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ルクセンブルクの躍進と育成事情。

はじめに

サッカールクセンブルク代表の躍進。おそらく誰一人としてピンと来ていないのではないでしょうか。無理もありません。躍進、というにはいささか地味な結果ですので。

ルクセンブルク代表の土俵はEURO予選、W杯欧州予選、UEFA NATIONS LEAGUEです。EUROやワールドカップの本戦は、日本でも熱狂的な盛り上がりを見せます。しかし、予選のこととなると話題になるかどうか怪しいところですからね。

こに記事では、そんな日の目を浴びないルクセンブルク代表の最近の結果と、その結果を裏付ける理由について少しだけ書かせていただきます。


ここ数年間の実績

まずはUEFA NATIONS LEAGUEから。

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18-19シーズンに行われた第1回大会。ルクセンブルク代表は最も低いクラスのリーグD。グループ内の上位2チームが昇格できるなかで、ルクセンブルクは3W1D2Lの勝ち点10を取り、2位でフィニッシュ。無事に昇格を果たしました

20-21シーズンに行われた第2回大会。昇格を果たしたため、リーグCに参戦。ここでも3W1D2Lの勝ち点10を取り、2位でフィニッシュ。昇格とはなりませんでしたが、可能性を感じさせる結果でした。


次にEURO2020予選の結果をご紹介。

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残念ながら、なんの面白みもない1W1D6Lという結末を迎えました。しかも、唯一の勝ちと分けは格下のリトアニア相手。格上のポルトガルやウクライナ、セルビアには力の差を見せつけられました…。


それでは、お待ちかねのW杯欧州予選。何がお待ちかねというと、2大会連続で歴史的な試合をしているからなんですね。

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2018ロシアW杯予選。ご存じの通り本戦には進んでおりません。しかし、グループリーグ第8節、アウェイで臨んだフランス戦。誰もが一方的なゲーム展開になると思いきや…フランスの超豪華な波状攻撃をなんとかしのぎスコアレスドロー。間違いなく一方的なゲーム展開ではあったのですが、ルクセンブルクにとって勝利に等しいドローといっても過言ではないでしょう。

ただ同組ベラルーシもホームとはいえ、フランスと引き分けており、ただ単にフランスが微妙だった可能性があった…このことは見なかったことにしましょう。

本戦で優勝しているフランスに勝ったのですから(勝ってない)、どちらも素晴らしいということは揺るぎようがありません。

日本語実況付きのハイライト。何度見ても震えますね。というかフランスのメンツ、知らない選手を探す方が難しいですわ。

続いて2022カタールW杯予選。グループリーグはまだ折り返しすらしていないのですが、一つ勝ち試合をトピック。第2節のアウェイ、アイルランド戦。0-1で勝ち切った試合なのですが、YouTubeのコメントを一つご紹介。

Hey, it‘s not that bad...Luxemburg made an enormous progress in the last 10 years. So luxemburg isn‘t anymore a country everyone has to beat like 6:0...we came from 11 non professional starting players to now, 11 professionals on the pitch. 

From the last 7 competitive games, we won 4, draw 1 and only lost 2 games.

In overall total we played 415 games since the year 1911 and only won 44 total, but 21 of them, we won between 2010 and now!

I agree that Ireland still has to win against Luxemburg, but Luxemburg isn‘t anymore a country everyone has to win like 6:0. We had a good game yesterday and want to work with that for the future.

「この10年間でルクセンブルクは大きく進歩した。11人の中にアマチュアがいて、どのチームも6-0で勝つような国ではなくなった。

過去7回の試合では、たった2試合しか負けなかった。1911年以降の415試合中の44勝のうち、21勝は2010年以降に成し遂げた。

確かにアイルランドはルクセンブルクに勝たなければならない。しかし、誰もが6-0で勝てるチームはそこに存在しない。」


長かったのでかなり意訳しましたが、めちゃくちゃ良い事言うなあ、と思ったので引用させていただきました。

「誰もが6-0で勝てるチームはそこに存在しない。」胸が熱くなりました。

先程のコメントもこの動画のコメント欄から拝借しました。アイルランドのメンツも、プレミアファンなら知っている選手が半数くらいはいるのではないでしょうか。


どうして強くなり始めたのか

アイルランド戦のコメントにも「1911年以降の415試合中の44勝のうち、21勝は2010年以降に成し遂げた。」とありました。間違いなく、ルクセンブルクのサッカーレベルは年々上がっています。この成長を裏付ける理由、それは若手育成にありました。

とは言っても、若手育成のプロジェクトは幾つもあるものではなく、一つに集約されます。ではその一つとは何か。もったいぶらずに言うと、協会によるサッカースクールの設立という、お隣フランスの模倣プロジェクトなんですね。


そもそもフランスの育成スタイルとは??

フランス。世界屈指の才能が続々と出てくる様は最早ホラーです。しかし、物事には理由があるもの。アンサーはClairefontaine-en-Yvelinesにありました。

フランスのタレント力の礎ともいえるのが、「クレールフォンティーヌ」。ご存じの方が多いのか少ないのかよく分からないところではありますが、簡単に言うと国立のトレーニング施設、サッカースクールといったところでしょうか。

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巣立っていった選手には、ティエリ・アンリウィリアム・ギャラス二コラ・アネルカルイ・サハハテム・ベン・アルファアブ・ディアビメフディ・ベナティアブレーズ・マテュイディウィリー・ボリーラファエル・ゲレイロアルフォンソ・アレオラ、など挙げればキリがありません。

特に最近のヤングスターといえば、キリアン・ムバッペでしょう。2018W杯を制した10番の活躍は留まるところを知りません。ほかにもクリストファー・エンクンクマルクス・テュラムアラン・サン・マクシマンなど次世代のワールドクラス候補も名を連ねています。

とはいえこの「クレールフォンティーヌ」、実際に何をしているのでしょう。長くなるので簡単に説明しますと、13~15歳の前育成年代の子どもを対象にした、2年制のトレーニング施設でしかも無償。56ヘクタールの広大な敷地と6つのグラウンドを持ち、本部と15の支局から構成されています。

当たり前ですが誰でも入れるわけではなく、毎年の卒業者数は本部で23人、支局で15人程度。それに対してセレクション参加者は本部で約2000人、各支部合計1万人以上。合格率は1~2%となり、超ハイレベルの選考を通過した者のみが許される特権という訳です。

しかし、狭き門をくぐった若者すべてがプロ契約にこぎつける訳でもないのが、フットボールの残酷さ、とでも言うのでしょうか。フットボールにアンサーはないのでしょう。

育成について詳しく記載してある記事がコチラ。



ルクセンブルクのサッカースクール

1988年に完成したフランスの「クレールフォンティーヌ」が注目され始めたのは、フランス代表の1998年W杯制覇と2000年EURO制覇によるところが非常に大きく、各国でこの育成スタイルが模倣されました。

隣国であるルクセンブルクも例外では無かったわけです。

2001年に開設した国立サッカースクール「モンデルカンジュ」。その名の通り、ルクセンブルク南西の都市Mondercangeを舞台にしており、この街はFLF(ルクセンブルクサッカー協会)の本拠地ともなっています。

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敷地面積は5ヘクタールと、「クレールフォンティーヌ」に比べるとショボいですが、そこは国の大きさを考慮して欲しいってことです。

13歳から19歳までの少年少女が通っており、低年齢層が40~50人、合計150~200人のピラミッド型の人数構成をしています。通っており?そうなんです。この「モンデルカンジュ」、通学制であり、寄宿学校ではないのです。実際、毎日シャトルバスで送迎しているようです。

さらに、国の4つの地域トレーニングセンターにより、9歳からトレーニングを受けることができるのです。

少し話は戻りますが、フランス代表の世界・欧州制覇から1~3年で開設した、というのは中々にすごい話です。まあこれにも絡繰りがありまして、その一番の要因が国の規模なんですね。前回の記事にも書かせていただいたのですが、ルクセンブルクは人口鳥取面積佐賀という小さな国。詳しいことはわかりませんが、鳥取県とフランス、どちらの方がプロジェクトとして困難かわかると思います。”小さい”がアドバンテージになった瞬間でした。

また関連して、公的資金が抑えられた、というのも大きいかったようです。

実績として、10代と20代の代表選手のほとんどはこのスクールに通っていました。また世界的ゲームメイカーのミラレム・ピャニッチは幼少期をルクセンブルクで過ごし、ルクセンブルクの世代別代表でもプレーしており、このサッカースクールにもおそらく来ていたでしょう、たぶん。

引用させていただいた記事。FLF会長のインタビュー形式の内容となっております。
2018年にUEFAが屋内グラウンド開設の資金提供をしてくれたことも。



最後に

4000字を超える記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

人間とは不思議なもので、調べれば調べるほど愛着がわくようで、筆者のルクセンブルクへの愛情は記事を書くごとに増していっています。それが少しでも皆さんに届いてたらいいなあ、と思いながらこの辺で記事を終わりとしましょう。

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