【裁判例】〇〇製紙インハウス代理店事件

0.東京地裁令和元年 7月 9日判決

本件は、四国中央市に本社を置く紙類・パルプ類及びその副産物の製造加工並びに売買等を目的とする株式会社(Y)と、そのインハウス代理店(X)との紛争である。
Yは、平成24年に代表取締役(当時)の不祥事があった。

westlawには社名の記載がないため、タイトルは〇〇製紙としているが・・あの世間を騒がせた事案が保険代理店にも影響を与えていた。

1.事案の概要

Xは、○○家の個人会社(いわゆるファミリー企業)として,主としてY及びその関連会社の損害保険の代理店業等を営んでいた。

そして、平成24年に,Yの代表取締役(当時)の不祥事を契機として,Xの株式は、A社譲渡されてその支配下に入ることになった。

その際,YがXに対して,

株式譲渡最終契約の実行後少なくとも5年間は,クロージング時点における保険契約高の水準を有する保険代理店の地位にあること

を保証したにもかかわらず,

クロージング後5年を経過した直後に,YがXを代理店として各保険会社との間で締結していた損害保険契約を解約したことは,前記の約定に反する債務不履行であり,

Xはこれにより,

①各保険会社に既払保険料を返金した返戻手数料1億3697万0621円
②当然に保険契約の更新が期待されていたにもかかわらず,更新されなかったために,Xが得られなかった手数料1599万6335円
の合計1億5296万6956円の損害を被ったと主張して,Yに対し,債務不履行に基づく損害賠償請求を求めた事案である。

つまり、代理店であるXはその関連企業からの保険契約が多く受けていたが、株式譲渡により支配権者が変わった際、5年間はその地位を保証するという合意をしていたが、その期間終了後、ばっさりと保険契約が切られてしまった。

これに対して、代理店であるXは保険代理店の地位を保証する合意は、5年後も中途解約できないという趣旨も含むものであると主張したが、Yは、5年間は地位を保証するが、その後の解約を禁止するものではないとして争ったものである。

2.判決

これについて裁判所は、

 同条項は,その文言からして,クロージングから5年間,本件保険取引を終了しないことがその義務内容になっていたものと認められるものの,5年経過後については何らの保証も及ぶところではなく,被告(Y)に,本件保険取引を継続,更新すべき義務を課していると解するのは無理がある。中途解約の禁止に関して何の定めもおかれていないことに鑑みれば,同条項によって,原告(X)が主張する中途解約をしない義務(本件義務1)が合意されていたと解することはできないし,その他に本件義務1が合意されていたことを認めるに足りる証拠はない。

と判断し、代理店であるXの主張を認めなかった。
※裁判例に合意の文言が記載されていないため、どのような文言であったかは不明

ちなみに、本判決はその後控訴されたが、控訴審でも控訴棄却(Xの敗訴)判決となっている(東京高裁令和元年12月 5日判決)。

控訴審判決で参考となる部分は、

保険契約のように一定の期間継続する性質の契約関係については,将来的な条件の変動や事情の変更に基づき,中途解約やいわゆる乗り換えが生ずる可能性は常に生じ得るものであり,そのための要件等に関する約款や規定が定められているものでもあるから,本来,その要件を満たす中途解約等については自由に認められるべきであり,逆に,このような事態を防ぐ必要があるのであれば,その旨の明確な合意が必要になるというべきである。

との点であろうか。

3.最後に

大企業にはインハウス代理店として子会社が設立され、当該企業及び当該企業の社員の保険契約の代理店となっていることは多い。
当然企業とインハウス代理店はグループ企業であるため、双方の利益追求のため保険契約を締結させることとなるが、今回のように親会社が変更してしまう場合などは保険契約を維持するメリットは少なくなる。

特殊事例ではあるが、当然インハウス代理店も安泰というわけではない。

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