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夜によせる

夜に呑まれて紺色の泉へ落ちた
水面のほうはすこし明るい
仄白い三日月が月光のかけらを零れさせている
深い泉の底へは星のささやきは沈まない
たゆたう静けさ
溶ける輪郭
波紋に揺られた水流が頬をなでる
落ちている
そのさきはくらい
黎明
夜より暗いところへ落ちる
泡の砕ける音がする
夜の音を聴いている
開け放した窓から
静けさと遠くの喧騒と夜の空気が染みていく
青い硝煙
ミントとバニラのまぼろしをみる
葡萄にかたどるあかりを灯す
かげを生む
夜を聴く
眠らない街
耳鳴りはひそやかに日付の彼方へきたぞと告げる
逡巡
連綿とした意識
新月と夜明け
呼吸をとめて
指さきではつなぎとめられないものがある
風の音
わずかに揺れる雨音
湿る土の温度
縋るあての頼りなさよ
また雨音
風の音
夜は崩れて闇となる
重い心臓
冷えた思考
救済を待つ
薄い空気をかきあつめる
いまだ背を向けとざしている
夜に沈む
琥珀色の懐古
とらえられたままになる
やみに羽化した花の色
赤いしょうびの花の色
褪せた枯葉の落ちる音
さまよう影は通り雨
通り過ぎては落ちていく
低く流るる雲の色
赤いしょうびの花の色
うつりにけりな、いたづらに
うつろの奥にいた揺らぎ
沈黙のまま室外機
冷えた蛍光
無垢の弓削
吐息に夜をうつすように息をひそむる
雨の音
澱をすすぐ水の音
きよらな夜
夜であることに意味はない
記憶
たましいの旋律
水の音
地をたたく浄化の音
音、音、静けさをたたえた夜
甘い雫にちがいない
甘い雫にちがいない
雨のにおいが部屋をみたして
また青に溺れる夢を見て
生きることと死ぬことの
あいだの青にいきている

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