「気がつけば15年間で18,000回の製品試験をやってました。」きちんと仕事をするということ。
当社がTシャツブランド「東大阪繊維研究所」をスタートしたのが2017年の夏なので、今年で3年が経ちました。
このブランドを始めたきっかけや理由などはこれまで何度かNOTEにも書いてきました。
その中でもブランドを運営していく上での「モチベーション」のひとつになっているのが「自分たちの糸でTシャツを作れば必ずいいものが出来る」という確信です。
その確信を支えているものは何かというと、簡単に言えばこれまで積み上げてきた糸作りの実績と経験ということになります。
実績というと「大手有名アパレル様に商品を納入しています」とか「年間いくら売り上げました」とかいう販売実績の話になってしまいがちです。
けれども、大手アパレル向けに商品供給している会社なんていくらでもありますし、うちよりも売上の少ない糸屋さんを探す方が難しいくらい当社は弱小です。
ではなぜこんなにも私たちは自社の仕事に自信を持っているのか。
そこにはこれまで紛れもなくきちんと仕事をしてきたことを説明できる、数値化されたデータが残っているからです。
ニット製品の斜行に影響する、糸のトルクテストのデータです。
斜行とは何か?ということについては私の書いているライブドアブログの方に細かく説明してありますのでよろしければそれをご覧ください。
ニット製品の斜行を止めるということは、糸の撚りバランスを合わせるということです。
斜行を止める具体的な方法について。撚糸回数計算についての略式モデル。
ここで今一度基本的なお話。撚りバランスをピタッと合わせないとニット製品が歪みます。
型崩れせずに着心地も良い、いわゆる上質なニット製品(ここではセーターもTシャツもニット製品というくくりで書いています)を作るために斜行しない糸を作るということはとても重要です。
そのために当社では受注数量の大小に関らず、糸を作る場合は必ず撚糸の試験を行います。
そのデータを集計してみたところ、過去15年間に渡って18,000回以上の試験を行い、その全てのデータが保管されていました。
実際当社がスタートしたのは2000年8月なので、今年で20年が経過しました。
でもデータが15年分しか残っていない。
これは私が両親と3人でこの会社をスタートした当初、糸のトルクデータ管理がこれほどまで重要だと考えておらず、試験そのものは行っていましたがその結果をきちんと管理していなかったためです。
しかし会社を始めて5年が経ったころに、私たちの技術の核になる部分はこの撚糸トルクのコントロールにあるということを感じたので、そこからはきっちりと糸作りのデータを管理するようになりました。
会社をスタートした当初の受注履歴はいまでもちゃんと残っているので、最初の5年間に作成した品番は分かります。
そこから割り出せばその5年間に行ったトルクテストの回数やデータもだいたいはわかります。
けれども、糸の物性に関するデータは「だいたいの」数値では意味を持ちません。
きちんと保存・管理されてこそ意味があります。
その意味で私たちの糸づくりの知見と自信を裏付けてくれるのは、会社設立6年目から作り始めたトルクテストのデータベースということになります。
試験というと試験管に試薬を投入して変化を見る、というようなケミカルなものを想像される方がいるかもしれません。
けれども当社の試験はもっとシンプルというかある意味原始的です。
糸を作って実際に編み立てて、その編地を洗濯して乾燥させる。
そのときに編地がどの程度歪んでいるかということを、その歪みの角度を実測してデータを残していくという作業です。
たとえば下記の編地は編むと左下がりに曲がってしまう状態の糸だということを表しています。
それに対してこちらは正しく斜行が止まった状態です。
試験用の糸を作るのに大体1時間程度、編地を編むのに30分、洗濯して乾燥するまで約半日。
この作業を毎日繰り返し行いデータを残していくというとても地道な作業です。
こちらは先週作成した試験編地たち。
このままの大きさで保管するとかさばるので、名刺サイズのカードに貼り付けて裏面に品番等を記載して保管します。
こうやって作成した膨大な資料を、数値のデータはパソコンの中に生地のカット見本はケースの中に全て保管していて、いつでも参照できるようにしています。
もちろんトルクテストをしながら他の業務も同時に行うので、こればかりにかかりっきりというわけではありません。
しかし、試験編地を作成するのは割と手間がかかる作業なので、品質試験をせずに糸を撚糸できればそのぶん楽は出来ます。
中には斜行する糸で作っても問題の起きないニット製品もあるので、本当なら全てのロットに対してトルクテストをする必要はありません。
けれどもその手間を惜しまずに全てのロットで斜行しない糸を作ることによって、常にどんな企画でも安心して使える糸が出来上がります。
だから絶対にその手間を惜しまずに、全ての糸作りにルーティンとしてトルクテストを組み込むというやり方で15年やってきました。
オーダーいただいた数量がたとえ1kgでも1,000kgでも、数量に関らず必ず糸のトルク試験を行ってからしか糸を作らない。
これが当社のルールでありスタンダードです。
そうやってコツコツ積み上げてきた結果、その回数が過去15年間に18,000回を超えているということです。
1年間に直すと1200回。
営業日が年間220日前後なので、1日あたり平均5.45アイテムの試験を行っている計算になります。
これほどの頻度で糸のトルクテストを行っている糸屋さんはおそらく他に無いと思います。
この努力を毎日惜しまなかったからこそ、どんなに使い込んでもビクともしない頑丈なTシャツを生み出すことが出来たわけです。
「きちんと糸を作ることが出来る。」
当たり前のことなのかもしれませんが、これが当社の誇りです。
もちろんそれだけで決して素晴らしいTシャツを作ることが出来るわけではありません。
編み方や縫い方にもノウハウが必要です。
けれども、糸の品質に問題があればそれ以降の工程をどれだけ慎重に行っても良い製品は出来上がりません。
その意味で糸をきちんと作るということは質の高いTシャツを作るために、ある意味絶対条件です。
その技術と知見がわれわれにはある。
これが、私たちが自信を持って自分たちのTシャツをお勧めできる理由です。