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愛は呪いか祝福か?〜ナナチという光、またはパンドラの箱の希望〜

メイド・イン・アビスという深淵から無事帰還しました。いや〜久しぶりに物凄いものを見てしまった。しかし、本当に良い映画だった。だが、エンタメとしては毒があまりにも強過ぎる。カップルで見に来てる人は正気ですか?もしかして、あちら側なのですか???などと、たくさん言いたいことはたくさんある。だけど今は、文字にして可視化する気力が無い。受けた毒とダメージを昇華仕切れてない。なので、今日はとりあえずナナチという光について話してみようと思う。よーし、がんばっちゃうぞ〜ᕦ(ò_óˇ)ᕤ

ナナチ可愛いよナナチ。もう、明日からこれしか言えなくなっても構わない。とにかく可愛いのだ。見た目、仕草、もふもふ、聡明さ、もふもふ、もふもふ...。ナナチ、君はなんて愛らしい生き物なんだ。だから保護しなくてはならない。さあ、一緒においで。怖がらなくて良いからね。大丈夫だよ、怖いことなんて一つもないからね。さあさあさあ...(遠ざかっていくナナチ)

ナナチはボンドルドという稀代のゲス野郎の野望を止め、ミーティアの仇を撃つ為に旅をしている。ボーイミーツガールの物語における参謀が冒険をするには、十分な大義名分だ。だが、私はなんとなく違和感を感じていた。彼女の行動には、もっと深い深淵に本当の何かがある筈だ。その疑問は、すぐに明らかになった。彼女は過去に己が犯した罪を清算する為、ボンドルドと対峙するための理由と手段が必要だったのだ。彼女が犯したのは、過酷な実験から生き残ってしまった罪。そして、更に生き残る為に他の子供を踏み台にして生き続けた罪である。そのことに耐えきれなくなり逃げ出すが、彼女が乗り越えるべきは圧倒的な純粋悪であるボンドルドではなく、それに屈してしまい抵抗出来なかった弱かった自分自身なのである。つまりこれは彼女の過去の深淵に対しての、精算と贖罪の物語でもあったのだ。

ナナチというキャラクターは実に聡明である。そしてとても可愛らしい。可愛いですねぇ、ナナチ。恐らくは、保護された子供の中でも飛び抜けて優秀だったのだろう。聡明で優しく、他人を思いやることが出来たのだろう。だから、利用されてしまった。愚かで怠慢で無神経であれば、実験対象には選ばれはしなかっただろう。良い人間であったからこそ、実験対象に選ばれてしまった。出来損ないであれば、こんな筈にはならなかった筈だ。実験の結果に受けた祝福は、彼女にとっては些末なものだろう。それよりも自分の代わりに呪いを受けた相手を見続けること。異質化したミーティアは罪の可視化、罪そのものである。そして、生き延びる為にカートリッジ作成を手伝ってしまった。その業を背負い、毎日罪と突き合わされる日々は想像を絶する余程辛かっただろう。うーん、ナナチ可愛いよナナチ。怖がらないでいいですよ。だから一緒においで。おやおや...可哀想に。怯えていますね...。

ナナチは、ボンドルドに対して確かに深い憎しみを抱いている。あれだけ酷いことをされたのだから、それは至って当然の帰結だ。しかし、育ての親として与えられた愛について葛藤もしている。嫌いだが、嫌いになりきれないのもまた事実なのだ。与えられた愛があまり深いから、立ち切れないで苦しんでいる。まるで、痴皇に与えられた偽の記憶に苦しむ躯様のようだ。愛があったから憎みきれない。否定仕切れない。それは、自分自信の否定にもなってしまうからだ、歪んだ愛着関係が心地良かったから切り離せない。ナナチ、君は私だ。しかし、私は君のように聡明でも潔癖でも美しくも愛らしくもない。ただ、これだけは分かるからどうか信じては欲しい。逃げられない庇護下で絶対的な存在に言われるがままに、カートリッジを作り続ける日々がどれほど辛く苦しいか。もしかしたらこれは間違いなのではないかと思いながら、何も出来ない無力な自分を呪って手を動かすしかないことが。どれほど、やるせなく自己を苛み呪ってしまうか。だから、それを愛だと宣うボンドルドはとても恐ろしいし心底ゾッとした。

あれは、愛なのか?これは、これからも問い続けていかなければならない命題だ。人によっては、あれは紛れもなく愛だと言う人もいるだろう。だが私は、決してそうは思わない。愛とは無償のもの。見返りを求めないものだ。忘れないで欲しい。ボンドルドは、自分の研究の為の犠牲という見返りを求めている。自分のエゴと夢のために、他人の命と尊厳を消費して良い。そんな理屈は、絶対に通してはならない。そんなものは、断じて美しくない。彼が行っているのは圧倒的優位な立場から行っている、ただの洗脳と搾取である。愛にすり替えられた麻薬のような甘い言葉を、断ち切れないまま死んでしまったプルシュカは本当に憐れで可哀想だ。ナナチが愛を語るボンドルドを真っ向から否定し、差し伸べられた手を振り解いた時には非常にスカッとした。この映画で一番のカタルシス場面である。ナナチ、よくやった。君は、やはり美しく賢い。そして強い。素晴らしい、素晴らしい...。愛と言う名にすり替えられた洗脳もとい呪いを解いたナナチは清々しい顔で六層に向かう。呪いを断ち切り、生まれ変わったナナチの行末に、どうか溢れるばかりの祝福がありますようにーーー。

いや〜ナナチ、やはり君は美しいよ。ナナチという、この地上に残された稀有な存在。神の与えたもうた試練に打ち勝ち祝福を得たナナチ。そんな彼女という光に魅せられた私もまた、ボンドルドだったのかもしれませんね。おやおやおやおや....(仮面を被り出す)