なれそめ

 灰色の空を背にした都会の夜。
 ビルの灯りが点滅する中、ふらりとBarに入ったα。プレゼンでの失敗と上司からの厳しい叱責が心に引っかかっていた。
 カウンターに腰を下ろし、琥珀色の液体が彼の心を潤す。

 隣には静かにグラスを傾ける女性が座っていた。
 派手ではないが洗練された雰囲気が漂うその服装。
 αはふと視線を向けるが、すぐに自分のグラスに目を落とした。

 女性が声を掛けてきた。
「お仕事、大変でしたか?」
 優しい声が響く。
 αは思わず愚痴をこぼし始める。プレゼンの失敗、上司からのプレッシャー、そして自己嫌悪。
 女性は静かに耳を傾けてくれた。

「私も最近、辛いことがありました。」
 女性はゆっくりと語り始める。それは、長年の彼氏との突然の別れだった。
「まるで晴天の霹靂でした。信じられませんでした。」

 αは彼女の言葉に共感する。失恋の痛みは、誰にでもあるものだ。
 二人はそれぞれの経験を分かち合い、心が軽くなっていく。

「でも、そんな時こそ、自分を笑い飛ばすことが大切なのよね。」
 女性はいたずらっぽい笑顔を浮かべ、ユーモアたっぷりのエピソードを語り始める。その軽快な語り口に、αは思わず吹き出してしまう。

 彼女の明るさに触れ、αの心は徐々に晴れやかになっていく。プレゼンの失敗も上司の叱責も、取るに足らないことに思え始める。

 女性の表情が曇る。
「あなた、素敵ですね。」
 彼女は切ない声で言う。
「もし良ければ、今度一緒に食事でもどうですか?」

 αは戸惑う。女性は魅力的だが、今はそんな気分ではない。
 そっと断ろうとするが、女性は聞く耳を持たない。

「お願いです。あなたと一緒にいたいんです。」
 彼女の瞳には、切ない願いが込められていた。

 αは複雑な感情に苦しむ。女性の言葉に心惹かれつつも、同時に罪悪感も覚える。
 何をすべきか、彼は途方に暮れ、ただグラスを握りしめた。

(了)