ハーバー・ボッシュ法にまつわる悲しい話

井上純一さんの『キミのお金はどこに消えるのか season 2』の最終回に、ハーバー・ボッシュ法という水素と大気中の窒素からアンモニアを合成する方法についての話が出てくる。

このハーバー・ボッシュ法は1906年にドイツ人のフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュによって開発された。アンモニアから硝酸を作る方法はそれ以前に確立されていた。硝酸の大量生産が可能となったことで硝石を必要とせずに化学肥料を安価で大量に製造することができるようになった。そのためマルサスの人口論が過去のものとなったのは井上さんが書かれている通りだ。

一方、硝酸は火薬の原料でもあった。ドイツはハーバー・ボッシュ法によって、海外のチリ硝石に頼ることなく弾薬の製造が可能となった。第一次大戦において、英海軍は海洋封鎖を行いドイツが硝石を入手できないようにしたけれども、ドイツは戦争継続能力を失うことがなかった。

このように非常に重要な功績をあげたフリッツ・ハーバーには、非常な愛国者という一面があった。そのため第一次大戦がドイツにとって不利となってきた状況下で、フリッツ・ハーバーは毒ガス製造を始めてしまう。それも中心的な役割を担って、だ。

それでもドイツは連合国に敗れ、次いでナチスの時代がくる。フリッツ・ハーバーはプロテスタントに改宗していたもののユダヤ人であった。そのため大量殺戮者の汚名を受けてまでドイツにつくしたにもかかわらず排斥されてしまう。

イギリスのケンブリッジ大学の招聘を受けてイギリスで研究生活を送ったこともあるけど、毒ガスによる大量殺戮の責任者にとって敵国であったイギリスの空気は冷たかった。

結局、フリッツ・ハーバーはドイツに帰ることなく、スイスのバーゼルで亡くなった。


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