ですが、そろそろ冊子を完成させようと言った段階で高難度スターバトルの枠が空いており、作りますと手を挙げてから、3時間ずっっっっっと盤面に向かい合って出来ました。度重なる複数解の修正で疲れ果てていたのを覚えています
というわけで以降解説です ※ネタバレ注意

まず列の評価が入口です。ここでいう列の評価とは、ある列をまとめて見て、部屋の数と列の数の差を比べるということです。盤面の上半分を見てみると、5つの部屋が組み合わさって、上4行と5行目の4マスを構成しています。となると、上の4行に星を2つずつ入れたとしても、星が2つ余ります。よって、下のはみ出た部分に星が入ることが分かります。同様の議論は下半分でも出来ます(引き算にはなりますが)。
次に、盤面の左半分に注目します。同様に部屋数を数えてみると、左5列に部屋が4つと、ちょこっと右側の部屋2つが侵入しているだけだと分かります。重要なのが、この侵入してきている部屋に星を1つだけしか入れられないということです。つまり、左5列に星を10個入れるには、侵入してきている部屋の両方に星を入れる必要があるということです。
そしてどんどん星が入る場所に黒点を置いていきましょう(この1×2/2×2の中に星が入るという補助記号)。そうすると、上2行に黒点が3つ置かれ、左上の部屋の下にはみ出た部分に星が入ることが分かります。
ここで左下を見てみると、一番左の列には星をもう1つしか入れられないため、部屋の右側に黒点が置かれます。また、その一つ上の部屋を見てみると、左から2,3列目に星が入ることが分かり、既に部屋の右側にある黒点と合わせて、r9c5(上から9行目、左から5列目の意味)が白マスだと分かります。
次にc6,7を見てみます。一番下の部屋を見てみると、既に黒点が1つ入っており、c6,7に黒点は1つしか入れられません。そして上を見てみると、黒点が3つしか置けません(厳密にはもっと置けるけど、領域が重複しないように置いたとき)。よって置ける場所が4つしかないため、黒点が実際に置かれます。
するとc8に星と黒点が置かれ、連鎖してc9にも黒点が置かれます。そしてr9,10に黒点が4つ置かれたため左下の部屋のc1部分が決まります。
ここで右下の部屋を見てみると、黒点の上側に星を置いてしまうと星が1つしか入らなくなってしまうため、下側に入ると分かります。
左下の部屋の黒点と合わせてc10,9が決まり、そこから先は順当に決まっていきます。

長い…
難易度としてはかなり高めなのですが、スターバトルの中ではまだ可愛い方という感覚です。5段階だと4.0といったところでしょうか
スターバトルは他の定番に比べて、難しい問題の考え方が特殊なので、試行錯誤で気付くのは大分厳しいんじゃないかと思い、文章だけですが解説してみました。自分も最初の頃、トケタの問題を見せられて何も分からなかった記憶があります(今もそうかもしれないけど)

というわけで解説はこの辺にして、本冊子に載っている自分の好みだった問題についてそれぞれ少しコメントさせていただこうと思います

フィルオミノ5番 (Apppp!!さん作)
こういう、大きい数字が反発とかでギチギチに決まっていくフィルオミノが好きなんですよね。最近の流行は発生メインの問題だという印象なのですが、表出数字同士がぶつかり合って伸びていくのに自分は一番気持ち良さを感じます
展開の種類も豊かで、フィルオミノの色んな楽しさが詰まってます
コンセプトもサイコロで可愛い

フィルオミノ7番 (ゆずっこさん作)
盤面を見ただけで何かありそう…と感じさせるような配置で、序盤は素直に決まっていきますが、徐々にもしや…と思わせて、こう決まるんじゃないかとワクワクしながら進めていくと最後まできれいに解ける楽しい問題でした
全体を見渡しながら推測を交えつつ解く必要があり、非常にゆずっこさんらしさを感じました

ヤジリン5番 (もやさん作)
ヤジリン3番もそうなのですが、とても0の使い方が上手で、ループ禁の面白さが存分に感じられる問題となっています。最後の手筋の再利用も自分の好きな要素です。
あとなんというか、ミニマリズムに良さを感じました

ダブルチョコ1番 (もやさん作)
長方形の連鎖!ダブルチョコの良さを簡潔に表せている問題だと思います。
注目して欲しいのは数字の置き方で、ダブルチョコを初めて解く人に、領域を広げて切り分ける感覚を、左上から順番に分かりやすく伝えられています。こういう心づかいにあふれた問題を見るとすごいなあと感動してしまいます

シャカシャカ2番 (もやさん作)
めちゃくちゃ気持ち良い…
大きい長方形が自然に出来るのも好きだし、最後の2×2が発生するところも好きです。数字の配置が絶妙ですね
白マス発生と黒マス発生のバランスが丁度よくて、とにかく解き心地がよかったです。やはりテンポのいいシャカシャカには他のパズルには無い魅力がありますね。でもそれでいて単調じゃない。すごい

よみどおり2番 (ゆずっこさん作)
ゆずっこさんの遊び心を感じました。ネタバレになるので控えめですが、おもしれーって感じです(伝わらない)。アイディアがすごい
よみどおりは、線が他のパズルには無い動き方をするので、そこが上手く使われた問題が好きです。この問題もそうでした

というわけで、こんな問題が好きだったーという感想です
冊子には他にも面白い問題がたくさん載っていますので、是非解いてみてください!


最後に少し関係ない話になるのですが、パズ同の冊子のようなもの(一般には文化祭で公開されるパズル冊子)は、パズル界を見渡しても意外と存在していないし、とても重要なものだなと考えています
何かと言うと、複数の定番ジャンルで、幅広い難易度を網羅したパズル集ってほとんど無いんですよね。これはパズル界を広げるという意味では、一番ベースになるものなんじゃないかと思っています

当然ネット上では数多くの定番が出題されているのですが、難易度に関して不親切な部分も多いと感じています。パズルを初めて解く人に対しては、適切な難易度勾配を設定する必要があると考えていて、それはパズルに慣れた人でないと難しいものがあります(慣れた人でも難しいのはそう)

一方ニコリは難易度勾配の面では完璧で、どの出版物でも高いクオリティを維持されているのですが、どうしても手に取るまでのハードルが高く、そもそも多くの人の視界に入っていないという現状があります。また、しょうがない一面もあるのですが、ニコリを解いている内は高難度のパズルにリーチしづらく、パズル界のごく一部にだけ留まってしまうという問題を抱えています。広大なパズル界にもっと目を向けてもらうには、どこかで深い世界に触れる機会が必要だと考えています(それがネットという人は沢山いるのですが)(自分もそう)

そういった意味で、パズ同の冊子は初心者を取り込んで、そのままより深いところに引き込めるパズル界への最適な入口なんじゃないかなと捉えています
とはいえ、この冊子に欠点が全くないというわけではなくて、問題数が限られているために難易度の勾配がやや急になっているパズル種があったり、やっぱりパズル界の存在を直接的に認識しづらかったり、”パズルが作られている”ということに実感を抱きづらかったりと、足りない点はあります
それでも、多くの人が集まる場所では上記の問題は解決できると思っています。パズルは一人で解くものですが、その感情を共有するのは一人では出来ません。そもそも、パズルを作って解くというプロセスも、人と人との関わりなのです。パズル界の本質は、パズルに集う人々の営みであって、あの大教室には必要なものが全て詰まっていたように思っています

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