おといねっぷ美術工芸高等学校を中心としたまちづくり ~村と「おと高」の協働による地方創生~
村の人口の約2割を占める「おと高生」
音威子府村は、人口636人(令和6年1月1日現在)の、道内で最も人口の少ない村で、森林面積が村の総面積の86%を占める、森林資源に恵まれた地域です。
村内の中心部に位置するのが、道内唯一の工芸科を持つ、村立の「おといねっぷ美術工芸高等学校」(以下、「おと高」)です。
同校は、全校生徒が110名(令和6年4月現在)で、村外からの生徒がその多くを占め、同校生徒が村の人口の約2割を占めています。村の人口は昭和25年の4184人をピークに減少傾向が続いており、相対的に村における「おと高」の存在感は高まっています。
人口減少が進む村で、同校を中心としたまちづくりや関係人口創出の取組を取材しました。
道内唯一の工芸科設立
同校は、昭和25年に道立の普通科高校として設立されましたが、昭和53年には入学者が6名になるなど、一時期は廃校の危機に瀕しました。
同時期に、日本を代表する彫刻家・砂澤ビッキ氏が、村へ移住し創作活動の拠点としたことなどを契機に、地域産業である木材資源の工芸としての活用を目指した村づくりを図るため、また同校の存続のため、昭和58年に道内で唯一の工芸科を設置した村立高校に転換しました。
その後、寮の設置や生徒の広域募集により入学者は順調に増え、現在は工芸を専門的に学びたいと、入学を希望する若者が増えています。
「おと高」を中心とした創生総合戦略とは?
村が人口減少に伴う地域の課題に対応するため策定した「第2期 音威子府村まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、村の最大の強みであり、村の未来を担う人材を創り出すポテンシャルなどの観点から、同校を戦略の中心に置き、「村の振興の要となる高等学校の機能強化」「卒業生の雇用の場創出や多様な人材活躍の推進」「高等学校を軸とした人の流れの促進」「高校生参加による個性的で魅力あるまちづくり」といった4つの基本目標を掲げています。
「おと高」の持続的な機能強化
「おと高」の維持・発展やそれに伴う生徒の確保は、村の振興の要であることから、同校では、教育環境の充実や魅力向上につながる機能強化を図っています。
道内の入学志願者が多い地区の中学校の訪問に加え、「地域みらい留学※」事業における説明会に参加し、全国に同校の魅力を発信することで、若者を継続的に呼び込む取組を進めています。また、寮生活などの生活環境や学習環境の整備のため、企業版ふるさと納税制度なども活用し、様々な形で取組を推進しています。
こうした地道な取組により、近年では道外からの入学者が全体の約2割を占めるなど、北海道で人口が最も少ない村へ全国から若者が集まっています。
※住んでいる都道府県の枠を超えて、興味関心にあった高校を選択し、高校3年間をその地域で過ごす国内進学プログラム(一般財団法人 地域・教育魅力化プラットフォーム)
「おと高生」の作品による村の魅力向上
令和5年度、村と「おと高」の未来のため、何ができるのか検討することを目的として、校内に『「おと高×おと村」魅力化推進チーム』を設立しました。ふるさと納税の返礼品、村企業との連携、商品開発を見据えて活動していくほか、生徒が制作した作品の更なる価値付けなどを目的に、同校の公式のインスタグラムの開設や、生徒が校長の名刺や学校宣伝用クリアファイルのデザインを手がけるなど、教員、生徒が一体となり取り組みました。
また、村と(株)セコマとの包括連携協定に基づき、「おと高生」が独自にデザイン・制作したコースターである、「おと高スター」が同社のポイント交換景品として令和6年7月に登場しました。さらには、同校のPRのため、ふるさと納税返礼品にポストカード等を同封するなど、同校生徒のデザインが村の魅力を向上させ、産官学が一体となって生徒の活躍の場の創出を目指しています。
今後は、村の魅力を伝える作品作りにもより力を入れ、「おと高生」とのまちづくりの協働を進めようとしています。
村と卒業生の継続的な関係
同校生は、在学中の3年間、村民運動会や植樹祭を通じて村と交流する機会を多く持ちますが、卒業後、村を離れる者がほとんどです。そのため、卒業生との継続的な関わりを維持することで、村への愛着を育んだ卒業生が将来的に村に戻って就職することや、作品制作のために短期移住することなどが期待されます。
村では、卒業生の創作活動の拠点となる制作環境の整備など、卒業生のニーズに対応した移住・定住施策を促進しています。こうした取組の結果、村に戻って就職した卒業生は直近10年間で約20人おり、それぞれが村内で活躍しています。
現在、村内の木工体験施設「山村都市交流センター 木遊館」で勤務する横内颯太さんは村外出身の卒業生ですが、卒業後に道内外で家具職人として働いた後、村に戻って就職した一人です。村の制作環境に魅力を感じ、村に戻ることを決意し、現在は木遊館で勤務する傍ら村を拠点として作品作りを行っています。
村が将来的に持続・発展するためにも、村を「第二の故郷」と愛着を感じ、村外に出ても村や「おと高」と関わり続けたいと考える卒業生との継続的な関係の維持に取り組みます。
今後のまちづくりへの想いとは?
遠藤貴幸村長は、村や「おと高」の持続的な発展のために、移住定住や関係人口の創出といった観点からも、同校がこれまで培ったスキームをいかし、同校のような、志を持った人々が夢を持って創作活動にチャレンジできる環境を作り、人が人を呼ぶという循環を新たに創り出したいと語ります。
また、同校がまちづくりに好循環を生み出してきた中で、菊地裕幸校長は、「おと高」の更なる魅力化のために、生徒や卒業生が創り出した作品を村内外に知ってもらう取組を進めています。
そうした取組が村に興味関心を持つきっかけとなって人の流れを生むことで、同校だけでなく村の魅力向上につながると考えています。
これからも村と「おと高」の協働によるまちづくりは続きます。
この記事は、「創る」第28号発行時点(令和6年10月時点)の内容です。