【コラム これからの保育のために】 第2回 価値観のギャップ

前回からの続き。
この保育界が直面している問題の根っこにあるのは価値観のギャップです。
保育に対する、子育てに対する、子供への見方に。これらそれぞれがかつての価値観と現代の価値観では大きなズレが生じてしまっています。
このとき勘違いしないでほしいのは、「価値観のズレがではじめた」のではなくて、「価値観のズレが限界に直面している」が正しい認識である点です。

さて、昨今現場の本音としてあちこちから聞こえてくるものがあります。
それは「ベテランが困る」です。
一般保育士からだけでなく、施設長や理事者からも聞こえてきます。

その内実や背景、要因にはさまざまあるにしても一点大きなものが、価値観の変化によりかつての「当たり前」が現代では通用しない点です。


◆第一の壁 「当たり前」が不適切


かつて当たり前のようにしていたことの中には現代では不適切とされるものがたくさんあります。
たとえば、大人の指示に従わない子を部屋の外に出したり、○○させないなどの罰を科したり、食べたくないものを無理やり食べさせたり・・・・・・。


ここでも勘違いしてはいけないのは、かつてはそれらをしてもよかったのではない点です。かつてもそれらは質の高い保育ではなかったにもかかわらず、そうしたことが世間一般の子育てでも当たり前になされていたので保育士もそれらを平気で行えてしまっていたのです。それは保育士の専門性の低さであり、実践的なスキルの未熟さでしかありません。

なので、「昔は○○をしてもうるさくいわれなかった。いまはうるさくなった」という考えでいたら保育界はまったく進歩しなくなります。かつての「当たり前」もおかしかったのだと認識する必要があるでしょう。

「ベテランが困る」の声の少なからぬ部分が、まさしくその部分の認識に由来しています。
専門職とは自身の職務を振り返り、それまでの間違いをあらためられる人のことです。そこを直視できず、これまでのやり方に固執してしまうと社会から受け入れられません。

こうした状況にあって、その職場を辞めたり、保育士でいること自体をあきらめてしまうのは、それらベテラン勢の方ではなく若い世代の人達です。

それも当然です。本来ならば自分の手本として仕事を学べるはずの先輩達が、不適切なことやそれに近いことをしていると見えれば、その仕事を続けることなどできません。


しかし、そのように不適切に近いことをしていないケースであっても、この保育界のゆらぎとは無縁ではいられません。

当然ながら、それまでの不適切な方法を認識してそれをあらためようとする施設や保育士、理事者もあります。(意識的でなくても感覚的によくないと感じていたりも)
そこにいたっても大きな問題があります。


◆第二の壁 よくないのはわかったじゃあどうすれば?


それは、じゃあどうやって実践していけばいいのかわからない問題です。

次のようなケースが昨今の現場サイドからたくさん聞こえてきます。

a,子供が棚の上に乗ってしまっているのに、担任保育士は注意もしない(見てもいない)

類似のケースにはこれも。

b,子供が棚の上に乗っているのに、担任保育士は「そこに乗るとあぶないんだけど・・・」と遠回しに声をかけるだけで、結局その状態を看過してしまっている。

上記では「下りてくれたらうれしいな」など、下手からお願いするだけのケースも。

このシーンは、安全面にリスクがあるので保育士は、介入して安全確保しなければならない場面です。しかし、現代の保育士にはこうした場面で踏み込んだ関わりをすることにおっかなびっくりになっている傾向が多く見られます。

皮肉なことに、これはかつて(不適切に類する行為が横行していた時代)の保育士はためらわず踏み込めていました。

現状の保育界が直面しているゆらぎのもうひとつがここにみられる問題です。

ときに安全確保に際して、もちろん強い関わりをせずとも安全確保できるのならばそれがいいですが、たとえ強い関わりや強い口調になったとしても(程度の問題はあるが)それは、配慮として許容されるものです。

しかし、そのあたりの違いや理念の整備が不十分なために、「不適切な関わりをさけたつもりで不適切な保育になっている」という皮肉な現実が起こっています。

この状況から、特に20代、30代の保育士が、保育の難しさを感じ、そこからくる自己無力感ゆえに、保育士に向かないのではないかといった思いを持っている人が多いです。

本来であれば、そうした場面で適切な対応ができる保育者の対応を見て学んでいくものですが、そうしたロールモデルが少ない状況では行き詰まりを感じずにはいられません。

余談ですが、ここにはいま本来ならば中核になっているはずの氷河期世代の人材が適切に雇用されず育っていない問題も少なからずあるでしょう。
多くの施設で60歳前後と若手ばかりという話を聞きます。これは保育界に限ったことではないでしょうけれども・・・。

さてもちろん、そうした場面での適切な対応はあります。
僕自身はそれを信頼関係の保育としてこれまで言語化してきましたが、ここでは文脈がそれるので別の機会にします。

ベテランに批判的なことだけ書くと大いに角が立ちそうなので、次回はなぜそうなってしまったのかを少し視野を大きくしてその原因や構造をさぐることである種の弁護にあてようと思います。主に以下についてです。

・保育界のおかれたこの30年
・保育士にもとめられるものの大きな変化

保育士おとーちゃんこと須賀義一です。 保育や子育てについて考えたことを書いています。