DB

 君は「DB」を見た時、何を思うだろう。

 この記事に作品のネタバレなどはありません。先日に僕が出掛けた時の話と、その夜に湧き出て止まなかった思考などを書き連ねています。


 コンディショナーを切らした。詰め替え用のコンディショナーを買った。いい機会だと思い、ボトルを新調する事に決めた。
 それまではコンディショナー専用のボトルを作らず、前に使っていたボトルに新しいコンディショナーを入れて済ましていた。シャンプーも同様だったが、数ヶ月前に捨て、工作に使えると思って取っておいていたポンプボトルを代用していた。それが元はシャンプーではない液剤のボトルだったため、容量が小さめで、詰め替え用のシャンプーが一度に入り切らなかった。どちらも不便はなかったが、気に入っているわけでもなかった。

 人と出掛けていた時、広い百均に入った。その日に買う予定は全然なかったが、商品の取り揃えの充実度に驚いたのもあり、そこで新しいボトルを買った。
 初めは、無色透明の四角柱のような形のボトルを1つ、選んだ。かごに入ったそれを見て、相手が「シャンプーとリンスでお揃いにしないの?」と言った。曰く、100円で買えるんだから洒落たデザインのボトル2つ選んでおいでよ、との事だった。相手は普段から彩りを選ぶ人だから、その無色透明・四角柱が味気なく見えたのだろう。すぐに返事をしなかったため気を遣わせたのか、相手が「まあ好みがあるから、お前にも」と付け足して言った。
 いい機会だと思い、相手に付き添ってもらいながら、ボトルを2つで揃える事にした。

 これは余談だが、百均へ行く前に相手を待っている時間があった。その時、店の壁に嵌め込まれていた鏡で自分の鼻を見たのだが、鼻水が噴き出していて、慌てて拭いた。
 すると、後ろを通り掛かったマダムが立ち止まって、鏡越しに僕へ「なんかあった?」と声を掛けてくれた。拭きながら振り返って「鼻水が出てて」と答えた。泣いていると思われていたのかもしれない。マダムが僕の顔を見て固まったため、「寒いと鼻水止まらなくて」と説明した。「ああ寒いもんね」「ええ、もう何回も拭かないといけないんですよ」と返すと、マダムが笑ってくれた。ウケたウケた、と嬉しく思っていると、マダムが「詰めたらいいよ」と言った。ティッシュを? 鼻血の対処法みたいに!? いやいや、と思いながら「詰めるんですか?」と返すと、「それが一番早い、すぐ止まるわ」と教えてもらえた。外だったし、僕はマスクをしていなかったし、不恰好になっちゃいますよと思った。でも、マダムはマスクにグラサンにニット帽という完璧な装備だったから、もしかすると、あのマスクの下にはティッシュが詰められていたのかもしれない。今度、僕も詰めてみようと思う。
 その後も少し、マダムと歓談していた。マダムとお別れした後、なかなか戻ってこない相手を迎えに行き、戻ってきたところで真っ先にマダムと喋った話をした。相手の反応は「へえ」だった。5秒後には話を変えられてしまった。僕は3人で喋りたかったよ。
 マダム、ありがとう。親切な人だった。また会えるといいな。


 帰宅して、買ってきたボトルを並べて見た時、容量の事を考えずに買ってしまったと気付いた。
 確認してみると、詰め替え用のコンディショナーを全部入れても僅かに余裕がある容量だった。ボトルのサイズを見誤ったかと思ったが、ぴったりだった。小さめの詰め替え用を買っておいて良かった。

 それから、どちらにどちらを入れるのがいいか分からなかった。僕が買ったのは、無色透明・ふっくら型と、青色透明・ふっくら型だった。液剤の残量が見えるほうがいいと思い、『透明』は外せない条件だった。しかし、そのどちらの色にどちらの液剤を入れようか、と思い至った。
 僕が思うに、不断に使うシャンプーを普遍的な無色に入れ、効能のあるコンディショナーを彩りのある青色に入れるほうが、それぞれに似合う気がした。一緒に出掛けた相手へ「どっちがどっち?」と写真付きで連絡しようかと思ったが、その相手以外にも訊きたくなりそうだったから、やめた。

 考えてみれば、僕が使う物だった。いい機会だから、自分の好きに入れようと思った。
 浴槽にて、シャンプーを青色に、コンディショナーを無色に、それぞれ入れた。ところで、液剤を詰め替える時の、あの妙な集中力はなんなのだろう。片や、前のシャンプーのボトルを青色の口に挿し込んで放置。ぼとー、だらだらだらだら、うねうね……。片や、詰め替え用の袋の開けやすさに笑い、注ぎ口を無色に挿し込み、袋を圧迫しながら端を折り曲げていく。びよっ、ぶにょーん、ぺっ、ぷすっ、もにもにもに……。
 コンディショナーを詰め切り、蓋を閉めた。そのコンディショナーには色が付いていたようで、薄橙の色が無色越しに見えていて、良かった。シャンプーのほうは青色の中で寂しそうにしていたため、ストック分を注ぎ足した。しかし、入れすぎてしまい、蓋ができそうになかった。
 蓋を閉める前に過剰シャンプーを使おうと思った。ふと時計を見た、詰め入れただけで26分が経っていた。

 髪を洗った。頭を流した始めの湯で旧シャンプーのボトルを洗えば良かった、と過剰シャンプーを手に取りながら思った。旧ボトルにシャワーノズルから湯を入れ、軽く振り、出来上がったシャンプー水溶液を頭へ掛けた。それを数回、繰り返した。その時点で、始めに頭を流した意味が消えたも同然だった。僕は風呂場の湯の使い方が下手だ。
 青色の過剰シャンプーが本当に過剰だった。多分、3日分は手に取っていた。それで髪を洗うと、遊んでいるのかと思うほどの泡が立った。寧ろ本来はそのくらい泡立てて洗うものだ、と錯覚しそうなほどに泡が立っていた。掴める硬さの泡が手を覆っていて、それをもう一方の手で集めて、髪に塗りたくって、また集めて、と繰り返した。やはり遊んでしまった。遊んでいた。
 その泡を流すのに時間が掛かった。始めの数回では濯ぎ切れていないと思い、旧ボトルにも湯を流した。髪を経由した泡混じりの湯を旧ボトルへ注ぎ、僕の頭と旧ボトルとの両方から泡が出なくなるまで濯いだ。旧ボトルの泡切れのほうが遅かったはず、そちらは浴槽の湯で濯げば良かった。
 そもそも、旧ボトルは捨てていい物なのに洗い直す必要はあったのだろうか……とも思う。工作に使うとして、その時がいつ訪れるかを僕は知らないのに。だが、そうして捨てなかったからこそ、これまで旧ボトルはシャンプーのボトルとして活躍してくれていたのだ。物がごみになる瞬間は、いつなのだろう。

 これも余談だが、僕は飲料の入っていたペットボトルを空にしても捨てずに取っておく事がある。捨てるのが面倒など、そういう話ではない。
 近頃のペットボトルには凝ったデザインの物が多い。大きさ、細さ、くびれの有無、キャップの表面、パッケージなど、それぞれを作案したデザイナーがいるはずだ。しかし、ペットボトル本体にデザイナーの記載がある事は少なく、確率でいうと皆無に等しい。
 すぐに調べられる時代なのに、すぐに知られない事がある。僕は、そのデザインを忘れてしまう事を勿体なく感じる。だから、僕は気に入ったデザインだと思った時、それがごみだとしても残しておきたくなる。
 全ては残せないし、既に忘れたデザインもたくさんあるとは思うが、できるだけ覚えていたい。いつか僕の閃きとなって何かで活かせますように、と度々思っている。
 例えば、小岩井の純水果汁シリーズのキャップだけを集めている。

 いい機会とは関係なく、新しくしたコンディショナーも使った。しかし、無色から出す事はなく、詰め替え用の袋に残った余りを使った。丁度、1回分くらいの量だった。しっかりめにコンディショナーを使えて満足した。
 その後、ドライヤーで髪を乾かした時、髪の指通りがレベチだった。それまでの毛がまじで傷んでいたと分かり、ワロチ。自分の髪質に合ったコンディショナーを選べていて良かった。それとも、贅沢にシャンプーで遊んだのが良かったのだろうか。


 青色と無色、その2つで揃えたポンプボトルには見栄えの良さがあった。自分の物、という愛着が生まれた気もする。
 新しいボトルには「Classy」という英単語が書かれていた。後で意味を調べたのだが、これは「上品な」「特級の」「アクの抜けた」などの意味があるそうだ。今後、風呂の時間が少しでも特級の時になればいい。

 そして、もうひとつ気になったのが「DB」だった。さて、こちらは何を意味しているのだろう。
 僕が思い浮かんだのは、ディストリビューター、デベロッパー、でび(これは僕が好きな配信者さんの愛称)、ぐらいだった。
 自力では読解不可だと思い、「DB」で検索をしてみた。すると、「デシベル」と出た。ふむ、と思った。しかし、ボトルにある「DB」は目立つフォントだったため、もっと分かりやすい意味合いの単語だろうと考察した。その中で『ドラゴンボール』の略称でもある事に気付いたが、そういった雰囲気は微塵もないボトルである。ただ、アルファベットの両方が大文字のため、何かの略称である可能性は高いと見た。まさか、ボトルに書かれた文字に対して考察する日が来るとは思っていなかった。
 そうして40分ほど考えている内に分かったのだ、この「DB」が「ディスペンサーボトル」を意味しているのだと。(大歓声)(指笛の音)
 僕は不意を突かれた気分だった。ボトルの底面裏に貼られていた商品タグには「ポンプボトル」としか書かれていなかった。しかし、時代は「ディスペンサーボトル」だった。現在は、シャンプーなど以外に手洗い石鹸や美容液などもポンプボトルに入れて使われる時代だったのだ。
 もしそれが夜中でなければ、僕は出掛けた相手へ「DBってどういう意味だと思う!?」と連絡していたと思う。てか、ディスペンサーボトルに化粧水とか乳液とか入れて使うのもありなんだって! 知ってた? え、いや、僕も化粧水ぐらいは使うよ。まぁ、君ほど拘りないけどね。あー、うん、はいはい。で、起きてるなら通話してもいい?

 僕は今、これを書きながら「ディスペンサー」の意味を調べた。勉強になる。いい機会になった。
 知らない言葉を見ると、語学を習っていた当時の事を悔やむ。もっと根気強く取り組んでおけば、その言葉を更に広く理解できただろうに、と毎度のように思う。今の僕の環境には考査などはなく、調べた言葉を覚える必要性も特にないから、知った言葉を確実に覚えている事は少ない。しかし、知らない言葉を調べて知る事の楽しさは学生じゃなくなってからのほうが体感している。すぐに調べられる時代に生きている、その便利さを思う。
 ディスペンサーボトルも、きっと誰かの実感や勉強の延長で生まれた技術の賜物なのだろう。知見から考察したり探究したりする面白さは、いつの時代になっても、誰にとっても、分野が違えど、絶えず湧き出るものなのかもしれない。


 と、僕の思考をここへ吐き出してみた。この記事も僕にとってのディスペンサーというわけだ、ワハハ。
 また僕の定量が湧き出てきたら、文字に起こしてみようと思う。


この記事が参加している募集

買ってよかったもの