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傲慢なキャンディー             ~ チチカカ湖の浮島にて ①

アンデス山中の標高約3800mに、琵琶湖の約12倍という巨大な湖がある。その名はチチカカ湖。そこに「浮かぶ」のがウロス島。
ちょっと信じられない話だが、湖に生える葦科の植物トトラを、刈っては積み、刈っては積みして、島そのものを人間が作り出し、そこで日々の生活が営まれている。屋根も壁もトトラ100%の学校や教会もある。現在では、マチュピチュやウユニ塩湖のツアーにもよく組み込まれている観光名所だ。

1998年当時も、数は少ないながらも観光客が訪れる場所ではあった。僕も結構楽しみにしていたポイントで、湖畔の小さな町プーノで、軽食とウロス島の子どもたちへのお土産にキャンディーを買い込み、10人乗りくらいのモーターボートで島に向かった。

チチカカ湖の水しぶきを全身に浴びながら、吹きっさらしのボートが快調に水面を切って走る。隣に座っていたのは、民族衣装をまとったインディヘナ(当時はインディオという呼び方があったが、侮蔑的なニュアンスがあり今は使わない)のおばあちゃん。三度見するくらい、日本にいる僕の祖母にそっくりだった。それもそのはず、インディヘナの人々は、日本人と同じモンゴロイド(アジア系)で、赤ちゃんのお尻には蒙古斑があることまで共通している。

僕は、自分のもつ一番フレンドリーな笑顔で話しかけた。
「ウロス島に住んでいるんですか?」「チチカカ湖は美しいですね!」
だが、おばあちゃんはこちらを見ることもなく、完全に無視。
何か失礼だったかな…と、フレンドリースマイルのギアをさらに上げ、
「僕は日本という国から来たんですが、ウロス島のおすすめは何ですか?」
ここで初めておばあちゃんは、振り向き、憎々しげな目線で僕をにらみつけこう言った。


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