福井でのひとり暮らし
シャトルバスに乗った夏の夜は、特別以外のなにものでもなかった。
8月26日、PM7:18。
シャトルバスに乗った。隣の座席には知らない人。
ひとつ後ろには、男女の二人組。
男の子が敬語を使いつつ、グランピングの話をしている。
耳に突っ込んでいたイヤホンをこっそり外した。
人の会話に聞き耳を立てるのはあまり行儀の良いものではないかもしれないけれど、こんな日くらい許して欲しい。
尊くてかわいい二人から癒やしをもらった。
ひとりで永平寺町大燈籠ながしを見に来る人は、少し酔狂な人かもしれない。周りには二人組、三人組、それ以上の人数のグループ。
良いな、と思いながら誘えなかった。
この夜の空は、少しご機嫌斜めで。
そーっとゆっくり川を流れていく燈籠は、強風で全倒れ。
雷が走る空はずっと明るくて、夜の色ではない。
予定より早められた打ち上げ花火は、息つく間もなく爆速で打ち上げられていく。けれど、そんな抵抗も虚しく、強風と大粒の雨が襲う。
こんな予想外が起きるから、人生は面白いのだと思う。
笑ってしまった。
あまりの荒ぶり様に、楽しくなってしまった。
お気に入りのVANSはびっちゃびちゃ。
服ももちろんべっちょべちょ。
ひとりでいてもこんな状況を笑ってしまうのはおかしい気もするけれど、我ながら恵まれた性格しているな、と思った。
シャトルバスに乗った夏の夜。
雷が空を焚き、地面を揺らす爆音を上げる。
大雨の中、揺られてきた。
永平寺大本山のふもとに住んだ。虫を克服した。
夏に似合うちょっとした坂道。
山間から見える綺麗な星空。
ずーっと流れ続ける小さな川。
季節によって入れ替わる虫たちの声。
「自分、不器用で…」と言うけれど、彼なりのやり方でたくさんの愛をくださるお蕎麦の職人さん。
軽トラと柴犬とおじちゃん。
川にやかんを置いて冷やしているおばちゃん。
この景色を味わうには、自分は慌てすぎていたかもしれない。
あっという間の4ヶ月だった。
書いている今は、9月18日、PM10:56。
鈴虫の声が聞こえてくると寂しくなる。
夏が終わってしまった。
1人じゃないときには話し声で聞こえなかったものが聞こえてしまうのがさびしい。
最終日には家に友だちを誘えた。
人間関係の中で生きる力が絶望的に低い自分にとっては、「誘う」のもかなりの勇気がいることで、「断られるかも。迷惑かも。自分なんかが誘える存在じゃないのでは」とか余計なことまで考えて、誰かが誘ってくれるのを待ち続けてきた。
けれど、そんなことを考えるよりも先に、会いたい人、一緒に時間を過ごしたい人が増えてきてしまったものだから、誘えるうちに誘っておかないと後悔するのでは、と自分本位で考え始め、今では、一緒に過ごしたいと思う人を「誘う」側になりかけている。
よくもまぁ、こんな革命が起こるものだ。
昨年の10月からのテーマ「あと一歩踏み出す勇気を持てるように」というものは、もうすぐ卒業なのかもしれない。
荷物をまとめよう。
倍々。
(続?)
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