保険代理店も要確認ー弁護士法の最低限知識ー

1.弁護士だけが守る法律ではない

「弁護士法」というと、弁護士が守るべき法律というイメージであるが、弁護士以外も弁護士法に触れるケースは多い。特に、保険代理店は弁護士法違反に注意が必要となる業種である。

弁護士法には様々な規定があるが、主に問題となるのは、弁護士法72条である。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

端的にいうと、弁護士以外が、法律事件の代理や、法律事務を取り扱うことや、周旋をすることが禁じられている。

同法違反は、一般に「非弁」と言われる。保険代理店が陥りがちな、典型的な「非弁」の事例を紹介する。

2.損害賠償案件の交渉

【CASE】
保険代理店A募集人Bの顧客Cから、「交通事故にあった」と連絡があり、自社の保険会社Dに事故受付を行い対応してもらっていた。
その後、顧客Cから、「保険会社Dの担当者Eが弱気でしっかりと交渉してくれない。。こちらの方が過失が悪いということになりそうだ・・なんとかならないか??」とのクレームがあった。
Bは、担当者Eに連絡したところ、相手の保険会社担当者Fがめちゃくちゃなことを言っていると聞き、Fに対して電話連絡をした。

弁護士法

募集人Bが担当者Fに対し、自身の契約者(顧客C)を守るために、事故状況についての写真を送付したり、判例タイムズ(緑本)の過失割合の図を用いて、顧客Cの正当性を主張することは、弁護士法違反となる。

同違反の要件は
①弁護士でない者が
②法律事件に関する法律事務(鑑定、代理、仲裁、和解その他の法律事務)を取り扱うこと
③報酬を得る目的であること
④業としてなされること
である(①、④は当然に認められる事例が多いので省略する)。

前提として交通事故における加害者に対する損害賠償請求において、相手方と過失割合について争いになっているのであるから、法律上の権利義務に関し争いや疑義があるものとして「法律事件」に該当する(②)。

そして、本件では「代理」該当性を検討するが、「代理」とは、当事者に代わり当事者の名において法律事件に関与することであるが、当事者の代わりとして交渉する行為は代理に該当する。

本件に関し、報酬を得ていないという主張もあり得るが、保険契約者からのサービスとして行うとなると「報酬を得る目的」(後記)となる可能性が高い(③)。

よって、同行為は弁護士法違反(非弁行為)になる。

もっとも、保険代理店として違法な行為をしているという認識は低く、「自身の契約者を守るため」という認識での行為であることが多い(「昔は弁護士など頼まず代理店同士で話をまとめていた。」などと語られることもある)が、法令遵守の観点からは、理解しておく必要がある。

「相手方保険会社に連絡=直ちに弁護士法違反」となるわけではないものの、極力、直接連絡を取るのではなく、保険会社担当者への情報提供、意見照会に留めるなどの対応によるべきである。

ちなみに「代理」という点に関連して、屋根などの修理業者が火災保険請求サポートなどとして、保険金請求の代行サービスを行う事例もあるが、これは実質的に判断(資料作成の関与の度合いや、報酬の支払い条件等から)すると弁護士法違反となる事例も多いと思われる(保険金請求も法律事件である)。

3.よろず相談窓口としての弁護士紹介

栗山泰史氏(日本損害保険代理業協会アドバイザー等)のダイヤモンド・オンラインの記事の中で、これから保険代理店に期待することとして、

社会保険労務士や税理士、弁護士等の仲介を含めて保険代理店の持つ「よろず相談サービス」の機能は、経済的死者を一人でも少なくするために、今こそ活用されるべきものだと感じている。

という記載があった。

確かに、保険代理店はよろず相談窓口となっている側面がある。保険に限らず弁護士に相談すべき相談も、保険代理店に相談し、そこから紹介を受ける事例も多く、保険代理店が「保険を売る」から「保険を含む人生、経営の相談窓口となる」といったようなドメイン見直しが図られており、この点は非常に重要であると思われる。

ただ、保険代理店が「サービスとして弁護士紹介をする」ということとなると、弁護士法に触れる可能性が出てくる点には要注意である。

前記の通り、弁護士法は報酬を得る目的で、法律事件の代理や法律事務等の周旋をすることが禁じられている。

弁護士紹介に対し、保険代理店が契約者から対価を受ける場合は当然違反することになるが、無料で紹介する場合においても、営業活動の一環として(サービスの一部)として行っている場合には、結果、保険契約による手数料収入という「報酬」を得る目的と認定される可能性があるためである。

条解弁護士法p644(会費を払う会員に対し弁護士を無料で紹介する組織を作った事例についての解説)
「入会金、会費が法律相談等に対する直接的な対価的関係に立たないとしても、間接的な対価関係は認められる場合が多いであろうから、入会者勧誘や営業活動の一環とは全く認められない純粋のサービスといったものでない限り「報酬を得る目的」があるものと認定されるであろう。」

弁護士を紹介すること自体には何ら問題ないが、保険代理店のサービスとして全面的に打ち出すことは慎重になるべきである。

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