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シャム猫チャーミー

 隣家にネコがいた。

 クリーム色で青い目のメスのシャム。

 名前は「チャーミー」。

 とてもキレイで美しかった。

 ところが、コイツがとんでもないヤツだった。

 我が家の庭に我が物顔で自由に出入りして、堂々と日向ぼっこをするのは当たり前。

 時折目が合うと、しばらくエラそうに睨みつけて、絶妙なタイミングで、フンと言って憎々しげにメンチを切る。

 本当に憎たらしかった。

 しかし、キレイで美しかったのでモテた。

 夜な夜なオスどもがやってきた。

 数多の浮き名を流して、美しさに色気も加わり、妖艶さが増していった。

 この頃が絶頂期だったと思う。

 よく自分を取り合うオス同士の喧嘩を、うれしそうに高みで見物していた。

 だが、栄枯盛衰は世の習い。

 毛の艶が衰え、動きが鈍り始めた頃から、オスどもの訪問がめっきり減った。

 以前は鼻も引っ掛けなかったヤツに文字通りネコナデ声を出しているのを目にした時には、心底ガッカリした。

 「お前、何してんねん!」とツッコんだ。

 ところが、私にだけはずっとプライドを崩さなかった。

 目が合うと、以前と同じように睨みつけてフンと言って憎々しげにメンチを切った。

 私に対する憎たらしさだけは健在だった。

 だけど、私を睨みつける目力が衰えたなと感じてから姿を見かけなくなった。

 時は流れ、風の噂で、チャーミーが虹を渡ったと聞いた。

 一抹の寂しさを覚えた。

 それから、また時が少しだけ流れた。

 ある日、チャーミーが我が家の庭に再び突然現れた。

 びっくりした。

 しかし、よく見ると、若くてシールポイントが少し違っていた。

 それでも、隣家の人は以前と同じように「チャーミー」と呼んだ。

 彼女は二代目だった。

 ところが、私に対する仕草は先代と瓜二つでとても憎たらしかった。
                 <了>