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もしブライアン・ジョーンズが幸せだったら?

<Rolling stoneブライアン・ジョーンズの生と死>という映画を見てきました。

東京ドームで行われたストーンズの初来日公演で、前から2列目と言う超ラッキーなチケットを購入することができ、手を伸ばせば届きそうなところでミックやキースが走るのを見て狂気乱舞したのがかれこれ四半世紀前。

私が1番好きなのはミックテイラー在籍時のストーンズ。だからブライアン・ジョーンズについては、正直あまり知りませんでした。

しかしこの映画を見て、ブライアン・ジョーンズがメンバー募集をして作ったバンドがストーンズであることや、民族音楽を初めてブリティッシュ・ロックの中に取り入れた先駆者が彼であったことがわかりました。

さて、映画のメインテーマとは異なりますが、心理の専門家の視点からブライアン・ジョーンズの人生を見たときに、あのように疎外感を感じ、孤立する流れになる事はごく自然なことだと思ったのです。

母親が妹を溺愛し、自分のことをあまり構ってくれなかったという経験から、家庭の中に居場所を感じられなかったブライアン。

ミックとキースが作った曲がヒットするようになると、ファウンダーでリーダーであるブライアンではなく、ソングライターである彼らの方が脚光を浴び主導権を握っていくことに。

「ストーンズは俺のバンドだ」「俺がリーダーなんだ」なのに、どうして…、とブライアンが葛藤を抱えるのも無理はありません。

彼にとってのキングダムになるはずだったローリング・ストーンズは、あろうことか、彼の生まれ育った家庭のような有様になってしまったのです。いや、なってしまったというよりも、そうしてしまったというのが正しいかもしれません。

ではもし彼が両親からたっぷりと愛情を注がれ、満たされた幼少期を過ごしていたとしたらどうでしょうか。

そうするとバンドの中で同じように他のメンバーがヒット曲を作ったとしても「お前らのおかげでストーンズが盛り上がってとてもうれしいよ。感謝してるぜ」と彼らを賞賛できたかもしれません。自分がリーダーとして脚光を浴びることに固執するのではなく、バンドのファウンダーとしてみんなを盛り上げることができた可能性はあるでしょう。

けれども、そもそも満たされた幸せな幼少期を送っていたら、果たしてロックミュージシャンの道を選んだのでしょうか?おそらく彼は、両親が愛し推奨するクラシック音楽の道に進み、カウンターカルチャーであるロックミュージックに目覚める事はなかったのではないか?と私は思うのです。

実際はどうだったか、そういうシチュエーションになってみないと分かりませんが、あの幼少期を過ごしたからこそ、大いなる欠乏感を抱えていたからこそ、抑圧された彼の潜在意識の中で感性や表現力が研ぎすまされ、才能が開花して行ったのではないか、というのが私の見解です。

私がトラウマを根本解決するカウンセリングを学んでいた時にこんな話を聞いたことがあります。

<自分の存在価値が感じられない>という課題を解消する場合、アーティストとしての才能が損われてしまう可能性があるため、クライアントがミュージシャンをはじめとする表現者の場合は事前に伝えておく必要があるというのです。

つまり「私はここにいるんだ!」「見てくれ!俺の生き様を!」と言う心の叫び、自分の存在価値を証明しようとする無意識の力が音楽表現につながっているわけです。愛情に対する飢餓感が解消されて心が満たされてしまうことで、少なからず音楽的才能に変化が起こることは想像に難くありません。

ブライアン・ジョーンズが両親から愛されて満たされた幼少期を送っていたら、ストーンズメンバーとの間にあんな摩擦を起こさずに済んだのに。と言う見方もできますが、そもそも満たされた幼少期を過ごしていたら、ストーンズは誕生しなかったことでしょう。

<子どもは親を選んで生まれてくる>という考え方がありますが、まさにブライアン・ジョーンズは音楽シーンに大きな影響をもたらすために、そしてそのために必要な飢餓感を得るために、あの両親を選んで生まれてきたと言えるのではないでしょうか。

100%メンタルのバランスが取れている人など存在しません。みんなそれぞれいろんな課題や葛藤を抱えながら生きています。もちろんそれを解消していくことも人生の質を高めるために大切なことです。

そして同時に、その課題や葛藤を抱えている自分だからこそできることがある。そう考えてみると、自分が自分である理由、自分の人生の意味を見出すことができるのだ、と私はあらためて思いました。

ありがとう、ブライアン。あなたのおかげで私はロックと出会い、ギターと出会い、ロックを愛する仲間たちと出会うことができました。

K'cinemaから、三々五々と夜の街に消えていった元ロック少年、ロック少女たちは何を想ったのだろう・・・

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