音を見るトレーニングをはじめよう(後編)
前記事の続きです。
③自然にある音像を捉える
ここからはスピーカーの音ではなく、
普段の生活の中にある音(環境音)を聴くことで、音像を捉える能力を鍛えます。
⑴ 視点と空間認識能力
まず、今一度「音を見る」という仕組みを考えてみます。
音像とは「なんとなくこの辺りから音が聴こえる」というものだと説明しましたが、
その音の「位置」はどのように示されるのでしょうか?
人は普段から当たり前に物を見て、ほぼ無意識にその位置を把握していますが、
目で見た物の位置は「方角」と「距離」で分かります。
この時の「視点」(対象を見るときの立脚点)は、当然ですが「自分」です。
そして人は、自分を含めた複数の物の位置関係を、空間的に把握しています。(空間認識能力)
実はこの「視点」というのが重要で、
たとえばFPSゲームをプレイしている時、人は自分ではなく画面を視点にして、そこから見える物の位置関係を把握することで、ゲーム内の空間を認識(空間認知)しています。
ゲームに限らず、あらゆる映像も写真も絵も「カメラ」を視点とした景色として人は認識しているのですが、
では、目で直接見ていない場合はどうでしょうか?
試しに、自分の家の前から玄関を入って部屋に至るまでの景色を思い起こしてみてください。
頭の中で景色(物や空間)を想像するときも、必ずどこかしらの視点で物を見ていませんか?
つまり、人が物を見たり空間を把握するときには、必ず「視点」が存在するのです。
当たり前のことのようですが、
人は普段の生活のなかで、この視点をあまり意識せずに物を見ていて、
写真や映像が身近になった現代では、自分の目で直接見ていないものをカメラの視点で見る機会も多くなっています。
おそらくですが、これが音像を見るときに問題になります。
①のトレーニングでスピーカーが作り出す音像を見ていたとき、
どのような視点で見ていたか思い出せるでしょうか?
私の予想では、オーディオに詳しい方や音楽制作をしている方も含め、
既に音像を視認できている人でも、視点を明確に意識している人は少ないんじゃないかと思っています。
その結果どうなるかというと、
音という目に見えないものをイメージするという性質上、視点が自分以外の「カメラ」になってしまうんですね。
これにはもう1つ原因があって、
ある音だけに集中して音像を見ると、選択的聴取が働いて視野が狭くなる状況になるわけですが、
これは視覚的にはカメラの「ズーム」のような働きになります。
視覚の場合でも、何かに没頭していると距離感が分からなくなることがありますが、
これも理屈としては同じで、いわば視点が曖昧になってしまうんだと思います。
(没頭しているから当然とも言えますが)
つまり、音を見るときにも、
視点を意識することがとても大事で、
視点を明確に固定しないと、複数の音像を同時に見れない(俯瞰できない)のです。
実は、前回の②のトレーニングの俯瞰を試す方法は、
視点を固定させるやり方だったんですね。
(これに気付いた方がいたら凄いです。私は最近になって気付きました)
同じ理屈で、
イヤホンやヘッドホンで俯瞰をするときの1つの方法は、イメージ上の視点を無理やり後ろに引くことです。(ただし疲れると思います)
当然ですが、
これは音像が見れる(音の位置を知覚できる)ことが前提の話なので、
視点をいくら意識したところで、音像が見れるようになるわけではありません。
では、視点はどこかに固定するとして、
音像を見る視野を360度に広げるにはどうすればよいのでしょうか?
ここで必要になるのが、空間認識能力です。
人の視界には限りがありますが、
それを補うため、事前の記憶や経験で得ている情報をもとにして、
自分の周囲を空間的に認識することで、視界外にある物もある程度は把握することが可能になっています。
たとえば椅子に座った時、
改めて後ろを見て確認しなくても、背もたれに背中を預けることができるでしょう。
この、視覚が主として無意識的に使用している空間認識能力を意識的に働かせて、
そのまま音像の投影にも利用することで、音像の全方位の視野を実現します。
このときの視点は、もちろん自分(の頭)であり、視覚と同じになります。
(ただし目は顔の前面にあるので、目と耳では視点が感覚的に若干ズレる可能性はあります)
具体的にどうするかというと、
目で見える範囲を含め、自分を中心とした360度全方位の空間をイメージして、
その空間上に音像を投影するようにします。
このトレーニングの目標である、
「目で物を見るのと同じように音を見る」というのは、
視覚と同じ視点、同じ空間で音を捉えるという意味でもあります。
やっていることはある意味、AR(拡張現実)にも似ているので、
イメージ的にはそういう理解でもいいでしょう。
(もしゴーグルに付けたマイク等を使って音像を可視化できたなら、視界内の音像に限りARやMRで表示するようなことも可能かもしれません)
⑵ 音の距離感と捉え方
では、とりあえず耳を澄まして、
身の周りで聴こえる音(環境音)を聴いてみましょう。
おそらく今これを読んでいる方は屋内にいるかと思いますが、
できればテレビやオーディオ機器の音は消してください。
自宅であればエアコンや冷蔵庫などの家電から出る音や、
外から聴こえる街の喧騒や車の走行音、雨風の音、虫やカエルの鳴き声など、
時間や天候や季節によって様々な音が聴こえると思います。
さて、スピーカーの時のように音像は見えたでしょうか?
おそらくですが、すごく見えにくいと思います。
それどころか、場合によっては音の位置もよく掴めないのではないかと思います。
このようになる原因はいくつかあるのですが、
まず、音との「距離感」です。
物の位置を把握するためには、物との距離が測れないといけないわけですが、
目視の場合はいわゆる「目測」と呼ばれる感覚があって、
これは誰もが自然と身に付けています。
目測はあくまで個人の感覚で、その物差し(精度)も人それぞれですが、
(長さや距離を扱う職業の人はその感覚も鋭かったりすると思います)
一般的に、距離が遠くなるほどより大雑把な感覚になってしまうのは、
日常生活において何より身の周りの距離感覚が重要だからでしょう。
このように、視覚においては物との距離を測ることが必須であり、
人が持つ距離感とは視覚が培ったものと言えます。
では聴覚ではどうかというと、
たとえば何か気になる音が聴こえたとき、人はその場所を目で確認しようとしませんか?
日常生活の中では基本的に、音の発生源が何かを知りたければ目視でそれを確認できれば解決してしまうので、
聴感だけで音の距離を測る必要がないのです。
つまり、聴覚においては音との距離感覚が身に付いていないので、
これから鍛えるしかありません。
(音の方向感覚はある程度身に付いているかと思います)
先ほど耳を澄まして聴いたような、遠くから聴こえてくる音などは尚さら、
位置がよく分からなくて当然というわけです。
ただ、自分と対象との位置関係を把握するのに正確な距離感覚は必要ないですし、
基本的には、目測と同じ感覚を使えばいい(共用すればいい)ので、
人によっては直ぐに身に付けられるのではないかと思います。
視界外から聴こえる音は、必然的に空間認識能力を使うことになりますが、
空間内の距離感覚はそもそも目測(どちらも視覚で培われた感覚)なので、
音との距離感覚を掴む1つの方法として、
自分を中心とした空間を広げていくイメージで音を捉えていくと良いかもしれません。
この感覚を鍛えていくと最終的には、
目で物を見るときと同じように、音を聴いた瞬間にその位置を把握できる(音像を瞬時に空間内にイメージできる)ようになります。
それでは続いて、環境音が見えづらいもう1つの要因を説明したいと思います。
たとえば雨が降っているときには雨音が聴こえますが、
皆さんは、雨粒1つ1つの音を聴いているでしょうか?
音の発生源はおそらく、雨粒の1粒ずつが地面などにぶつかって生じる音なのでしょうが、
その1つ1つを聴き分けられる人はたぶんいませんし、
普通に「雨音」という1つの音として捉えていると思います。
先ほど耳を澄ましたとき、屋外から聴こえてくる音を聴いた方もいるかと思いますが、
そういった外の雑多な音も、壁や窓などの遮蔽物を通すことで、
「1つの環境音」として纏まって聴こえます。
そのため、複数の音として個々に捉えようとすると見えにくくなってしまうので、
「環境音」という1つの音源として捉えたほうが、音像として視認しやすくなります。
なお、音の性質上、壁などの遮蔽物を通るときは低い音のほうが通りやすく、また拡がりやすいということもあって、
その音像はぼんやりと広いものになります。
そのため、広い範囲で音を捉えるという意識が必要になってくるのですが、
この点について、もう少し踏み込んで考えてみたいと思います。
学校の授業で、音には波の性質があると習いましたが、
同じく波の性質を持つ「光」はどのように捉えているのでしょうか?
(縦波と横波という違いは別として、捉え方だけ考えます)
人は目に入る光を平面的に写し取って、
両目の視差などから注視点の位置を知覚していますが、
日常生活の中では、光源そのものを直視することはあまりありません。
よく見ている「物」の多くは、
太陽や照明などの光源によって照らされた物であり、「反射した光」です。
(そして、物により反射する光が変わることから、物の形や色や質感などを見分けています)
そもそも照明などの光源は「圧倒的に明るい」ため、直視するものではありませんが、
たとえばシーリングライトなどに取り付ける半透明のカバーは、
眩しさを抑えるとともに、和らいだ光を拡散させる効果があり、
見た目にはカバー全体が光源のように光って見えるでしょう。
※その他の光源としてはディスプレイやLEDインジケーターなどがありますが、
それらも光の出力を弱めたり何かで覆うなどして、直視ができるようにしています。
光の拡散の例を他に挙げると、
霧の中にある街灯の光は、霧の乱反射でぼんやりと見えますが、
それは街灯から伸びる光を可視化しているとも言えます。
では、光の見え方を参考に、
音の世界を光の世界に置き換えてみると、どうなるでしょうか?
音は身の回りの様々な場所で発生していますが、
近くから直接聴こえる音もあれば、
遠くから遮蔽物を伝わって聴こえてくる音もあります。
それは光で言えば、
むき出しの光源や何かカバーで覆われた光源ということになりますが、
(音は光よりも複雑な発生の仕方をするので、単純な置き換えはできないとは思いますが)
それらが周りにある光景をイメージすれば自ずと、
光源に照らされた物(反射した光)もあることが想像できるでしょう。
音にももちろん反射はあって、
光とは少し性質が違うものの、聴感上では音の「響き」や「拡がり」として認識しています。
(室内ではルームアコースティックと呼ばれるものになります)
では、光の見え方と同じように、
そういった副次的な音の位置も、人の耳は知覚できるのでしょうか?
※トンネルの中のような反響しやすい空間の残響や、山彦のようなエコーなど、音源と見なせるほどの強い反射音は除外して考えます
人は、両耳に届いた音の「音量差」や「時間差」から、その音の発生場所を感じ取っているらしいので、
その理屈からすれば、どんな音でも位置を感じ取れるような気がします。
ところが、そもそもの話として、
人は音の位置を捉えることに慣れていないので、
対象の音源に注目して位置を探ろうとすると、そこで選択的聴取が働いてしまいます。
すると、音源の位置は捉えられても、
その音源に付随する副次的な音の位置までは感じ取れなくなってしまうのです。
ではどうすれば良いか、もうお解りかと思いますが、
音の世界でも広い視野を持つことが選択的聴取を抑えるために有効なので、
前述した環境音の捉え方のように、
広い空間で音を捉える意識というものが、ひとつの解決方法になるわけです。
これは光の見え方で言えば、
光源のみを捉えるか、
その周りの光(照らされているもの)も含めて捉えるか、という違いになるでしょう。
(もしかしたらオーディオでは「点音源」という考え方があるので、音像を見る時に「点」という狭い範囲で捉えようとする向きがあるのかもしれません)
そして実際に、
音源の周りにある音も含めて音像を見ることで、
光の見え方のような、音の強弱(密度)の違いを感じ取れるようになり、
音像が立体的な形のあるものとして見えてきます。
さらにそれを時間の経過とともに継続して捉え続けることで、
聴感上の音の変化と連動して、
その音像の形の変化を映像のように見ることができるようになります。
この捉え方を鍛えることで、最終的には、
音の位置や変化を360度全方位の空間で感じ取れるようになりますが、
それは正に、
聴感上の全ての音を同じ視界(空間)内で捉えているということで、
先に述べた全方位の視野が実現するんですね。
この空間的な音の捉え方は、
スピーカーの音(ステレオフォニック)でも重要になってくるのですが、
その話はまた別の記事でするとして、
先に、自然にある音(環境音)でトレーニングをするメリットを説明したいと思います。
⑶ 生音と再生音
「生音」というと、オーディオや音楽が好きな人は「楽器の音」を真っ先に連想するかと思いますが、
身の周りにある環境音も、正真正銘の「生音」です。
スピーカーによる「再生音」は、耳に届くまでの過程で「歪み」が生じている可能性がありますが、
生音にはもちろん、そのような歪みはありません。
つまり、普段からトレーニングの教材として自然にある音を意識的に聴くことで、
オーディオの音の歪みがどういうものなのか感覚的に分かってきます。
ここでの歪みとは、主に聴感上の歪み(ひずみ)のことを指していますが、
音像を映像的に見れるようになってくると、
音像にも歪み(ゆがみ)があることが分かってきます。
たとえば目の前で指を鳴らしたり手を叩いたとき、
聴感上の音の聴こえ方と連動して、
音像の視覚上ではその音の拡がり方や消え方が映像のように見えるわけですが、
そこには当然、物理法則に従った自然な音の拡がり方や消え方があります。
音楽の中に入っている音のほとんどには、リバーブ等の処理によって響きが加えられていますが、
音像にもそれに準じた見え方の「自然さ」というものがあって、
音が歪むと、こういった微細な部分にも「不自然さ」が見て取れるようになるんですね。
現代ではサブスクや配信などで非可逆圧縮の音源を聴くことも多いと思いますが、
音声の非可逆圧縮はステレオフォニックが考慮されていないこともあって、
正確なステレオフォニック再生をすると、そういった歪みが明確に分かります。
もちろん聴感上でも歪みは知覚できるのですが、
たとえば音全体が痩せて(量感が減って)見えたり、音の響きの成分の拡がり方や消え方が不自然だったりと、
正に、目に見えて分かるのです。
音の消え方などは、ダイナミックレンジやS/Nも関係しているかと思いますが、
音圧を上げる必要のあるマスタリングにおいても違いが出やすい部分で、
世界的に有名なエンジニアともなると、こういった部分にもナチュラルさや美しさのようなものが見て取れます。
音の大きさに関していえば、
「環境音」は小さい音のものが多いので、
(静かな音が50dB以下、日常生活にある音が50〜70dBに対して、楽器は80〜130dBみたいです)
このトレーニングでは必然的に耳を澄ますことになりますが、
日常的にそういった聴き方を続けることで、音の微細な変化に鋭くなるような影響もあるように思います。
私は今ではあらゆる音が好きですが、
自然にある音を美しいと感じたり、生活音を愛おしく感じるようになったのは、
普段から環境音をよく聴くようになったのがきっかけです。
もしかしたら騒音が少ない田舎に住んでいるという、環境面でのプラス要素もあるのかもしれませんが、
昔と比べて騒音というものに不快感を抱かなくなったのは、精神衛生的にも良い効果がある気がします。
現代では音楽が身近になったこともあり、
イヤホンやヘッドホンが手放せない方も多いと思いますが、
たまには外してみて、周囲の音を雑音ではなく「今しか聴けない生の音」だと思って、
一期一会の気持ちで聴いてみると、音の感じ方も変わってくるのではないかと思います。
⑷ 手順
まず、自分を中心とした360度全方位の空間をイメージします。
次に耳を澄まして、何か音を1つ捉えます。
(できれば、継続的に聴こえる音がいいです)
視点(自分の頭の中心)を意識しながら、
自分を中心とした空間の中で、その音との距離や聴こえる範囲を探ります。
「だいたいあの辺りで聴こえる」というイメージを強く持って、
空間の中で音像を維持できるようにします。
音像のイメージ方法は、基本的には①のスピーカーで音を見るトレーニングと同じです。
①のトレーニングとの違いとしては、
視点と空間を強く意識して、自分と音との位置関係を常に同じ(一定の)感覚で把握できるようにすることと、
広い範囲で音を捉えられるように、音を見る意識を広げていくことがポイントになります。
④全ての音を見る
最後に、聴こえている全ての音を同時に見れるようにします。
また、この聴き方を意識的なスイッチで切り替えられるようにしましょう。
⑴ 音を拾う意識の違いと選択的聴取
③のトレーニングでは環境音を聴くために「耳を澄ます」ということをしましたが、
実は、耳の澄まし方には2通りあります。
1つ目は、小さい音などが聴こえにくいときにその音に集中する聴き方で、
これはいわゆる選択的聴取になります。
日常生活の中で耳を澄ますと言うと、こちらの使い方がほとんどではないでしょうか。
2つ目は、周囲に警戒して音を拾いにいくような聴き方で、
これが実は俯瞰になります。
(選択的聴取を外すためのアプローチの1つでもあります)
③では1つの音だけを捉えるトレーニングだったので、
前者の聴き方で選択的聴取を働かせても良かったのですが、
これからは複数の音を捉えていくので、後者の聴き方を使うようにします。
周囲の音に警戒するような状況は、日常生活ではあまりないと思いますが、
(もしかしたら職業的に必要な場合があるかもしれませんが)
たとえばお化け屋敷など、暗い場所で音に頼らざるを得ない状況や、
FPSゲームなどで周囲から常に命を狙われている状況などをイメージして、
360度全方位に注意を向ける意識を持つようにしましょう。
そしてこれを、俯瞰で音を聴く際の意識的なスイッチにしてください。
これまであまり説明していませんでしたが、
俯瞰で全ての音を見るような聴き方は、それだけ脳を働かせることになるので、当然疲れます。
視覚でも、目に映る全ての物を注意深く見ていれば当然疲れてしまうので、
普段は必要なものだけに注意を向けるよう、無意識的な自制(注意のコントロール)が働いています。
聴覚ではさらに、無意識的な音の拾い方と選択的聴取によって脳の消費カロリーを抑えるような運用をしているので、
たとえ目で見るのと同じように音を見れるようになったとしても、
やはり視覚と同じような注意のコントロールが必要になってくるのです。
そして視覚の場合は、視野という概念で意識的なコントロールが自然と出来るのですが、
(たとえば運転中に広い視野を持つように意識するなど)
聴覚ではこれまで選択的聴取しか使ってこなかったので、
意識的に選択的聴取と俯瞰を切り替える(または注意の向け方を変える)ことも、トレーニングの中で身に付けなければなりません。
これは私の実体験なのですが、
常に耳を澄まして周囲に注意を向ける聴き方を続けていると、
たとえば後方の音が気になり過ぎて、聴きたい音に集中できないことがありました。
(テレビを観ているときや、飲み会で居酒屋に行ったときに実際にありました)
つまり普通であれば無意識的に選択的聴取を働かせている状況になっても、
逆に意識的に選択的聴取を使うことができない(というかやり方がわからない)ことから、
支障が生じてしまう可能性があるのです。
私が自らの勘だけを頼りに、独自にこのトレーニングを始めたときは、
そもそも選択的聴取という聴覚の機能も知らなかったので、
当然このような事態になることは予想もできませんでした。
他の方には起こらない可能性もありますが、
もし同じような状況になったら、
視覚と同じような注意の向け方を意識してみてください。
とはいえ、なるべく支障が生じないようにと言うことで、
先ほどの「意識的なスイッチ」を使います。
よく勉強では「頭の切り替え」が必要だと言われますが、
これと同じ要領で、
日常生活とトレーニングでの音の聴き方を明確に(意識的に)分けることによって、
おそらく感覚的な混乱をある程度は避けれるんじゃないかと思います。
また私にこのようなことが起きたそもそもの原因として、
短期間で集中的にトレーニングをしすぎたこともあるかもしれないので、
少しずつトレーニングを進めていくことをお勧めします。
⑵ 手順
(最初は③と同じです)
まず、自分を中心とした360度全方位の空間をイメージします。
次に耳を澄まして全方位に注意を向け、何か音を1つ捉えます。
(できれば、継続的に聴こえる音がいいです)
視点(自分の頭の中心)を意識しながら、
自分を中心とした空間の中でその音像の形をイメージします。
次に、その音像のイメージを維持しつつ、
再び耳を澄まして全方位に注意を向け、他に聴こえる音を1つ捉えます。
その音の音像の形をイメージできたら、先の音像と共にそれも維持します。
そしてまた耳を澄まして…を繰り返していき、
その場で聴こえる全ての音の音像イメージを維持できるようにします。
周囲に音が少ない時は、
たとえばテレビやオーディオの音を小音量で鳴らしたり、
自分で指を鳴らしたり手を叩いたりするなど、色々と工夫して音の数を増やすと良いでしょう。
外を歩きながらトレーニングするのも良いですが、
音を聴くことに集中しすぎて視覚が疎かになるといけないので、
早朝の散歩など、できるだけ周りに人が少ない静かな状況のほうがいいと思います。
音像をイメージするスピードを上げていくことで、
最終的には「耳を澄ます」という意識的な切り替えをするだけで、
その場で聴こえる全ての音の音像がイメージできるようになります。
⑶ 音を見る習慣を身に付ける
以上が私が実際に行ったトレーニングの内容になりますが、
アプローチ的には、音像を見れる数を少しずつ増やしていくことで視野を広げていく(選択的聴取を克服していく)といった感じです。
ただ、自分の勘を頼りに手探りで進めてきたことなので、
理屈がだんだん分かってきた今となっては、もう少しスマートなやり方があるのかもしれないと思っています。
人の聴力には個人差があるので、
選択的聴取が働きやすい人や、音の位置を知覚しにくい人、空間認識能力が苦手な人などは、
習得に相当な時間がかかるかもしれませんし、
もしかしたら若い人などは、感覚的にすぐ習得できてしまうのかもしれません。
いずれにせよ、
スキルは維持することも大事なので、
習得できた後は、意識的に音を見るという習慣を身に付けたほうが良いでしょう。
幸いにも、日常生活の中で音は常にあるものなので、
(無響室でさえ自分の血流の音が聴こえるらしいです)
すきま時間にでも、いつでもどこでもトレーニングすることができます。
日常的に音を見るのが当たり前になって、
全ての音を映像で見れるぐらいのレベルになると、
もはや、無意識的にも音を見ている(位置を把握している)ような気がしてくるのですが、
それは正に、目で見る感覚そのものです。
(どちらかと言うと、空間内の音の密度の違いをまとめて形として見ているような感じかもしれません。聴感と音像とのマッチングは、聴こえたタイミングで現れることから不思議と分かります。)
ぜひこのトレーニングを通して、
音の捉え方をアップデートしていただけたらと思います。
えらい長くなってしまいましたが、
次回は、音を見ることで分かるCDのマスタリングの違いについて書く予定です。