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PERCHの聖月曜日 55日目

公共の役に立つ人間をめざす意欲–––人々がともに暮らす社会をめざす人類共通の意欲
孤独感が成功によって和らぐことはなく、
むしろ酷しさを増す
作品委嘱にとって理想的な条件
展示される場も、作品も未だ存在しない。
自らを欺きふたつが一致する奇蹟を期待して
計画を仕上げようとする意欲

1958年の春のこと、一本の電話がかかってきた。話を聞いてみると、[パブリック *ロスコが横線を引いて消している]プライヴェートな部屋として使用される[パブリックな *ロスコが横線を引いて消している]空間全体を埋めるような作品の依頼だった。わたしが要求した条件はただ一つ、部屋が[プライヴェートな *ロスコが横線を引いて消している]閉ざされた空間であること。閉ざされた空間をあたえられ、自分の作品でそれをとりまくことができるなら、日頃から心に抱きつづけた夢が実現すると以前から主張してきた。部屋がダイニング・ルームというのも気に入った。そう聞けばたちどころに、フラ・アンジェリコの壁画のあるサン・マルコ修道院の食堂が想い浮かぶからである。
直感的にまず感じたのは、この類の申し出につきものの、作品のあつかいにまつわる約束事全般に対する不信感だった。そこで契約書の第一項に、依頼主が作品を手放したいと願う場合には、作品はわたしに売り戻さなければならないと規定した。このときすでに、依頼主が我慢できないような絵を描いてみたいという希望があったのである。この願いは、勧められればどんなものでも口に入れ、噛みしめる貪欲な反芻動物の胃袋を嫌悪する気持ちがあった。今や何物もショックや不快感をあたえることはできない。どんなものでも審美性を口実に、消化され消費されてしまうのである。
外部から隔てられた場所(*ロスコが下線を引いている)、しかも完全にわたしのものである場所に絵を描いてみたいという欲求がわたしのなかに存在したことは、はっきりしている。
手始めに描いた何点かは、以前からのスタイルのままの絵だった。しかしまもなく、従来の絵では、用が足りないと気づいた。公共の役に立つためには、これまでとは異なる心構えが欠かせない。どこに置くというあてもない絵を、さらに何枚か描いた。しかし場所が特定され、それが不変のものとわかり、公共の場の多様性まで見通せたところで、新たなイメージをつくり出さなければならなくなった。

ーーーマーク・ロスコ「シーグラム壁画の委嘱に関するメモ」『マーク・ロスコ』企画・監修 川村記念美術館,淡交社,2009年,p192

The Healing of Palladia by Saint Cosmas and Saint Damian
Fra Angelico
c. 1438/1440


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