募集人の犯罪行為とその処遇について

1.保険代理店役員による保険金殺人?

昨日、九州の保険代理店役員による保険金殺人事件の報道がされた。
現時点で、被疑者とされる保険代理店役員の認否が不明なので、報道内容について触れることはしないが、一般的に、募集人が刑法犯など犯罪行為をしてしまった場合に、「法令上」どのような扱いとなるかをまとめておく。

2.募集人資格について

保険代理業は、保険業法上保険募集規制に係るが、

生命保険募集人は、
・生命保険会社の委託を受けた者(いわゆる保険代理店)
・保険代理店の役員・使用人
が特定保険募集人としての登録を受ける義務を負う(276条)。

損害保険募集人は、
・損害保険会社の委託を受けた者
が、特定保険募集人として登録の義務を負い、その役員・使用人は損害保険募集人ではあるが、特定保険募集人として登録の義務を負わない(276条)。

少額短期保険募集人は省略

そして、特定保険募集人の登録については、登録拒否事由がある(279条1項)。

一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者又は外国の法令上これと同様に取り扱われている者
二 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から三年を経過しない者
三 この法律又はこれに相当する外国の法令の規定に違反し、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から三年を経過しない者

四 第三百七条第一項の規定により第二百七十六条の登録を取り消され、その取消しの日から三年を経過しない者又はこの法律に相当する外国の法令の規定により当該外国において受けている同種類の登録を取り消され、その取消しの日から三年を経過しない者
五 心身の故障により保険募集に係る業務を適正に行うことができない者として内閣府令で定める者
六 申請の日前三年以内に保険募集に関し著しく不適当な行為をした者
七 保険仲立人又はその役員若しくは保険募集を行う使用人
八 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号又は次号のいずれかに該当するもの
九 法人でその役員のうちに次のいずれかに該当する者のあるもの
 イ 心身の故障のため職務を適正に執行することができない者として内閣府令で定める者
 ロ 第一号から第四号まで又は第六号のいずれかに該当する者
十 個人でその保険募集を行う使用人のうちに第七号に該当する者のあるもの
十一 法人でその役員又は保険募集を行う使用人のうちに第七号に該当する者のあるもの
※カッコ内等省略

犯罪行為に関する事由は、2、3号である。2号が全ての法律であり、3号が保険業法に関するものである。保険業法では罰金刑以上、その他の法律では禁固刑以上が拒否事由となる。

この基準は登録申請の時点での要件であるが、当然、登録後の取消事由も定められている(307条)。

一 特定保険募集人が第二百七十九条第一項第一号から第三号まで、第四号、第五号、第七号、第八号、第九号、第十号若しくは第十一号のいずれかに該当することとなったとき。
二 不正の手段により第二百七十六条又は第二百八十六条の登録を受けたとき。
三 この法律又はこの法律に基づく内閣総理大臣の処分に違反したとき、その他保険募集に関し著しく不適当な行為をしたと認められるとき。
※カッコ内、仲立人に関する部分省略

 1号で記載されている取消事由は、上記の登録拒否事由のことである。

また、3号の「著しく不適当な行為」とは、保険業法違反に限定されない。監督指針では、
・顧客から預かった保険料相当額又は保険料を流用すること、保険契約者の無知に不当に乗ずることなど、保険契約者等の保護に欠ける行為
が例として挙げられる(監督指針Ⅴ−1−6(1))(※仲立人に関する説明だが、保険募集人にも該当すると思われる)が、その他無断契約、無面接募集等もこれに含まれる可能性がある。

もし仮に、保険代理店役員に、殺人罪が成立するとすれば、刑が確定した段階において、登録拒否事由2号(9号)に該当することで、取消事由1号に該当し、特定保険募集人の登録が取り消されることになる。

当然、殺人行為等は保険募集に関する行為ではないが、その他保険募集行為に不適切な行為が認められれば、取消事由に該当することになる。

3.保険会社との委託契約について

保険代理店は保険会社との保険代理店委託契約がなければ当然、保険代理業を営むことはできない。

そのため、保険代理店(経営者等役員)が違法行為をした場合に、保険代理店委託契約が解除される可能性もある。

保険代理店委託契約の解除については、代理店委託契約の解除と「やむを得ない事由」でも記載したが、本件報道のような重大犯罪に該当する場合には即時解除が認められるケースが多いだろう。
※条項としては、「会社の信用を毀損した場合」等々いずれかに該当すると思われるが、犯罪=即時解除となるという趣旨ではない。募集行為と無関係の比較的軽微な犯罪において解除が認められるかは解釈の余地があると思われる。

4.会社法について

保険代理店が株式会社である場合には、代表者は取締役の地位にあり、会社法の規律の対象となるが、会社法においても、以下のような欠格事由がある。

(取締役の資格等)
第三百三十一条 次に掲げる者は、取締役となることができない。
一〜三 (略)
四 ・・(略)・・法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)

※以上、「法令上」の扱いを述べたが、事実上の運用として当該募集人に廃業させるなどは当然考えられるところである。




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