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#020 ハワイイが舞台の映画「ファミリー・ツリー」にまつわる巡礼

「ファミリー・ツリー」(原題:The Descendants「子孫たち」)は、2011年公開の映画で、ジョージ・クルーニーが主演。
その舞台はハワイイですが、リゾート&アクション映画ではありません。

彼が演じるマット・キングは、不動産取引の法律を専門とする弁護士です。ちなみにマットは通称で、本名はMatthew(マシュー)。
仕事人間のマットは、まじめに仕事に向き合うあまり家庭を顧みることを怠ってきたため、妻エリザベスとは長らく会話がなく、さらには妻に任せっぱなしにしてきた二人の娘たちとも埋めがたい距離があって、家庭は崩壊しかかっている状態です。

母方がカメハメハ大王の最後の直系に当たる、という境遇の彼は、一族が1860年代からカウアイ島に保有し代々受け継がれてきた広大な土地の、唯一の受託者であり、管理の全権を握る立場。
遡ればその富は、ハワイイ王国からの略奪によって築かれたもので、マットは当人の意図せぬ偶然で引き継いだに過ぎないことを自覚しており、そのことへの罪悪感を抱えています。ですから土地によって得た利益には手を付けないことを信条としているわけです。

一方ハワイイの法律では、引き継いだ土地をいつまでも保有し続けることはできず、7年後にはその信託期間が切れることが決まっていることから、ハワイイに最後に残された広大な原野(しつこく言えばそもそもは略奪で得たものです)の売却を考えつつも、どうすべきなのか悩んでいる最中。

そんな中、禁欲的なマットと対照的に奔放な妻エリザベスが、海でモーターボートの事故に遭遇し重体で入院。昏睡状態に陥ります。
主治医からは回復の見込みがないことを告げられるとともに、エリザベスが尊厳死に同意していたことを知らされ、マットは妻の生命維持装置を外す決断を迫られるのです。

このアクシデントを契機に、それまで抑えられていたいろいろなことがあぶり出され、崩壊しかかっていた家族は、そのことによって徐々に修復に向かっていく

と、ざっくりまとめるとこういう話。
いやこの映画、味わい深くて大好きなんですよね。ハワイイの独特な文化的背景がストーリーにきちんと組み込まれていて、それから音楽もすごくいい。
これまでもう何度観たことか。少なくとも10回以上は。

自宅でのDVD鑑賞だけでは飽き足らず、ハワイイへの機内ビデオでもまた観る(2017年)

で。繰り返し観ておりますと当然ながら展開は完全に覚えてしまうため、そうなると、展開を支えるアイテムなどの方に注意の大半が向かうようになるわけです。
具体的には、建物や家具調度品や雑貨、着ているもの、などなど。
それらを鵜の目鷹の目で観察し、検証しています。

検証① マットが駆け下るヘアピンカーブはどこにある?

この映画のひとつのハイライトは、妻エリザベスの浮気を長女から知らされたマットが、そのことを自分に先んじて知っていたに違いない(それなのに自分には黙っていた)妻と自分の共通の友人夫婦の家に、激高を抑えられず怒鳴り込みに向かうシーンでしょう。

マットは邸宅を飛び出すと、緩やかな坂をサンダル履きで勢いよく駆け下り、その友人夫婦の家に向かう途中、ヘアピンカーブをドタドタと不格好に走りながら曲がります。

このヘアピンカーブはどこにあるのか?

マットの邸宅がオアフ島ヌウアヌに建つことは、雰囲気で一目瞭然です。そして当のヘアピンカーブも、景色の感じからしてヌウアヌであることは間違いない、と見られます。
Googleマップでそのカーブに該当しそうなポイントの候補に当たりをつけ、ストリートビューで確認すること数回。
発見しました。

その後、ハワイイ旅の際に実際に訪れてみて、マットと同じように駆け下ってみたことも、いい思い出です。

ならばマットと同じくサンダルを履くべきであった(2019年)

検証② コロア通りの面白い門構えの家はどこにある?

怒鳴り込みに行ったことで、エリザベスの浮気相手が「ブライアン・スピアー」という名前であることだけは判明しました。
さらにはその男の住む家を、長女アレックス(17歳)は知っていたのです。以前に、エリザベスと男が入っていくところを目撃してしまったとのこと。

その家を探すべく、アレックスの記憶を辿ってカハラ地区をクルマで徘徊するマット。とにかくどんな奴なのかそいつの顔を見たい、との一心で。
そんな中、たまたま「ゴールドコースト不動産」の看板を路傍で目にします。

看板に載っていた担当エージェントの名前がまさに「ブライアン・スピアー」であることに、同乗のアレックスが鋭く気付いたのでした。
しかも!そこには顔写真も連絡先の電話番号までも記載されているではありませんか。

この情報を元に、妻エリザベスの浮気相手である不動産エージェント、ブライアン・スピアーと接触を図るべく、彼の勤める「ゴールドコースト不動産」に、マットは客を装って電話を掛けるのです。

このときマットは 偽名「ハーブ・フィッツモリス」を告げておりました。

残念ながら⁡ブライアンは不在で留守電でしたが、マットは方便として「コロア通りの面白い門構えの家」に興味があるので折り返してくれ、というメッセージを残します。
まあこの後、マットは不在のブライアンが家族とともに休暇を過ごしているカウアイ島まで自ら押し掛けることになるんですけどね。

で「コロア通りの面白い門構えの家」というのは、そのゴールドコースト不動産の看板が立てられていた売り物件のことで、この記事のトップに表示している写真がそれです。
ちなみに
I'm interested in your house on Koloa Street the one with the cool fence and gate.
というのが元の台詞。
ウチにあるDVDの日本語字幕だと、「コロア通りの面白い門構えの家のことを聞きたくて」となる次第。

さて。この物件の場所はどこなのか?

映画の架空のストーリーの中では
コロア通り沿い
という設定になっています。
映像からしてカハラ地区だと思われ、実際にカハラにはコロア通りという道が存在します。

しかし、ほんの一瞬の映像から(それを静止画にして)読み取れる道路のカーブの具合や日射の方向、それに街路樹の生え方といった様々な情報と、Googleマップおよびストリートビューをじっくり突き合わせていった結果、
コロア通りにはこれに該当する物件は存在せず、ならば実際は別の道沿いに建っているに違いない
と結論付けるに至りました。

とはいえ、映像はカハラであることはまず疑いようがありません。
コロア通りの近辺に探索対象を広げ、条件に合致する場所をGoogleマップとストリートビューでいくつか丹念に探ってみた結果、うまいこと物件の所在地を特定することができました。
エレパイオ通り沿いです。

と ここまでが、日本を発つまでの事前調査。
⁡その結果を踏まえて実際に訪問してみた次第で。

エレパイオ通りの、面白い門構えの家(2022年)

残念ながら
ゴールドコースト不動産のブライアン・スピアー氏の看板は立っていませんでした。
ま そりゃそうだ。

検証③ ラニの住む家はどこにある?

映画の冒頭、次女スコッティ(10歳)の学友であるラニの母親が、
「娘がスコッティからの嫌がらせメールで迷惑している」
「娘は泣いて帰宅した」
「スコッティから暴言も吐かれた」
と 主人公マットに電話で苦情を訴える場面があります。
母エリザベスが突如として昏睡状態になったせいで、スコッティは精神的に不安定になってしまったらしいのです。

そのラニの家へ、マットがスコッティを連れて形ばかりの謝罪に渋々ながら訪れるシーンがあり、そこでわたくしの観察魂が発動。

作品内では、具体的にどの地区だとは触れられていません。


マットとスコッティの乗るクルマが訪問先の駐車場に乗り入れるの図

ちなみにクルマは、ホンダ・シビックです。
土地絡みで得た金には手を付けず、あくまでも弁護士の収入だけで実直に暮らす主義の人、というキャラクター設定が見て取れますね。

さて。当該宅に到着せんとするクルマ越しに、ごく短い時間しか映らない家、および地形と景色。
それらの情報からカイムキ地区のごく限定された場所だということは察せられ、そこから具体的にGoogleマップとストリートビューで絞り込んで特定するのは、比較的簡単でした。

比較的、というのは、「コロア通りの面白い門構えの家」を見つけ出した際の労力に比べて、ということです。
それはともかく、特定したからには実際に見に行ってみねばなるまい。⁡

実際に行ってみました(2023年)

うちのクルマが路肩に停めてありますが、そのすぐ後ろのパーキングスペースに、映画の中ではマットとスコッティの乗るクルマがヨッコラショと入っていったわけです。

まあファンだからといってこの所在地を特定したうえで実際にここに来てみる人など、おそらくわたくしが世界でただ一人であろう、という気がしますが。

これらの他には、
マットが「コロア通りの面白い門構えの家」に関する電話を掛けた際に不在であったブライアン・スピアーが、その時カウアイ島ハナレイで休暇を過ごしていた貸し別荘
を見に行ったりとか、

マットと同じように 生垣越しにこっそりと窺う(2016年)

ブライアンを追ってそのハナレイにまで押し掛けたマットと同じように、ハナレイビーチでランニングをしてみたり
とか、数えてみればこれまでいろいろと聖地巡礼っぽいことをしていたんだな、と、この記事をまとめるに際し、改めて確認しました。


試しに調べてみると、ファミリー・ツリーの撮影地を巡るツアー的なものは存在するようです。
しかしそれはマットが勤めるダウンタウンの事務所ビルであったり、ヌウアヌにあるマットの自邸だったり、例のヘアピンカーブだったりというところがせいぜいで、前述の「友達ラニの家」とか「コロア通りの(略)」なんていうサブキャラ的なものは取り上げられておりません。まあ興味の方向性の違いってことでしょうか。

興味の方向性の違い、ということでは、これも試しに映画レビューなんぞを見てみると、「ジョージ・クルーニーが出演していながら何も起こらない、ただ景色がきれいなだけの退屈なクソ映画」なんていう感想もあって、まあ人それぞれだなあという感じ。

確かに、映画的に大掛かりな何かはぜんぜん起こることなく、話はただ淡々と過ぎて行きます。
それに、ハワイイの歴史における土地だとか家族の意味合いに関して共感ができなければ、まさに「そのことこそがこの映画の主題」であることが分からず、結果としてそういう評価にもなっちゃうんでしょうねえ。

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