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俎ほどき流マダミス制作の覚書

0. はじめに

解体電書房の俎ほどきと申します。『押忍!魔駄魅剃学園』の作者の一人です。いつもお世話になっております。

さて、2023年11月時点でマーダーミステリーを5作(上記合作を含めると6作)書いてきたわけだが、いざ新しいものを書こうとすると、未だにどういう手順で取り組むべきかわからなくなる時がある。そこで、次のマダミスを作るときに思い出すための資料を残しておこうと思い立ち、折角なら公開できる形式でと考え、これを書き記している。

これからマダミスを書こうとしている人にとっては、もしかすると参考になるかもしれない。私はPDFとユドナリウムまたはココフォリアを用いる、情報カードや密談などのあるオンライン用オープン型マダミスを作っており、傾向として推理重視の作風であるため、作りたいものによっては下記は全く役に立たない可能性がある。また、グラフィックデザイン等の外注については触れず、すべて自力で作っていく前提で記述している。独学ゆえ体系的なものではなく、あくまで個人的に合う手法というものなので、ご笑覧いただければ幸いである。

なお、自作・他作のマダミスのネタバレは含まれないので、安心して読んで欲しい。

1. 舞台設定

私の場合、まずは作品の舞台を設定する。ここで言う舞台は、戦国時代の城内・現代アメリカの邸宅・未来の宇宙船内といった時代・場所をはじめとして、そこに集まった人々(キャラクター)の特徴、作品全体を通じて重要になる要素や雰囲気などを合わせたものを指す。

舞台は作品の土台にあたるため、自分が書きたい・書けるものは何かを良く考え、しっかりと方向性を定めてから筆を取ると空中分解を防ぎやすい。舞台設定のコツは、何よりも自身のモチベーションが持続する題材を選ぶことだと思う。マダミスは完成までに多岐に渡る大量の作業が求められる。筆を折らないために最も必要なのはモチベーションである。

また、私が詳しくないこともありマーケティング的な内容は省くが、それを抜きにしても、ターゲットとなるプレイヤー相の想定や、どういったゲーム体験をしてほしいのか、という部分は予め明確にしておく必要がある。これらは「ゲームシステムの調整」において重要になるものだが、はじめに考えておいて損はない。さらに付け加えるなら、そもそもとしてこのアイディアは、マーダーミステリーやそれに類するゲームシステムへの実装に適しているのか、他の卓上ゲーム、TRPG、あるいはコンピューターゲームへの実装の方が適しているのではないか、という問題は常に考える必要があるが、横道に逸れるため本稿ではこれ以上言及しない。

なお、私の場合、このステップ以降の多くの作業を、txtファイル上で項目ごとの箇条書きをすることで行っている。この際、一時的にボツにした記述も消さずに残しておくと、後々の修正作業でアイディアを再利用するなど活かせる場合がある。

2. 要素収集

作品の舞台を定めた後、その舞台において使えそうな要素の収集を行う。私の場合は、作品内に採用するか否かに関わらず、面白そうな関連ワードを片っ端から箇条書きにする。もし、普段から書き溜めているアイディア帳があれば、そこから引用するのが楽である。

十分と思われる量になるまで収集し、その後の工程でも不足があると感じたら直ちにこの工程に戻る。使える要素はあればあるだけ作品の深みや面白さに繋がり、その後の工程も楽になるため、情報調査を疎かにしないこと。ピンとこない時はインターネット検索だけでなく、本や長編映像などの時間のかかるインプットも躊躇しない方がよい。たとえ今書いている作品に活かせなくても、いずれ作る何かの礎になるだろう。

3. 冒頭描写

作品の冒頭描写について考える。ここでの冒頭とは、作品をプレイする際に最初に読み上げられる、プレイキャラクターが一同に会し、死体を囲んで騒然としているような状況のことをいう。この段階で本番用の整った文章を書く必要はなく、要点が分かる程度の記述でよい。

冒頭描写は、作品の「つかみ」に当たる部分であり、舞台設定や事件現場を端的にプレイヤーに伝えることができる。このため、早い段階で考えておくことは、作品の話の流れを整理することにも繋がり有用である。

また、なぜプレイキャラクターたちが自ら調査や推理を行う必要があるのか、という点についても明確にしておいた方がよいだろう。現代社会の常識に則るなら、事件が起こった時はすぐに警察を呼び、彼らの到着まではなるべく動かず自衛のみを考えるか、その場から逃げるべきだ。そうならない場合は、警察が来るまで非常に時間がかかる、警察を頼れない・頼りたくない事情がある、プレイキャラクターたちに常識がない、そもそも現代社会が舞台ではない、などの理由が考えられるだろう。この理由について設定し説明することは、ゲームに対する納得感の向上に繋がる。

4. キャラクター構想

プレイキャラクターと、被害者を含むノンプレイヤーキャラクターについて構想する。プレイキャラクター数をはじめに決めてから作り始める場合もあるが、数合わせ的な薄いキャラクターが生成される懸念もあるため、基本的にはキャラクター案を出してからお気に入りの数人を選び、プレイキャラクターにするとよいだろう。

私の場合は、この段階では犯人や役回りを明確に決定せず、それぞれの容姿・人格・能力・来歴・人間関係などについて先に考えておく。また、これはキャラクター構想に限ったことではないが、その舞台ならではの要素を出来るだけ盛り込むように心がけている。

なお、各プレイヤーが必ずプレイヤー1名に対して1票を投じるゲームシステムの場合、プレイヤー5人用や7人用のような奇数の場合は、決選投票(同率最多得票者のいずれかに再投票)を繰り返すことで最多得票者を1名に決定可能である(9人用などを除く)。4人用や6人用のような偶数の場合は、票が割れた場合の結末を別途用意するか、ゲームシステム上の工夫を行う必要がある。また、2人用と3人用は、少人数ゆえの特殊性があるため、特別なゲームシステムや設定が必要になる。

5. 犯人像

犯人の動機や殺害方法、トリックについて考え、プレイキャラクターのうち誰が犯人かを決定する。プレイキャラクターに犯人がいない、あるいは殺人等があったわけではなく事故や自殺である場合も、ここである程度詳細を決めておくとよいだろう。

私の場合、基本的には動機を起点にして考える。まずトリックを思いつき、それを起点に作品を書いていく場合もあるだろうが、その際も犯人が殺人やそれに類する異常な行為に至った理由について、納得できるものを考える必要がある。

6. 犯人のタイムライン

犯人のタイムラインについて考える。私の場合、タイムライン作業はGoogleスプレッドシートを用いて行っている。

犯人の行動は、犯行時から遡るように書いていくと決めやすい。この段階では、相対的な行動の順番がわかればよいため、具体的な時刻の設定は必要ない。犯人が各行動時にどこに居たかについては、決めておくに越したことはないが、事件現場の間取りなどは後で詰めればいいと思うので、仮決めでよい。

7. 他キャラクターのタイムライン

犯人以外のプレイキャラクターと、被害者を含むノンプレイヤーキャラクターのタイムラインについて考える。ノンプレイヤーキャラクターは、事件において特別に重要な存在が他にいなければ、被害者について考えればよい。

先程決めた犯人のタイムラインに書き加える形で決めていく。この際、行動が埋まりやすいプレイキャラクターと、埋まりにくい者に分かれてしまう場合がある。前者は他キャラクターとの行動上の接点が多いが、後者は少ない、またはそもそも行動目的が定まっていないことが原因であると考えられる。後者のようなプレイキャラクターは魅力的になりにくいので、キャラクター構想に戻り、どのような目的で動いているのかについて再考する。

キャラクター構想の再考後、それでもタイムラインの埋まり具合が芳しくない場合、一度タイムライン作業を中止し、以降の8~10の作業、特に情報カードについて取り組むことで、問題は改善される傾向にある。

この部分の作業は、わかりやすい成果物が出力されにくい割に時間がかかるため、特に苦戦しがちである。短期決戦にこだわらず、粘り強く取り組むとよいだろう。作業に行き詰まった後、関係ないことをしている最中に良いアイディアを思いつくのはしばしばある現象だ。制作に関する思考が頭の片隅にほんの少しでも残り続けている状態を維持するとよい。

最終的には、各プレイキャラクターの行動が網目状に絡み合い、複雑な全容を紡ぎ出すことが望ましい。時刻についてはこの段階で仮入力可能で、時刻を確定させられるイベントを起点にして、イベントAの15分前にはイベントBが起こっているはず、といった形で決定していく。

8. マップ

事件現場となった館の間取りや、場所の地図などについて考える。マップなしの作品も十分実現可能だが、少なくとも各キャラクターが居た場所がそれぞれどのように接続しているかについては決定しておくべきだろう。

この段階では、自分だけ理解できる程度の、下書き状態のマップでよい。

9. 情報カードの内容

各種情報カードの内容について考える。情報カードの種別は、ゲームシステムの設計によるが、死体の状態、各プレイキャラクターの持ち物、各場所にある物や場所自体の状態、第三者の証言、条件付きで解禁される所謂「スペシャルカード」などがある。

Googleスプレッドシートなどを用いて、枚数の管理をしながら作っていくとよい。システム設計によるが、最終的には、各プレイキャラクターの合計取得可能枚数と、情報カードの合計枚数が、概ね同数になるよう調整していく。

情報カードの内容は、プレイキャラクターの過去と思惑、それらから導かれるタイムライン上での行動とその結果をよく想像することで決めていくことができる。ある情報を書いている途中で、やや突拍子もない、しかし活かせそうなアイディアが湧いてくることもしばしばあるため、考え込み過ぎずにライブ感で筆を動かしてみるのも有効な作戦であったりする。

10. 人間関係の調整

慎重を期すならば、プレイキャラクターと被害者、もし居れば他の重要なNPCについて、各人の関係についてまとめ、調整すると良いだろう。ここでの関係とは、利害、因縁、印象、欲求、行為、持ち物の移動などを指す。私の場合、相関図作製メーカーなどを用いて要素をまとめ、薄いプレイキャラクターが出ていないか確認することがある。

11. タイムラインの調整

マップ、情報カードの内容、人間関係の調整を反映し、タイムラインを調整する。主にこのタイムラインを元に各ハンドアウトを書いていくため、内容としては完成を目指して調整を行う。

12. ハンドアウト

これまで決めた設定を用いて、ハンドアウトを制作する。まずはテストプレイに向けて、テキストのみ執筆してもよいが、最終的にPDFなどに出力されたものを想定してグラフィックデザインを済ませたフォーマットを用意し、それに直接書いていった方が楽な場合もある。この時使用するDTPソフトウェアはMicrosoft Word、OpenOffice Writer、Adobe InDesignなどが一般的かと思われる。私の場合はAffinity Publisherを使用している。

ここからテストプレイ版完成までは、これまでに設定した内容に従って、ひたすら手を動かしていくだけである。各種資料、情報カード、ユドナリウムやココフォリアのルーム、「エンドカード」などを作ることになるが、個々についての項目は割愛する。

13. グラフィックデザイン

ハンドアウト制作に際してフォーマットを先に作る際は、その他のグラフィックデザインもある程度まとめて制作するとよい。私の場合、まずタイトルを決め、続いてロゴ、タイトル画像と作っていき、タイトル画像に使った素材を流用、またはタイトル画像とテイストを合わせてその他の色々を制作する。作業に際して、個人的にはAdobe Illustrator等のベクター系ソフトウェアがおすすめだが、完成品の解像度などの見栄えが担保できるなら使い慣れたものを使用してよい。

14. テストプレイ

最低限遊べる状態まで作業が進んだら、テストプレイを行う。私の場合、テストプレイ回数は1回のみで済ませることが多いが、ゲーム性に明らかな問題が見られるような場合は、それが無くなるまで修正とテストを繰り返すべきだろう。各プレイキャラクターに対する投票率や展開が偏っていないかといった、統計的な部分は気になってしまうものだが、意味のある値を出そうとするならかなりの回数をテストに割かなければならず非現実的であるため、これらについてはあまり考えないでよいと思われる。

テストプレイはテストプレイヤーにただ肯定してもらうための場ではなく、修正すべき点をリリース前に炙り出すためのものであるため、テストプレイヤーには忌憚なき意見を出してもらえるよう予め伝えておくことが望ましく、また、テストプレイヤーの意見は真摯に受け取るべきである。その上で、最終的な判断を下すのは作者であるから、テストプレイヤーの意見をすべて鵜呑みにはせず、適宜取捨選択することも必要である。

テストプレイヤーの選定については、基本的にはマーダーミステリー既プレイ者の方が、説明の手間が少なく楽だが、「完全初心者でも遊べるシナリオ」のようなコンセプトの場合は、初心者のみを集めた方が都合がよいだろう。しかしながら、未完成のゲームに付き合ってくれる人は希少だと考えるべきで、集められるなら誰でも歓迎すべき、ということを基本スタンスにするのが健全だろう。さらに万全を期すならば(私はやったことがないが)、「テストゲームマスター」を用意し、作者以外でもゲームマスター用資料を想定通りに読み進め、ゲーム進行が可能であるかを確認するとよいだろう。

15. ゲームシステムや諸々の調整

テストプレイでの意見を参考に最終調整を行い、完成に向けて足りないものを揃えていく。思いつく内容について書いてみたが、少々散らばったので、列挙するような形式で下記に置く。

◉マーダーミステリーというゲームを説明する際に、推理小説の中で登場人物になりきるようなもの、ということを言ったりするが、実際のところは、名探偵が作者の思い描く通りの順序で調査し解いていく推理小説(そういうものばかりではないかもしれないが)とは全く作りが異なり、ゆえに異なる配慮が必要となる。

◉マーダーミステリーにおいて調査や推理をするのは(システムによるが)探偵一人ではなく、素人のプレイキャラクターたちおよび中の人のプレイヤーであるため、「線形」に進行する小説や映画とは異なり、状況は多様に発散する。個人的には、ゲームを線形に矯正するのではなく、適度な混迷を楽しむシステム設計が必要であると考えている。

◉前提として、マーダーミステリーは不完全な情報を用いて推理するゲームであると考えている。常に情報が不足なく揃ってしまうなら、十分な論理的思考さえあれば、必ず唯一解に辿り着けてしまい、それは意図する展開ではない。すなわち、論理的思考で解ける情報群をすべて配置しながらも、情報を不完全にする設計が必要である。

◉さらに大前提として、ゲームシステムはプレイヤーに対して公平性を欠いてはならない。ゲームシステムとその代弁者であるゲームマスターを、プレイヤーが信用できない場合、ゲームは崩壊する。サプライズと裏切りは違う。良かれと思って仕込んだびっくり箱が、システムとゲームマスターに対する不信感を煽るようなものになっていないか、今一度確認すること。

◉「前提」はプレイヤーにとって不親切になりがちで、ともすればフラストレーションを生むこともあり、「大前提」と対立してしまうこともある。これについては、バランスをよく考えて設計する、としか言いようがない。

◉ターゲットとなるプレイヤー相の想定や、どういったゲーム体験をしてほしいのかについて熟慮し、一つずつ決めていくべきだろう。例えば、ロールプレイ重視であれば、謎は少なめ時間は長め、といった指針をまず立てられるため、それを起点として他の要素を決めていくような具合である。なお、個人的な意見としては、マーダーミステリーは「人と話したい」という欲求のもとプレイする側面が多少なりともあるため、時間短縮によって難易度を上げるような調整はなるべく避けるべきで、それは内包する謎の量や質によって行うべきだろうと考えている。

◉プレイキャラクターそれぞれにプレイヤーという人間が入ることを忘れてはならない。人間が入ってこその面白さを提供するのがマーダーミステリーである、とも言えるかもしれない。

◉注意書きにおいて、「なんでも許せる人向け」のようなざっくばらんな表記は、書く側にとっては楽だが、自ら間口を狭めるようなものであり、なるべく避けたほうがよいだろう。面倒くさがらずにまとめるべきだ。

◉目標とその達成については丁寧に扱う。目標はゲーム中においてほとんど最重要の行動指針であり、プレイヤー(そしてプレイキャラクター)が最も力を入れる要素である。プレイ中頑張った部分についてスルーされると、プレイヤーとしては寂しく感じる。シナリオ作者というよりゲームマスター寄りの視点になるが、アフタープレイにおいて、目標達成者を称え、未達成者をフォローすることはほぼ必須である。ゆえに、これを補佐するような記述がゲームマスター用資料などにあると丁寧である。

16. おわりに

本記事は以上である。書きながら私自身の過去作を振り返って、今思うと至らないことも多々あったな……と冷や汗をかいた。ポジティブに考えれば、新作を書く度に進化しているということだ。今、まさに新作のために筆を走らせている。とにかく、JUST DO ITというやつだ。これから書く方も一緒に頑張りましょう。

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