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No.40

カーテンの外から、朝がひたひたと押し寄せる
  眠っていて。
透明な朝陽に静寂が充ちる
  眠っていて。
ベッドサイドの写真立てには薄明が似合う
いつか忘れてしまうの?
(いいえ、憶えていられるはず)(きっと)

夢を見ている
さめない夢を
いつか終わる
いのちと名のつけられた、一度かぎりの夢。

八月の空の色は午後三時の光と同じ色をしている
(じきにおわりがくることを知っている)
川面に散るきらめき
半透明のうたかた

一瞬をいろどるものたちの、祈りの声が耳朶を打つ。

(眠っていて)
(白い夢のなかで、揺れていて)

カーテンの向うは世界の総て
癒着した羽でも翔べるように錯覚した
ほら、ごらん
夜が大気を染めてゆく

炎天の残滓は薄れて、青灰色の雲に包まれる
遠く澄んだ蒼穹は呼吸を浅くさせるのに、
 夕暮れと夜明けのあわいにいるときは、
  ひれをのばしてどこまでもゆける。

蜃気楼を映した土瀝青は眩しすぎる

かえりたい
あの水際へ
かえりたい
あの群青へ、冴えた水底へ

どうしたって どうしたって
ここに居場所なんかありはしない
(けれど、うつくしい海の底もまた、わたしの居場所にはなりえない)

それは空蝉
 うつろに視界を遮る梢
それは現し世
 けして醒めることのない夢
(死さえわたしと地上を訣かつことはできない)

蝋の翼ひとつあったなら、あるいは、
いつか征けるだろうか
わたしのたましいの生まれたところへ

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