花と嫁

 東京での華やかな生活に別れを告げ、βは地元へUターン転職を果たした。
 大学卒業後、都会の喧騒に飛び込んだβは、そこで夫と出会い、結婚。しかし、夫の転勤に伴い、生まれ育った田舎町へと戻ることになったのだ。

 都会での業務経験を活かし、地域に貢献したいという熱い想いを抱いていたβ。しかし、田舎特有の閉鎖性と同調圧力は、彼女の前に厚い壁となって立ちはだかった。
 変化を好まず、新しいことに挑戦するリスクを恐れる人々。視野が狭く、経済活動も停滞しているこの町で、βの意欲は空回りするばかりだった。

「仕事が楽で給料もらえるのなら、何も文句言うことないだろ。」

 夫の言葉は、βの心に深く突き刺さった。東京で培ってきたスキルや経験は、ここでは何の価値もないのだろうか。
 夢と希望を持って戻ってきたはずなのに、βの心は次第に冷え込んでいく。

 実家の両親に相談しても、世代間の溝は埋められなかった。都会の考え方をする娘の意見に、高齢の父と母は理解を示すことができない。
 かつて誇りに思っていた地元の風景も、今は色褪せて見える。

 夫とのすれ違いは日増しにひどくなり、ついに離婚を決意する。

「田舎には美しい自然があるけど、経済は停滞し、人口は減少している。
 ここに住んでいる人たちは、本気で問題解決しようとしているとは思えない。
 私は片手に花束を持ち、脳死状態で生きていくことはできない。自分の意見や価値観も主張できず、緩やかな死を待つような生き方はごめんだわ。」

 βは、決然とした覚悟で東京への転職を決意する。

 田舎での経験は、夫と故郷を同時に奪い、自分が異邦人であることをより強く自覚させた。都会で生活したβの目には、田舎の風景がかつてとは違って映った。
 美しい自然は確かに存在する。しかし、そこに活気や希望は見当たらなかった。

(了)