星屑の石

 街は灰色の霧に覆われ、アスファルトは冷たい雨に濡れて光沢を失っていた。かつて音楽が溢れていたこの街は、今は静寂に包まれている。

 少年αは、音楽のない世界で育った。音楽の記憶がなく、街の過去の美しささえ想像できない彼は、孤独を感じていた。誰も彼の話を信じてくれず、心の中の音楽への憧憬も理解してもらえなかった。

 ある日、彼は街唯一の本屋で奇妙な石を見つける。

 星屑のように輝くその石に触れた瞬間、少年はこれまで感じたことのない感覚に包まれた。それは、温かい光のような、優しい音のような感覚だった。

 その石は、少年に音楽をもたらしてくれた。最初はかすかな音だったが、日々石と触れ合うことで、その音は次第に大きく、複雑になっていった。
石のおかげで、少年は初めて音楽の存在を知ることができた。

 しかし、街の人々は彼の言葉を信じてくれなかった。音楽を忘れた人々は、彼の言葉を狂気の沙汰だと笑った。少年はますます孤独を感じ、絶望に打ちひしがれた。

 ある日、偶然、少年は音楽が消えた理由を記した古い資料を見つける。かつて、音楽は人々を支配し、争いを引き起こした。そこで、神々は音楽を奪い、静寂をもたらしたという。

 資料を読んだ少年は、音楽には光と影の両面があることを理解した。そして、もう一度音楽を通じて人々が繋がり、許しあえる幸せな世界にしたいと考えた。

 街に戻った少年は、音楽が消えたのは人々がその力をもてあそんだためだと訴えた。音楽は本来、人々を幸せにする力を持っているのだと。しかし、少年の言葉に耳を傾ける人は誰もいなかった。

 ある夜、少年は石を通して自分が聴いている音楽を奏で始めた。
 最初は小さな音だったが、次第にその音は大きくなり、街全体を包み込んでいった。街の人々は目を閉じ、彼の音楽に耳を傾けた。

 人々は音楽を聴き、忘れていた感情を思い出した。喜び、悲しみ、怒り、愛…様々な感情が、街の人々の心に溢れた。

 まるで街全体に活力が戻ってきたような感覚を人々は感じた。そして、この奇跡的な体験を誰しもが共有していることは、互いの顔を見れば明らかだった。

(了)