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虚しさから猛ダッシュするひと

私のnoteは大抵、休日に書かれている。休日というのは土曜日や日曜日、祝日のことではなく、週に1回病院から与えられている研究日のことである。同業者なら耳馴染みのある言葉だと思うのだが、診療技術の向上などに努めるべく仕事が休みの日を指す。本来であれば研究に充てるべき時間だけれども、特に強制されているわけではないので私は自宅で本を読んだりこれ(note)を書いたりして好きに過ごしている。

日曜日や祝日は仕事が休みでも3歳児が家にいるので、あまり自由に過ごすことはできない。最近はレゴブロックやシルバニアファミリー等与えておけば短時間であれば一人遊びもしてくれる(こともある)のだが、せいぜい15分程度のことだし、いつ子どもに声をかけられるか分からないのでなかなか落ち着いて本を読むのも難しい。音楽ひとつ流すにも、プリキュアの曲じゃないと嫌だ!とごねられるし、世界情勢でも確認しようとテレビを点けると、リモコンを手に取った時点で、ニュースは嫌だからね!と念を押される。自由に過ごさせてくれ〜!と思いながら何とか耐える。仕事と育児の大変さの比較は虚しいだけなのでやらないが、仕事してる時の方が精神的に楽だな〜というのは子供を産んでからずっと思い続けていることではある。

そんなこんなで何とか週末を乗り越えて休日にありつくと、とにかく自分の好きなことをやりまくるぜ!と鼻息が荒くなる。ものすごく充実した1日を過ごしちゃうぞ!あれもこれもやりたい!と気持ちだけは張り切っている。

…しかし、休日を終えてみると、実際は大したことはしていないのだった。本を読んだりちょっと美味しいものを食べたり家の掃除をしたり、たまに髪を切りに行ったり服を買ったり…まあその程度のことである。休日直前の意気込みと実際の休日の内容にかなり乖離があるんじゃないか?と思いながら眠りにつき、また翌日から仕事が始まって週末に突入して苦しむ。ここ数年はずっとその繰り返しである。

思うに、理想の充実した人生というものが自分の頭の中にあって、休日の直前にはそれが実現できるような気がしているのだが、実際には週末や他の平日の埋め合わせをするのに精一杯で、全くそんな理想には追いつけやしないのだった。そもそも、理想の充実した休日の過ごし方が何なのかもよく分からない。どこか遠く(どこ?)に出かけたり、高尚っぽい芸術(何?)を楽しんだりすることが私の中では理想の充実に近い気がするのだが、全く具体例が出てこない。具体例も出せない理想はタチが悪い。

思い返せば、小学生の頃から1日の計画を立ててそれを実行していく習慣があった。朝起きるとメモ用紙を取り出し、今日は算数のドリルを10ページ、漢字の練習を3枚、縄跳びを30分…などと書き出してチェックリストを作っておく。全てにチェックがつくと、小学生なりに”ああ、今日も充実した1日を過ごせたなあ…”などと満足していた。

可視化された充実感。思うに、今はそれがないから苦しんでいる気がする。こんなこと、今更言うまでもないが、子供は全く思い通りにならない。子どものいる生活はチェックリストという概念がない。作ったところで全てにチェックはつかないし、他人(子ども)の暮らしをチェックリストで管理するようなやり方も好きじゃない。
結果、週末の1日が終わる頃のリビングには、虚脱した空気が漂っている。無限に時間があった気がするのに、一体私は1日何をやっていたのだろう…。散らかりまくったリビングで、娘はお気に入りのプリキュアのアニメを観ている。またテレビを長時間観せてしまったなあ。あーあ。小学生の頃はチェックリストを全て消してご満悦だったはずの週末の夕方、母になった私は大抵がっくりしている。

お手軽に充実感を得るべく、この春からジムに通うことにした。既に入会を済ませて、仕事帰りにガンガン走りまくっている。スポーツ全般が苦手だし嫌いだが、長時間黙々と走ることだけは昔から得意だった。イヤホンを耳に突っ込んでランニングマシンの上でひたすら走る。20分を過ぎたあたりからかなりキツくなってくる。インストラクターの声が聞こえる。あなたはどうしてジムに来ようと思ったの?胸に抱いた目標を思い出して!苦しいし汗だくだしで物が考えられなくなっているのに、そんなことを言われても何も思いつかない。
普段はごちゃごちゃと頭の中で妄想を捏ねくり回して遊ぶのが趣味の私だが、走っていると(特に息が上がってくると)、苦しい呼吸や汗だくの背中、傾斜のかかった斜面を走るせいで重くなった脚ばかりが意識されて、心がどこかに行って身体だけになる感じが気持ちがいい。

行き詰まった時の選択肢が多いのは良いことだなあと思う。退屈に追いつかれそうになったら、これからは即走りに行く。ジムに通う事情は人それぞれなのだろうが、私はシェイプアップやスタミナ改善に興味はなく、ただ不安だとか虚しさを誤魔化すために走りまくっている。

Big Love…