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今こそ、ひとつに。【#コロナに負けるなファイターズ】

主砲に復調の兆しが見え、先発陣が勝てるようになり、借金も少しずつ減ってきて上のチームの背中にようやく手を伸ばせるようになったのに、ファイターズにはまだ神様が試練を与えるらしい。

4月30日、その一報はチームだけでなくファンにも衝撃を与えた。中島卓也、西川遥輝、清水優心の新型コロナ陽性が判明したのである。清水と行動を共にしたため濃厚接触者とされた淺間を含め、チームを開幕から支えてきた主力が削られることになったのだ。翌日もコロナの波は止まらない。チームのムードメーカーであるルーキーの今川や合流したばかりのR.ロドリゲス、打撃面でチームを鼓舞してくれた高濱、郡の4選手と一塁コーチャーも務める飯山コーチ、さらに球団スタッフ2名が新たに陽性となってしまった。

ファイターズは以前にも流行りのウイルスによって主力を欠いた状態で試合をしたことがあった。2009年のことである。旭川での試合の後、発熱や不調を訴えた選手が多発、インフルエンザの集団感染とその疑いのある選手がでてしまったのである。

当時、監督は梨田昌孝氏であった。登録抹消をすると再登録までに10日間かかることを懸念し、投手陣だけの抹消として、選手の回復を待ちながらギリギリの状態でスタメンを組むことになったのである。チームの状況としては、シーズン終盤の優勝争いをするような時期だ。ゲーム差は徐々に縮まり、迫り来る他球団の足音を聞きながら、それでもチームの危機を乗り越えることで精一杯だった。

当時を知る選手はもう現役にほとんど残っていない。だが5月1日の試合、サヨナラ勝ちを掴むきっかけをくれた選手たちは、あの当時を知る者たちと、当時と同様にチームを何とかしたいと強い気持ちを持った若き助っ人たちだった。

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9回裏。マウンドには西武ライオンズの守護神・増田達至が上がる。その前の回、8回に登板した平良によって、ファイターズは完全に息の根を止められたような重たい空気が流れていた。それに今年のファイターズにとって、最終回に3点のビハインドはデカすぎると恐らく誰しもが思っていただろう。

それをぶち壊したのが、この回の先頭打者・平沼翔太だった。前夜、試合途中でチームに合流し、7回の守備からサードに入った。しかし、打者としては見逃し三振、その流れのまま9回に痛恨の失策を記録。流れを完全に相手に渡してしまったのである。その彼が、最終回の絶望的な展開を打ち砕く鋭い打球をライトの前に転がした。ここで、大きく流れが変わった。

続く打者は主砲・中田翔。彼は2009年のインフルクラスターの際に二軍から招集された若手選手の一人だった。当時の苦しみや辛さを知っていて、こういう時に人一倍「俺が何とかするしかない」と目をギラつかせてくれる頼もしい選手へと成長した北の主砲は、増田の高めに浮いたスライダーを逃さなかった。振り抜いた勢いそのまま、レフトスタンド中段に突き刺さる2ランショット。大きすぎるように見えた点差は気がつけば1点に。勝利が手の届く場所までやってきた。

その後渡邉が三振に倒れ、近藤は中安打で出塁。打席には大田泰示が立つ。前の試合では初回から全力疾走、華麗な補殺など、危機的状況を打破したいという気持ちや責任感、意地を感じさせてくれるプレーが光っていた。その初球、大田の放った打球はレフトフェンスを直撃するタイムリーツーベース。これで同点。増田は続く石井に四球を与えたところで降板、宮川がマウンドに上がった。

ここで打席には万波。お立ち台には上がったことがなく、彼に至ってはこの日、今川に変わって特例で登録されていた。打球は悪くなかったと思うが、併殺シフトを取っていた二塁手・山田の正面。走者の判断が良く、併殺を免れたためにチャンスはまだまだ続き、特例合流組の宇佐見が打席に立った。続く杉谷には「僕が決めてきます」と言ったようだが、宮川の制球が定まらずストレートの四球で出塁。9回二死満塁。ドラマはまだ終わらない。球場のボルテージは最高潮。杉谷拳士が打席に向かった。

今シーズン、一軍でのヒットはまだないが、それでも監督は特例で杉谷を一軍に上げてきた。打撃への期待や守備面の補填でないことは一目瞭然だろう。彼に期待されていることは、どん底に落ちた雰囲気をぶっ壊すような底抜けの明るさと、それによりチームとファンに一体感を与えることだと思うのだ。でもそれは杉谷がチームに貢献することが大前提であり、とても難しいことだと思う。だが杉谷がそれを理解していたのだ。こういう場面、自分に回ってくると予想していたから、心の準備が出来た。変な高揚感はあったと思うが、彼はいたって落ち着いていた。それが押し出しの四球を生み出したのである。

当然、あの場面においては様々なタラレバがあるだろう。だが、相手に修正させる時間も余裕も与えないほどの猛攻がチームを勝利に導いた。

特例での合流組は「俺らで何とかしなくちゃ」と自覚と決意を持って試合に挑み、ベンチ入り全員が「勝ちたい」と強く思った結果、逆転サヨナラ勝ちに繋がったのだ。長いシーズンの中で主力が怪我をして離脱することや、思うようにプレーが出来なくなることだってあるだろう。それでも気持ちを強く持つことが出来たなら、きっとファイターズはもう負けない。

昨夜、5月2日の試合中止が発表された後、他球団のファンからも「#コロナに負けるなファイターズ」をつけたコメントをたくさん見た。とてもあたたかくて、救われたような気持ちになった。きっと選手たちも同じだと思う。ファンが信じる気持ちは選手やチームを強くする。最下位でコロナクラスターな今だけど、ここからの下克上を信じている。這い上がる以外の選択肢はないのだから。

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