子どもと大人の炭酸、私のご褒美。

 お酒の飲めない祖父は甘い炭酸飲料を好んで飲んでいた。美味しそうに飲む姿を見て、炭酸飲料に憧れた幼い頃の私は一口もらって、初めて体験した喉の刺激に驚いた。「こんなの飲めない!」と騒いだ私は「ジュースでいいでしょ」と母親にたしなめられた。炭酸の入っていない甘いジュースは子ども扱いされているようで不服だったが、黙って従った。私は炭酸飲料は大人の飲み物なのだと思っていた。
 気付けば炭酸飲料が飲めるようになっていた小学生時代。母親から「甘いから飲み過ぎたらダメだよ」と言われたため、好きなだけ飲めるものではなかった。だからこそ特別なものになった。そして中学生時代には運動部に所属していた私にとって、部活終わりにたまに飲んでいた炭酸飲料は疲れた体に甘さが染みわたる、最高のご褒美であった。
 それから炭酸飲料が好きなまま大人になった。大学生になって飲み会に誘われるようになると、祖父と同じようにお酒の飲めない私は飲食店のメニューのソフトドリンクを見て甘い炭酸飲料を頼む。もう母親から口をだされることもない大人の私は好きなだけ飲むようになっていた。「ビールの喉越しを知らないのかぁ」という年上の酒好きの先輩の言葉を受け流す。しかし続けて言われた「ジュースじゃメシ食えないよ」という言葉はちょっと刺さった。大人の飲み物だと思っていた炭酸飲料は、いつの間にか子どもの飲み物となっていた。
 私は社会人になったが、まだビールの美味しさを知るのは難しいようだ。しかし食事に甘い飲み物が合わないと言っていた先輩の気持ちが分かるようになってきて、甘みのない無糖の炭酸水に手を出した。最初は甘みがないことに違和感があって飲むのに抵抗があったけれど、ほどなく慣れた。中学時代の私だったら「こんなの飲めない!」と騒いでいたことだろう。
 そして私の仕事終わりのご褒美は、子どもの頃大好きだった甘い炭酸飲料ではなくて、無糖の炭酸水になった。無糖の炭酸水をご褒美として飲む瞬間、私は少しだけ大人になった気がしている。


#炭酸が好き

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