味噌おにぎり

夕飯の支度をしていた時、大学生の息子が帰ってきて、お腹すいたーと、冷蔵庫を物色。
もうご飯できるからーとバタバタしていると、
炊飯器がご飯炊けたよとメロディをかなでる。

「小さくていいから、味噌おにぎり一個!」

息子がおどけたようにお願いするので、
しかたないなあ小さいのねーと言いつつ炊飯器をあけた。

それに、味噌おにぎりは冷やご飯なんよ。と
心の中で言う。

それは実家のおきてだった。
ほんとはそんな決まりないかもだけど。

あつあつのおにぎりに味噌を適当になすりつけて渡すと
息子は目を輝かせて頬張った。


子どもの頃を思い出す。

こんなふうに、小腹が空いたわたしに
母が味噌おにぎりを作ってくれたのは
決まって母が機嫌の良い時であった。

あの日は夕方に母が家にいて、
そんなことは珍しかった。

これおいしいのよ〜といたずらっ子のような目でわたしに味噌おにぎりを差し出した。

機嫌の良い母に戸惑い、
でも、
うれしくて、

どきどきしながら、ほおばる。

もうこれからずっと
母がこんなふうになってくれるといいなあ!
どうして今日はニコニコしているのだろう。

どうしよう、どうしよう

おいしいでしょう?

味なんてわからない。
不安と喜びが入り混じり、必死でつめこむと
噛まずに飲み込んだ。

なにをそんなに慌てているのよ。

あ!機嫌悪くなっちゃった!
おいしい!おいしいねえ!

もう母は台所の方を向いてしまった。

失敗した、と子どもながらにも思った。



「はあー空きっ腹にしみるなあ
味噌おにぎりは絶対おいしいよねー。」

うん、
味噌おにぎりは絶対おいしいよね。

絶対おいしいから
わたしに食べさせてあげたかったんだよね?

美味しかった。
本当に美味しかったよ!


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