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北海道のむかし話29 シシャモのはなし

シシャモのはなし ー鵡川町ー

シシャモは、15㎝くらいの小さな魚で、秋になると産卵のために、海から川へ上ってきます。
しかし、北海道のシシャモは、不思議なことに上ってくる川が、八雲の遊楽部川や日高の鵡川などの、大平洋岸の川に限られています。

このシシャモには次のような話が残されています。

ある日のこと。天上の一番高いところに住んでいる「雷の神」の妹が、
「何か、面白いことはないかしら」
と、退屈そうにつぶやきながら、沙流川(さるがわ)鵡川(むかわ)の上流にある神山に降りてきて、あたりを見回しました。
ところが、いつもだったら見られるはずの煙が、今日はどうしたことか、川下のどの村からもたっていないのです。不思議に思い、村の様子を探ってみると、人間たちが、何やらひそひそ話をしているのです。

「もう何日も神さまにお祈りをしているというのに、ちっとも願いを聞いてくださらない。私たちが、食べるものがなくて、こんなに困っているというのに」

「私は、もう何日も食べ物らしいものを、食べていないわ」

これを聞いた雷の神の妹は、村から煙がたたない訳が分かりました。そして、すぐに天上に向かって、大きな声で叫びました。

「ホッホー。ホッホー。人間たちは、食べるものが無くなって困っているわ。誰か、早く食べ物を与えて頂戴」

この叫び声が、天上の神々の国までとどきました。神々の国では、すぐさま、柳の枝と、生き物の魂を、一番早いフクロウの女神に持たせて、人間の世界へ送りました。


ふくろう



しかし、人間の世界へ降りてきたものの、生き物の魂を入れた柳の葉を、どの川へ流したらよいか、迷ってしまい、天上の神々に相談しました。

「沙流川は、水がきれいだが、男の川で気が荒いから、女の川の鵡川の方がよいだろう」


柳の葉


ということにきまり、さっそく、フクロウの女神は、持って来た柳の葉に魚の魂を入れて、鵡川へ流しました。
すると、柳の葉は、小さな魚に変わり、銀色に体を光らせながら、群れをなして、泳ぎはじめました。
そして、その後のことは、沖の神にまかせ、また、川の神にも、協力するよう頼みました。

また、人間たちには、夢で、

「鵡川という川に、シシャモという魚を流したので、それを捕って食べなさい」

と、伝えました。

人間たちは、これによって助かったので、この魚を、神魚カムイチェブと呼びました。雷の神の妹や、他の神々たちは、人間たちが喜んでいる様子を見て、満足そうに微笑みました。

ところが、鵡川に放したシシャモの数が、どうも少ないのです。
雷の神に調べてもらうことにしました。
神の国から降りてきた雷の神は、八雲(やぐも)の遊楽部川(ゆうらつぷがわ)に、腐りかけた柳の枝の半分を見つけました。

「ははぁん。さては、あわて者のフクロウの女神が、神の国から降りてくるときに、あまり急ぎすぎて、柳の枝の半分を折って、この遊楽部川へ落としたのだな」

シシャモ

と、ひとり言をいいながら、にこりと笑いました。
そこで、このままにしておくのはもったいないと考えた雷の神は、その柳の葉にも魂を入れ、遊楽部川へ流してやりました。

こうして、木の葉の落ちる季節になると、鵡川や遊楽部川には、たくさんのシシャモが上ってくるようになったのです。また、それ以来、この季節になると、人びとは、神魚のシシャモを迎える「シシャモ祭り」を行い、神々に感謝するようになったということです。


ししゃも



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