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北斗七星の輝き〜定山渓ビューホテルを巡る一考察(3)

 グランシャリオ(Grand Chariot)はフランス語で「北斗七星」を意味するという。ググれば、北大の近くにも「グランシャリオ」を冠した集合住宅があるし、今後、言及することになる重松清の小説『カシオペアの丘で』の冒頭にも北斗七星の話が登場する。日本にもグランシャリオの時代が確実にあったのだ。

 ビューホテルには、15時にチェックインをして、気がつけば19時を過ぎていたと思う。文字通り息つく暇もない。「24時間闘えますか」よろしく、労働の裏側(バックヤード)にある余暇も、また戦場である。

映画「平成狸合戦ぽんぽこ」の一場面より。人間との戦いに敗れた狸の一部は人間に化けて、サラリーマンとして生きる道を選択する。

 部屋を出て、食堂がある本館1階のだだっ広い廊下を歩く。右手にはゲームと卓球のコーナー。その先には最大900名が収容可能な「ビューホール」、その左手には今年の6月にオープンしたクラブ「ムーンリバー」とカラオケBOXがある。その先に見えてきたのがお目当ての「ロイヤルグランシャリオ」だ。

 筆者は利用したことはないが、そこはまるで、寝台特急北斗星の食堂車「グランシャリオ」を拡張したような空間である。そのスケールに圧倒されつつ、まずは車窓が見える席に腰掛け、乾杯のビールを注文しに行く。私と古玉君は「サッポロクラシック(SINCE 1985)」、宮ちゃんは「SORACHI 1984」を注文した(筆者はこの「SINCE~」に弱い。SINCEフェチなのかもしれない)。その後は、世界をひっくり返したような、ビュッフエコーナーの色とりどりの料理の数々を貪る。「まるで、映画『千と千尋の神隠し』の冒頭のシーンのようだね」。そんな会話を交わしたように思う。
 近年のホテルビュッフエはローカル色を出すなど、各ホテル・各地域間で差異化を追求しているが、ビューホテルはそんなのお構いなし。我が道を行く。産地がどこであるかよりも、まずは品数。わたしたちが行方不明であること自体が生きる根拠であるかのように、世界を提示するビュッフェ。まさに王道。ライブキッチンは「寿司」!「天ぷら」!「ローストビーフ」!産地は不明。不明であるからこそ、ビューホテルの夢に浸っていられる。オニオンリングは、分厚い衣がついて、消火器のような巨大なケチャップタンクから、ドバっと赤い液体をかける。モスバーガーの「オニポテ」では二本しか入っていない稀少なオニオンリングも、今夜は無限にある(ように思える)。ビュッフェコーナーの一角には、魚介のマリネやカナップなど「大人の酒の肴」にピッタリな小品が無数に並べられており、全方位対応である。きっとクラシック飲み放題のプランにしたら、無限に消費して、放蕩するのだろう。また、「ガパオライス」や「チキン南蛮」等のエスニック・地中海特集コーナーもあったが、なぜその特集が、この場所・この季節に配置されているかもよく分からなかった。そもそも季節も気候も関係ない。ここは真冬の定山渓からも守られている南国のグランシャリオなのだから。
 homeport冒険団、通称「ズッコケ三人組」は、最初の乾杯をしたものの、あとは、ビュッフェの往復で忙しない。まさに「24時間闘えますか?」の様相を呈している。季節感や場所性を度外視したロイヤルグランシャリオの幻想に取りつかれた3人は、色とりどりの料理を皿の上に無秩序に配列しては、席に戻り、取り留めもない会話に興じ、また戦場に戻っていく。その繰り返しの中、あっという間に時間は過ぎていき、時刻は20時に近づいていた。途中、アジアからの団体客が近くの席に横一列に並び、グランシャリオの夢をただ無造作に身体に放り込んでいた。ズッコケ三人組は、急いで食事を切り上げ、21時でクローズする「JOZANKEI NATURE LUMINARIE 2023」へと足早に向かった。


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