海の話
透明。水晶の名を冠する水際。記憶のなかで最も透明な色。わずかな波音。光をふちどる波紋が揺れる。群青の水平線。うたかたを結ぶ水縹に、めをうばわれる。
すべてが透明な世界の果てでわたしは何を見るだろう。
生涯こたえにゆきつかない問い。それでも問いたい。
世界は何色か。
夕闇の色をフィルター越しに再現することはできない。あるいは、わたしの眼に映るより美しい色が、そこにはある。時間の経過はグラデーション。空には境界線がない。(海にも、陸地にも。)あの闇の色と同じところへ行きたかった。蒼穹より深い虚空のかなたへ。
終わりと始まりは紙一重。光と影。連理の枝。
うつろう陰翳に祈りを。そこはくらく、やわらかいところ。
すべてのいのちのはじまりの夢。
深夜に溺れる。息ができないから、酸素を求めてもがく無力。夜の底には風が吹いている。眠りをもたらす風。ぬるい湿度に蛍光灯。瞬く、明滅。送電線に宿る曙光。いまだ明けないまま走り出す。アイオライトの啓示に燐光。青、褪せないで。
白亜の双璧に理を刻む。
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