つばきについて

(あなたの好きな音楽について、というテーマで文章を書いた時のものです。時期は2017年4月29日です。)

私は、”つばき”というロックバンドが好きだ。一生大好きだ。
今つばきは一時活動を休止している。ギターボーカルである一色徳保が脳腫瘍を患い療養するためである。

つばきは結成して今年で17年目になる長いバンドだ。
2000年に結成し、2005年にシングル「昨日の風」でメジャーデビューを果たす。2010年に事務所を辞め自分たちで活動を始めたが、その年の12月、ギターボーカルである一色徳保に脳の病気が発覚し、活動休止となった。その後同世代のバンド達の支えによって「つばきフレンズ」が結成されつばきの音楽を鳴らしてくれた。
2013年には一色に麻痺が残りギターが弾けない状態になるも歌声を武器に、ギターサポートを迎えて活動を再開した。2014年には「真夜中の僕、フクロウと嘘」をリリースしツアーを行なった。そして15年目になる2015年に「正夢になったフェス」を開催し、15周年ワンマンツアー、会場限定CD「君は夕暮れの風の中」をリリース。2016年に一色に脳腫瘍の再発が発覚し再手術。そして2017年1月にLUNKHEAD、LOST IN TIME、セカイイチといった盟友との対バン「正夢になった夜vol.18」を以って再度正式に活動休止を発表し現在に至る。

私がつばきを知ったのは2005年に発売した「スタイル」という曲がラジオでプッシュされていて聴いたからである。当時12歳だった。
小学生だった私にとって、それまで音楽といえばテレビの主題歌であったり、習うもの、であった。だからラジオから流れてくる音楽は特別に感じた。
CDを買ってもらうことは出来なかったり他にも欲しいものがあったので、ラジオから流れる音楽をカセットテープに録音してよく聴いていた。
ある日「スタイル」の次のシングルである「花火」が特典付きだったので最寄駅前にあった今はもうないディスクユニオンで買った。このシングルには「ココロ」と「運命と花」という曲も入っていて、特に「運命と花」に衝撃を受けて何度も繰り返し聴き、他の曲も聴いてみたいと強く思った。
中学に上がるときに音楽プレイヤーを父親が与えてくれたので私はそれに好きな曲を入れた。容量は今思えば4Gくらいだったと思う。中学生から電車通学だったので登下校はずっとイヤフォンをしていた。
2006年ごろ、下北沢shelterでのつばきのライブに行った。小さくて狭くて人が多くてステージはよく見えなかったけれど、今でもそのときにやっていた「青」が残っている。
2007年に「ブラウンシュガーヘア」というシングルと「PORTRAIT+」というアルバムが発売され、ツアーがあったのでよく行った。学校帰りにCDショップに行き、手に入るだけのCD全てを取り寄せてもらい手に入れた。ライブも行ける範囲で全部行ったし、欲しいグッズも買えるだけ買っていた。
活動10年目となりメジャーからインディーズに戻るも、10周年記念で毎月10日に自主企画や10周年ツアーを行なったりと事務所など関係なく精力的に活動していた。この頃が一番つばきを近くで見ていた時期であり、これからのつばきを応援していきたい時期だった。しかしその年の12月、最後の10周年企画となるライブの前日、一色に病気が発覚した。本当は即入院・手術するべきだったが、ライブは予定通り行われた。私たちファンがその事実を知ったのは、翌日のHPでの発表でだった。
それから決まっていたライブをキャンセル運びになったが、同世代のバンドが代わりに歌ってくれたりしてつばきの音楽を鳴らしてくれ、その活動は「つばきフレンズ」としてライブを行ったり、カバーアルバムを発売したりというところまで至り、一色が再び歌うステージが作られた。その時のあふれんばかりの拍手を覚えている。なんて愛されているのだろう。
やがて治療が終わり体調が落ち着いた2013年に、サポートを迎えて活動を再開した。それまでの空白を埋めるようにたくさんライブをしたり、アルバムを発表した。心の火が全く消えていないどころか燃え盛っていることを目の当たりにした。

つばきは本当に精力的に活動していたバンドで、かつてはメレンゲと共同企画を行ったり、楽曲リリースを行い1年かけてツアーをするというのを繰り返していた。また、一色一人で弾き語りなども行なっていた。ブッキングや企画にも出ていたし、メジャー時代にはカウントダウンジャパンに出たりもしていた。本当に音楽が好きなバンドだと思う。
毎年、一色の誕生日である9月11日には自主企画をしていて、「自分で自分のこと祝ってもらうなんて恥ずかしいんだけどね、いつもありがとう」と笑って言っていた。
また、企画のたびに色々なグッズを作っていて、15周年ではクラウドファンデイングを行い、記念本を作ったり、リクエストワンマンライブを行ったりとファンを大事にする素敵なバンドだ。
ライブでは一色が多くMCをし、ベースの小川が鋭いツッコミをいれつつ、ドラムのおかもとが後ろで黙って微笑んでいるという図が多かった。一色の毒のあるトークにお客さんは終始笑っていて、それがなんだかいつも楽しかった。
また、一色はInstagramには毎日写真をあげていて、それは特に気取ったものではなく、自宅からの窓からの風景や、道端の花、食べたもの、といった生活が垣間見えるところが、一色が見ている世界を共有できるようで、私を含めたファンの人は好きだと思う。

つばきの音楽は色々なチャレンジをしつつも、一番最初の「来る朝、燃える未来」から芯のようなものが何も変わらないと私は思う。少し切ないメロディーと自分は自分だというまっすぐな歌詞。ギターとベースとドラム、そして歌声、それがあれば大丈夫とでもいうような混じりっけのないサウンドは音源は音源で聴きやすく、ライブではストレートに届く。
私はとにかく歌詞に救われている。自分のことを歌われているような気持ちになる。歌詞のある音楽で一番強い音楽はそういう音楽だと思うし、つばきはそれが魅力的なバンドだと思う。
歌詞にはよく「夜・雨・光・空・青・風」などが出てくる。それは誰の世界にも当たり前にあり、だけど注視すると少し特別になるもの。何か自分の気持ちや記憶が溶けているもの。
夢を見たり、諦めたくなったり、それでもやめられないものがあったり、そういうどうしようもないものを背負って前を向こうと鼓舞する、というのを繰り返し色々な表現で音楽を鳴らしている。
それはまさにつばきの活動が体現してくれているのだ。
手術後の一色さんは左半身が不自由で、杖をついて歩いている。私たちには想像もつかない手術やリハビリ、生活での不自由さがあるはずだ。それなのに活動再開後、つばきだけでなく、個人名義でもアルバムを制作し、ライブも行っていた。それは自分が活動できない間に他のメンバーがサポートや他の活動で力をつけていたから自分も負けてられない、といった思いや、ソロでの活動でつばきにも興味を持ってもらいたい、といった前向きな思いがあるからだ。
活動休止を発表するときも、「楽しみにしてくれていたのに、迷惑かけてごめんなさい。大丈夫だから。またね。」といったようないつも通りのこちらを気遣う言葉を送ってくれた。
つばきにはたくさん笑顔にしてもらって勇気をもらった。つばきのおかげでいろんなバンドに出会うことができた。好きな音楽がたくさん増えた。音楽はすごいことを教えてもらった。
つばきはそういうバンドです。


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