『タルト・タタンの夢』一言感想

タイトルが気になって近藤史恵さんの『タルト・タタンの夢』を借りて読んだ。

読み始めてすぐに、「あ、これは以前見たドラマの原作だ」と気づいた。
何年か前に西島秀俊さんが主演して、ドラマ化されたものを、リアルタイムで見ていた。(全回は視聴していなと思う)
ドラマのタイトルは『シェフは名探偵』。
本のタイトルと違っていたので、読み始めるまで気がつかなかったのだ。
ドラマの原作になっているのは、表題の本以外に、『ヴァン・ショーをあなたに』『マカロンはマカロン』の2冊も原作らしい。

商店街の小さなフレンチレストラン「ビストロ・パ・マル」。シェフ三舟が、客達の巻き込まれた事件や不可解な謎を鮮やかに解く、というストーリー。シェフの三舟のほかに、シェフを慕う料理人・志村、ギャルソンの高築、ソムリエの金子の4人で織りなす日常に舞い込む謎。

収録されているお話はドラマで見ていた内容でもあったが、いい具合に、それらの謎の答えを忘れていた。

読みやすく、1話が長くないのでサクッと読める。
また、お酒は飲めず、フランス料理に詳しくないが、食べたことの無い色々なメニューを想像するのも楽しい。
ガレット・デ・ロワなど、知っているお菓子が出てくれば、それはそれで嬉しい。そして「ガレット・デ・ロワ」は、美味しい。

私の心に残ったセリフは七話目の「ぬけがらのカスレ」に出てくる。
現在、エッセイストとして活躍している寺門小雪が、フランスに留学中、付き合っていた学生のアンリに言った言葉。

・「『愛している』とJe t'aime は違うのよ」
・「日本人は、よっぽどのことがないと、『愛してる』なんて言わないの。もしかしたら、一生言わないで終わるかもしれないことばなのよ」

私にとってもそうだ。よっぽどのことが無いと、言わないだろうなと思う。それぐらい、人によるとは思うが、口にするのは難しい。
文化、言語的なニュアンス、人種、育ってきた環境、個人の性質など、言う言わないの線引きになる理由は色々あると思うが。

アンリが日常にその言葉を発し続けるので、小雪の中では「Je t’aime」の持つ意味が軽く感じられる。日本人的な感覚では普段言わない言葉をまれに言うことで、その言葉に重みがあると思いがちだ。
逆説的にいえば、言い続けることで、意味がある場合もある。

アンリの『Je t'aime』と小雪の中での日本語の『愛している』が、同じだったのかどうかは、読んでいただければわかるので、ネタバレはしないでおこう。

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