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全部夢のまま

北海道最強位というタイトル

先ほど、北海道のトップアマチュアを決める「麻雀最強戦2022 北海道最強位決定戦」が終わりました。

私は一昨年のこの舞台で勝ち、ディフェンディングで迎えた昨年は予選敗退。
今年は一番初めの店舗予選で勝つことが出来て、3年連続でこの舞台に立つことが叶いました。

私にとっては、最強戦が麻雀の中心にあります。
とは言え、全国を飛び回る他のアマチュア強豪さんのように、どこの予選でもいいから出て、どこの地方最強位のタイトルでもいいから獲る、というような芸当は腕がないので無理。

それに、私が北海道人だからなのでしょうか。
「北海道最強位」
というタイトルには特に思い入れもあって、今年も他の予選には出ず、これ一本でという気持ちは変わりませんでした。

本来ならばそういうナショナリズムに溺れることなく、他の方のようにたくさんのチャンスを得て、最強位への道を広げていくことの方が理に適っていると思います。

ただね。
たくさん出れば勝てるというものでもないですしね。
効率に背を向けて麻雀に取り組むのは、古い人間の証明なのかもしれません。

そして、古い人間には「時間」がないのです。
麻雀は生涯楽しむことが出来る頭脳スポーツと言われていますが、競技の一線で戦うためには、気力、体力、反射神経、深い思考に耐えうる能力が必要です。
それらはある時期から少しずつ衰えてくるようですが、その衰えの始まりを最近感じるようになりました。

諸先輩方がそれとどう折り合いをつけているのか、また折り合いをつけてきたのか。
いつか先輩方とお話してみたいなと思いますが、私にとってはこの何年かがきっと勝負の季節。
だから、打ち盛りで気力も体力もまだ十分な今のうちに、
「勝ち負けにとらわれず、できることを一つずつ緻密に積み上げる」
事を通じて、最後の一牌を置くその時に悔いが残らないように戦おうと、この一年はそれだけを考えてきました。

自分の状態を計る

場面は東4局。

「千嶋の手が東1局から異様に軽い。これが良いことなのかどうかはわからないけど。」
解説の喜多清貴プロがおっしゃっていました。
まさにその通りで、ただ牌の並びが良いだけで「型」が入らない、嫌な時間が続いていました。

例えば、東1局は、

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ドラの7ソウがトイツで入っているのですが、メンツ候補がいずれもペン3・7万とカン3ピンといずれもC級カンチャンそろい踏み。
もちろん、簡単に手が動くこともなく局は流れ、

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東2局では初和了りとなりましたが、中がトイツでドラなし3面張(しかし2ソウはすでに場に4枚切れ)で2,600点。
東3局は2巡目、4巡目にそれぞれ他家からリーチがかかり早々に手仕舞いと、「面前高打点おじさん」の思うような展開になりません。

そしてこの局、ようやく重い手が入りました。

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ドラの8ソウをツモってタンヤオ三色ドラのイーシャンテン。
ようやく型の入る時間になったのかなぁと思っていたら、

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トップ目の親番、中橋さんからリーチの声。
私は知る由もありませんが、ドラ8ソウを暗刻にしてのリーチ。
何巡か、深めのツモ動作でオーバーアクションが続いていたので、イーシャンテンかとは思っていました。そして、手替わり1枚でリーチ。まぁ、安くはないだろうな、と。

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私は首尾よく高めの8万をツモって678タンヤオ三色ドラのテンパイ。
捨て牌から察するにワンチャンスの6ソウのまたぎは薄そうと思い、無筋の4ソウは勝負。
本線は5ピン周りの待ちか、2-5ソウ辺りか…と読みを入れます。
とすれば、私が追っかけリーチを放てば、ドラ表示牌の7ソウを筋ひっかけで釣るよりも先に、私の現物である2ソウが咎められる危険がありますから、ここはヤミテン。
隣のビルに聞こえるくらいの打牌音で4ソウを横に曲げないだけ、今日は冷静だったのだと思います。

結末としては、手を進めた大野さんから2ソウが放たれて中橋さんの12,000点。

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一歩抜け出されちゃったなぁ。
という思いよりは、この手をヤミテンで押せたという今日の自分の勘の良さを確認できたので味は悪くなかったと思います。

「状態」という「宗教観」

局は進んで南1局2本場。

ディフェンディングチャンピオンの岡田一馬さんは、私が優勝した際の映像を観ていてくださったらしく、密かにマークしてくれていたそうです。
お互いにもう一度最強戦の舞台へ戻りたいという思いは強いのですが、私と岡田さんのぶつかり合いが一つの勝負のアヤになったみたいです。

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9巡目。
岡田さんがタンヤオイーペーコーのカン4万をヤミテン。

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私の手はご覧のとおり。
避けきれないところに4万を持ってきて、これがストライク。
先ほどの2,600点に600点の熨斗(のし)を付けてお返しすることになりました。

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「型」の入らない展開。

和了りを取った相手のロン牌を無理やり掴まされること。

非常に嫌な展開です。

しかしこの時、一つだけ心の糧としてあったのは、今日の自分のカンは信じるに値するほど鋭そうだ、という点です。

「自分にできることをひとつずつ。焦るな。」

自分に言い聞かせていました。

次局の南2局。ドラは1万。
端に寄った配牌はまさに低運気の証。
それでも、連風牌がトイツでいてくれるだけで何と心強かったか。

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対面から出てきた南をポンしてイーシャンテン。
しかし、私はこのまま3ピンと1万を引いて満貫になるなど、甘い夢など見ていません。

私の宗教観から言えば、この局は南がスッと鳴けたことが僥倖のすべて。
それ以上を望めば、高確率で手痛いしっぺ返しが音速で飛んでくるはず。

と、私は思っていました。

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そんな思考で次に引いたのが3ソウでターツ選択。
このカン2ソウには強力な手ごたえを感じています。
そして、当たり前の手順ではこの手は成就しないという経験則と感覚
それを信じれば、自ずと切る牌は限られます。

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喜多清貴プロをもってして、「クレイジー」と言わしめた打3万。
確かに狂気に満ちていますよね。
だけど、私はこの局が今日という日の明暗を分ける勝負所と腹をくくっていました。

例えば、ペン3ピンやカン2ソウを外していって、後で両面が埋まる前にそっちの愚形が埋まって捨て牌にメンツを並べること、経験がありませんか?

運気の下がり目を感じている=思い通りにならなそう。

その感覚を信じれば、簡単に両面で和了が拾えるわけなどない。
自分のカンの良さと、これまでの麻雀観に殉ずることにしました。

もちろん、和了の前に1万なんか引いたら放送対局ですから何を言われるかわかりませんし、一瞬それを考えて安全な道を歩もうともしました。
でも、今日は自分にできることをひとつずつ緻密に積み上げることだけを考えることにしたので、翻意せずに3万を河に放ちました。

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ソウズ模様に見える私の手。
ノーガードのピンズが岡田さんから鳴けて、

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2ソウを引き当ててW南チャンタの1,000-2,000。
上手くいきました。

きっと、1-4万に受けていたらこの局はもつれて、どこかから火の手が上がっていたことでしょう。
そして、手の短い私が手づまりして…という結末が見えます。
でも、この手を仕上げられたのなら、少しはがんばれそうです。

が。

意気揚々と親番を持ってきた私でしたが、これまで劣勢の大野さんがリーチツモ平和ドラ裏2で安目ながら跳満ツモ。
これにより中橋さん以外の3人が全員集合。

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全く思うようにはなりません。

大野さんが一人抜け出してしまい、私は跳満ツモでも届かない3着目で迎えたオーラス。
中橋 38,900
岡田 21,100
千嶋 20,300
大野 19,700

予選は3回戦のスプリント。ラスはなんとしても避けたいところであるとともに、2着を死守してポイントをプラスにしておくのはもっと大事です。

岡田一馬北海道最強位との決闘

自風の北を1枚目から仕掛けた私はピンズの45に3ピンをチーしてこのイーシャンテン。

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テンパイになるのは、2・3ソウ、4・7・8ピンのいずれかです。

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岡田さんが7ピンを持ってきました。
大競りの局面ですから、もちろんこれはツモ切りの一手…

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ではなく、打4ソウ。
まぁ、ここまでは良いとして。

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岡田さんが切った發を親の中橋さんがポンしてテンパイ。
高目親満の大物手です。
ですが、

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そんなことには目もくれない岡田さん。
さすがにここからは2ソウを切るでしょ?

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これを切らずに打6ソウ。
下家の私だけ徹底ガードの打ち筋を見せます。

ちなみに、私は親の發ポンに異常な殺気を感じていました。
下3人が大競りの状況で、岡田さんの跳満ツモ以外でトップが濃厚な場面。
そこに手を短くしてまで突っ込んでくるのは常軌を逸しています。ならば、この局でゲームを終わらせるつもりはない…つまり勝負手。
マンズの無筋だけは絶対に下ろせないなと思ってます。
それと同時に早くこのゲームを決着させないと、親の大連荘が待っているかもしれません。

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岡田さんがこの時何を思っていたのか聞いていませんが、少なくともターゲットは私。
絶対にテンパイを入れさせないぞという思いだけだったのかなと私は推測します。
これはゲーム中にも感じていたこと。
あぁ、牌を下ろさないつもりか、と。

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それでも、私は意地で感触の良かった2ソウを引き入れてテンパイにこぎつけますが、

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二人でイチャイチャしている間に中橋さんの親満が決まりました。

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もしも、岡田さんがどこかの場面で私に牌を下ろしていたら、このロン牌は岡田さんの手に。
1枚切れの南ですから、あるいは岡田さんの放銃になっていたかもしれません。
まさに、現北海道最強位恐るべし、であります。

値千金の2着取り

長くなったのですが、もう1局だけお付き合いを。

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続く南4局1本場。
自風の北が大野さんから出ましたが鳴かないでいると、絶好球の9ソウがやってきてくっつきのイーシャンテン。
先ほどのW南ポンの局とは違い、動かずに良い方向へ迎えているので、今度は高目の9万絡みも期待しています。

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しかし、8万さえ引けたら…のところで8万が4枚見えてしまったので、東・北のシャンポンか北を叩いてピンズの上待ちに構え直すために打7万。
「狭~く狭~く打ってますね。」
喜多プロがおっしゃるように、手役にとらわれずもっと広く構えれば良いのでしょうね。
頑固なのはおやじ譲りなのだと思います。

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イーシャンテンになった岡田さんから出た北を叩いて、

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7ピンをツモ。
かろうじて2着を死守して、この後に望みを繋ぎました。

出来ることを、出来るだけ。

以前、近代麻雀noteに有料で記事を書かせていただいたのですが、その内容をしっかりと実践した結果、私は2着を3本並べて8位のカットラインスレスレで準決勝へ。

ただ、準決勝は配信対局の裏で地味に競り負けるという「持ってない」負け方で、私の最強戦は幕を閉じました。

でも。
いつもの年よりも清々しい気持ちです。
一昨年優勝した時よりも、もしかしたら今日の方が足取りは軽かったかもしれません。

勝ち負けに固執していたら、きっとこんなに麻雀を楽しめませんでした。

出来ることをやるんだ。
それで負けたら仕方ないじゃないか。

少なくとも、それは貫き通すことが出来たと思います。

最も重たい、罪深い負け方は、「悔いを卓に残していく負け方」のはず。
今日は、しっかりと負けを飲み込んで帰ることが出来ました。

僕にとって最強戦は、「全部夢のまま」。

夢のまま終わってしまえば楽なのに、一度光り輝く現実の舞台を知ってしまったから、もう夢を夢のままにできないのです。

またこの北海道最強位決定戦の舞台に立てるのかな。
もうこれっきりかもしれませんが。
例えそうだとしても、今日の戦いは、夢に蓋をするにふさわしいほど、自分の麻雀に誇りが持てる内容でした。

また明日から、北海道のライバルたちと来年のタイトルを狙って日々精進します。

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