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【読書記録】「手づくりのアジール(青木真兵 著)」②

 【読書記録】「手づくりのアジール(青木真兵 著)」①

 このマガジンは「ルチャ・リブロを読み直す」と題した読書会の記録と記憶を残す場所である。「ルチャ・リブロ」とは青木真兵さんと青海子さんが営んでいる奈良県東吉野村の人文系私設図書館ことである(青木さんのXの名前は「青木真兵/ルチャ・リブロ」となっており、自分自身が「ルチャ・リブロ」であり、「ルチャ・リブロ」が青木さんでもあるのかもしれない)。
 この読書会では、お二人がルチャ・リブロでの生活を通して生み出してきた著作を取り上げていく。

 読書会の相棒は、田中伸之輔くん。2023年7月に開催された「文学フリマ札幌」で、『研究的実践を組みなおす』というタイトルに魅かれ、購入した著者その人である。私はその直前まで、過去10年以上に及ぶ体調不良に悩まされていた。「博士論文を書きたい」がいつしか「書かなければならない」という外野(社会)の声に圧倒され、生きる上での至上命題になっていた。

 その延長線上で、当時の私は山形県長井市の地域おこし協力隊として活動していた(地域おこし協力隊活動レポート)。札幌と長井を「行ったり来たり」する中で、私はまたもや体調不良に襲われ、任期途中で活動を辞めることにした。その端境期に訪れたのが、札幌コンベンションセンター*で開催されていた文学フリマ札幌である。
 おそらく、当時も風邪でそれほど体調がよくなかったはずだ。出展された作品をじっくりと眺めたり、各ブースの店主ともさほど会話を交わすことなく、一通り眺めて気になった作品を購入し、家(homeport)に帰ってすぐに寝込んだことを覚えている。
 そのとき、なぜ『研究的実践を組みなおす』というタイトルの本を手に取ったのか。それは、どこかで「研究的なもの」に対する未練があったからだと思う。では、その「研究的なもの」とは一体何なのか。
 「研究的なもの」の表皮、つまり、社会的な部分には、肩書や名声、所得などのモノが纏わりついている。それは、この社会に生きている以上、完全に引き剝がすことはできない。私自身は、もともと大学の研究職という肩書が欲しかったわけでなく、大学院に入って研究の面白さに気づき、修士課程を修了しても、ずっとその時間が忘れられず、(世の中的には研究職の一種である)コンサルの仕事をしながら、博士課程に進学した。その過程で体調を崩すことが多々あり、気づいたら履歴書的には「退職を繰り返す人」になり、どこか「所在なさ」がつきまとうようになった。それは、身体的な外傷ではない。しかし、この社会に生きている以上、社会的外傷としてかさぶたのように残り、ときおり疼き、文字通り「胸が痛くなる」。
 一方で、体調を崩しながらも、肩書では片づけられい「研究への渇望」が自分の内部にあったとも思っている。それは一言でいうならば、「いい演技をすること」だ。北大の大学院で研究している生活自体が、無理なく他者や世界と関わっている状態として、そこに在って、ただそれを続けたいと思っていた。

 第1回の読書会では、『手づくりのアジール』の冒頭「「戦うために逃げるのだ」ーー二つの原理を取り戻す」(P15-35)を土壌に対話を行う。相棒の田中くんは、下記の部分を読書ノートで引用している。

(自宅を図書館にした)なによりの理由は、図書館で働いていたころの妻が、一番活き活きと楽しそうにしていたからです。であるならば、そういう環境をつくってしまえばいい。薬を飲んだりカウンセリングを受けたりして本人だけが変わるのではなく、かつて力を発揮できる好きな場所があったのなら、その要素で「世界」自体を構築してみたらどうだろう。

同著P18より。カッコ内は引用者補足。

 私にとっての力を発揮できる場所は、2008年~2010年まで生活していた北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院の「観光創造専攻」という場である。その場を一つのモチーフとして、大学とまちの境界線上に位置する場所に居を構え、2023年6月30日にその場所を、そして私自身を「homeport」と名づけることにした。副題は「北20条にあるもう一つの母校(港)」である。これは、私自身がこの社会で生き続けるための静かな闘争である。
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*札幌コンベンションセンターは2003年の開業から20年を迎え、現在大規模改修工事中である。全国、世界各地から無数の人や組織を受け入れ、イベントが終わると更地の状態に戻っていく。その繰り返しを営むコンベンションセンターも年を取り、メンテナンスを行う。


「ルチャ・リブロを読み直す」第1回読書会
課題図書:青木真兵(2021)『手づくりのアジールー「土着の知」が生まれるところ』晶文社
第1回:「「戦うために逃げるのだ」ーー二つの原理を取り戻す」(P15-35)
2024年4月15日(月)21:00~24:00(予定)
会場:homeport(北20条)or オンライン
どなたでも参加可能です。参加希望の方は下記までご連絡ください。
tourismusic.station@gmail.com

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PROFILE
山崎 翔(やまさき しょう)
1985年生まれ。幼少期を多摩ニュータウンで過ごし、「地元」に関心を持ち、やがて、それが当事者研究であることを自覚し、現在に至る。早稲田大学社会科学部卒。観光学(修士)。北海道大学大学院観光創造専攻博士課程単位取得退学。主たる研究対象は「ローカルフェス主催者(organizer)」。これまで一番長く続けた仕事は、行政のまちづくりを委託されるコンサルの研究職。2023年6月30日「homeportー北20条にあるもう一つの母校(港)」を開校。

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