【注意】火災保険金請求代行業者の適法性について

1.増えるトラブル

最近の雪害や、毎年のように発生する台風被害などにより、火災保険の請求を行うことも多くなっている。

そんな中、「火災保険金の請求の代行を行うという業者」とのトラブルをよく耳にする。損保協会も、HPで請求代行業者とのトラブルに関する注意喚起がなされている。

この火災保険金請求代行業については、法的にどのような問題があるのかを再度整理する。

2.弁護士法違反

まず、弁護士法に以下のような規制がある。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

(本件に関係のある内容として)要約すると、

弁護士でないものは、報酬を得る目的で、その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることができない

とされている。

これはいわゆる「非弁行為」といわれており(保険代理店も要確認ー弁護士法の最低限知識ー)、弁護士法で禁止されている。

火災保険請求代行がここでいう、「非弁行為」に該当するのではないかという問題である。

「非弁行為」の要件は

①弁護士又は弁護士法人でない者
②法律事件に関する法律事務を取り扱うこと
③報酬を得る目的であること
④業としてなされること

であるところ、弁護士でない業者を想定していることなどから、①、③、④は基本的に該当すると思われる。

問題となるのは②法律事件に関する法律事務を取り扱っているのかどうかである。

法律事件の定義は、

法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件

をいうものとされる(東京高判S39.9.29)

裁判例上、一般の法律事件に該当するとされたものとしては、

・自賠責保険金の請求・受領に関するもの
・債権者の委任による請求・弁済受領・債務免除等を行うこと
・賃貸人の代理人としてその賃借人らとの間で建物の賃貸借契約を合意解除し、当該賃借人らに建物から退去して明け渡してもらうという事務をすること

等がある(日本弁護士連合会調査室編著「条解弁護士法(第5版)」p647、2019年、弘文堂)。

本件と類似する裁判例としては、自賠責保険金の請求・受領に関するものについて弁護士法違反を認めた東京高判S39.9.29であるが、この裁判例の事件の要旨は以下のようなものである。

被告人が、自身で設立した団体の事業として、交通事故で損害を受けた被害者から、損害賠償請求に関する一切の件を委任され、保険会社に対する保険金の請求、受領、加害者側との示談交渉、示談契約、示談金の受領等の諸行為の全部又は一部を行っており、弁護士法違反が問われた事件である。

なお、被告人が行っていた行為のうち、「示談交渉」等示談に関わる点は、明らかな「その他一般の法律事件」(弁護士法違反)とされている。

そして、その他の「保険会社に対する保険金の請求、受領」についても、「その他一般の法律事件」に該当するのかが争点となった。

判決によれば、

(保険金)請求者の作成提出する保険金の請求に関する書類は、請求権の存在及び範囲の決定の資料となるべきものであるから、たとえば請求者が事故発生状況報告書に事故の原因状況を記載するには、事故という社会的事実をある程度請求権の発生原因たる法律要件として把握することが必要であり、
又、前記査定事務所の査定額を承諾するか、あるいは承諾しないで訴訟等の手段に訴えるかの裁量も請求者に委ねられているのであつて、・・(略)・・以上のことを処理するためには事柄の性質上相当の法律的知識を必要とするのである。

と、自賠責保険金請求の性質を論じた上で、

保険金の請求及び受領の手続は、請求権の存在及び範囲の確定に関与しこれを実現する行為であつて確定債権の単純な取立行為、集金類似の行為等の論旨にいわゆる機械的作業と同日に論ぜられるべき性質のものではない。
されば、保険金の請求及び受領行為は、これを示談と切り離しそれ自体として観察しても弁護士法第七十二条にいわゆる「その他の法律事務」に当るものと解するのが相当である。

と、保険金請求及び受領の手続きをその他の法律事務に該当すると判断し、被告人の行為を非弁行為であると認定している。

これは、自賠責保険金請求についての、火災保険についても、前段について上記性質は妥当するものと考えられる。

火災保険金請求が認められるかどうかは、約款の解釈上の問題も多分に含まれ、「単純な取立行為、集金類似の行為」ではない。

以上からすれば、火災保険金について、請求及び受領の手続きを代行する場合においては、非弁行為として、弁護士法に違反する可能性が高いと考える。

なお、上記は現在存在する保険請求代行業者がすべて違法業者であると述べるものではない。違法となる可能性が高いのは、請求及び受領の手続を代行している業者である。

請求行為を代行しているのか、単なるアドバイスをしているだけなのか(法的なアドバイスということになれば、「鑑定」としていずれにせよ非弁になる可能性はある。)という点は実質的に判断すべきである。

代行業者としては、対保険会社との関係で、自身が代理人として名前を出すことはなく、あくまで名義は保険契約者とされているため、代行をしているわけではないという反論もあるだろうが、

①請求書面の作成行為を業者が行う(実質的に指示をする)
②支払われた保険金額から報酬(調査費等でも同様、名目は問わない)を受け取る

といった行為をしていることは、実質的に請求行為を代行していると判断される可能性が高いものと考えられる。

ちなみに、弁護士法72条違反は、罰則があり、法定刑は2年以下の懲役又は300万円以下の罰金である(弁護士法77条3号)。

弁護士法72条に違反した請求代行契約の法的効果としては、「公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情」がない限り、無効とはならないとされている(最一小判H29.7.24)。

3.特定商取引法違反

先日、北海道新聞が、消費者の苦情に関する報告に応じなかったとして、道消費者生活条例に基づいて、保険金請求支援サービスを行う個人業者名を公表した。

保険金請求代行業の顧客へのアプローチ方法は様々であるが、訪問して営業をかける業者も多い。

訪問営業をする場合には、特定商取引法の規制対象となる。

特商法も、弁護士法同様、コンプライアンス意識の低い業者に認知されておらず、多くの違反行為が蔓延している法律である。

訪問販売においては、様々な規制があるが、

・申込書面、契約書面交付義務
・氏名等の明示義務
などがある。

申込書面、契約書面は記載事項が詳細に定められており、単に契約書を作成すればよいというものではない。

その他、不実告知や故意に事実を告げないことなどが禁止されているのは保険業法における募集規制と類似するものも当然規制されている。

ちなみに、訪問販売においては、契約書面を受け取ってから8日間はクーリング・オフが可能である。8日を経過した後に問題に気づいたとしても、クーリング・オフ期間は、「不備のない契約書面を受け取って8日間」であるため、不備があるケースも多いため、クーリング・オフが可能な事例も多い。

4.その他

その他、火災保険金請求代行サービスは、基本的に対消費者をターゲットにされており、消費者契約法も適用される。

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