こんな夜に思うこと

世の中のいろんなこと、モヤモヤすること。
色々ある。口にせずとも、SNSに書かずとも。
ひっそり心の中で思っていること、感じていることは誰しもあるだろう。

私はそんな時、カネコアヤノの音楽を聴く。
なぜ彼女の音楽を聴くのか。

多分それは、彼女の音楽において、
生きること、日常の些細な描写に、
真摯さを感じているからだと思う。

ここでは本人の制作意図や客観的な考察ではなく、あくまでその当時の自身の環境下における個人的な解釈の中で、"カネコアヤノの真摯さ"を「明け方」という曲で伝えられたらと思う。


「明け方」

不安なまま朝を迎えてしまった
だからギターを弾くしかないんだ

(中略)

派手なドレス ダイヤと穴空きGパン
好きな時に 身につけなよ勝手だよ
私は怒る すぐに忘れちゃいけない
すぐに怒る 悲しいからこそ

言わなくていいこと たくさんあるね
顔をあげてくれよ 慣れてきた毎日も
必ずいつか終わるのさ
それならもっとふざけていてよ 
上手に笑えるようになんてなるな

「明け方」/『燦々』収録  


拠り所と、片鱗と。

「不安なまま朝を迎えてしまった だからギターを弾くしかないんだ」という、この最初のフレーズ。この曲が収録されたアルバム『燦々』がリリースされたのは2019年9月だが、それからしばらくしてコロナがやってきて漠然とした不安だったりメディアやSNSを通じて目に入る情報や言葉にモヤモヤしたり憤ることが多くあった。

不安なまま朝を迎えてしまった
だからギターを弾くしかないんだ

「明け方」

そんな時に、私は「だから音楽を聴くしかないんだ」という気持ちで、この曲を聴いていた。音楽が好きだから、私は音楽でしか乗り超えられない。心の拠り所がそこにはあった。

そして、不安な現状を忘れるため、払拭するため、乗り越えるために「ただただギターを弾くしかない」という結果に至るのが、カネコアヤノという音楽家としてのスタンスそのものを表すようで、言葉で多く語らずとも全てを自身の音楽や演奏で打ち返すようなライブステージにも通ずるような気がした。このワンフレーズでその片鱗を感じ取れた気がした。それがなんだか嬉しかった。

忘れちゃいけない感情

本当に個人的な些細なことから社会全体のことまで日常生活の色んな場面で覚える自分の「怒り」の感情。大人になるにつれて「怒る」ということを忘れていたし、そもそも怒りっぽい性格でもないが、とはいえ心の中では色々思うことはある。

私は怒る すぐに忘れちゃいけない
すぐに怒る 悲しいからこそ

「明け方」

コロナ禍では特に、(具体的にあえて書かないが)今まで自分が見落としていたことや見ようとしてこなかったことの中で「怒り」を感じたり、痛感したり、色々あった。

しかし、このフレーズで、私のこの感情は捨てなくていいんだ、流さなくていいんだと知れたし、悲しいから人は怒るんだとハッとさせられた。

よく「怒られなくなったら終わり」と人は言うけれど、それはその人への期待も信頼もなくなった証でもある。家族、友人、恋人、どんな関係であれ、人に対して何かを諦めたら、怒るエネルギーすらなくなる。

その悲しみは何かに対して自分の中で沸き起こったものもあれば、逆に誰かに自分が込み上げさせてしまったものも、きっと両方ある。自覚がある。

だからどっちも忘れないようにしよう。
そう思ってる。

不器用でも、愚直でも、真摯でも

何かに疑問を感じたり、おかしいと思ったり、傷ついたりした時に流すことは容易だけれど、それって何も良くならない。必ずしも"スマートな対応"(≒向き合わない、解決しないこと)をすることが正しいわけではなくて、ちゃんと考えること、向き合うことはすごく大切な過程である。

色んなことを流して生きるより、ちゃんと怒って生きることの方がよっぽど健全だし「真摯に生きるってそういうことなのかも」と、思わされた。

「グレープフルーツ」では「恥ずかしい それはかっこいい」と歌う。「閃きは彼方」では「僕らの日々へ 僕らが誠実であれよ」と歌う。

もしかしたらその"真摯さ"は人によってはカッコ悪く見えるのかもしれないけど、それでもいいから、この歌詞たちのように真摯でありたいなと思う。

この曲は最後にこう歌って終わる。

不安なまま朝を迎えてしまった
だからギターを弾くしかないんだ
私は怒る すぐに忘れちゃいけない
すぐに怒る 愛していたいと

「明け方」

怒るのは悲しいから、でもそのもっと奥先には愛があるからだとわかると、私の心はふっと落ち着いた。歌詞というより自分自身に。

無関心だったり、好きじゃなければ、この怒りすら沸かないからだ。

曲自体は人への愛を歌っていると思うけど、何か大切なものがある人には、その愛がある人には、とても響くものがあると思う。

曲の解説に関しては、ぜひカネコアヤノ本人がインタビューに答えているライナーノーツをぜひ読んでほしい。「明け方」以外の楽曲も読むことができる。


ここ最近、悲しくて悔しいことがあった。
だけど改めて思った。真摯であり誠実であると。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?