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人生最後の試験

総合内科専門医試験が終わった…。結論から言うとめちゃくちゃ難しかったです。過去問だと9割くらい取れてたのでまあなんとかなるっしょと思ってたんですけど、本番は断然難しかったですね。

疲れすぎて意識が朦朧としているので、レポを書いてお茶を濁します。

前日の夜、ベッドに入るまでは全く緊張もせずいつも通りだったんですが、ベッドに入ったら目が冴えて眠れなくなってしまってちょっと面白かった。今更試験に緊張したりなんかしないだろと思ってたのに、入眠した後も数時間ごとに目が覚めて、普段はアラームが鳴っても止めてもう一度眠るくらい寝汚いのに、なんと試験当日は朝の5時にぱっちり目が覚めてしまった。
しかも猛烈に胃の辺りが気持ちが悪かった。ぱっちり目が覚めたけれど、頭の奥の方に解消されなかった眠気が重く居座っているのがわかる。コンディションは最悪だな…と思いつつ5分くらい寝室の天井を眺めていた。
体調が最悪でも試験日なんだから起きないといけない。前日はあまり酒は飲まないようにしたし、たまにやる二日酔いよりはマシだろこんな体調は、と思いながら起床する。

文鳥のケージに掛かっている遮光性のおやすみカバーを除けると、いつもは7時半くらいに起こされる文鳥は、”え…なんで今日はこんなに早く起こされるんですか?”と怪訝な顔をしていた。普段はおやすみカバーを除けると待ちきれなかった様子で激しく呼び鳴きをするのに、眠いのかしばらく静かに羽繕いをしていた。

文鳥にいってきますの挨拶をしてから試験会場に向かう。日曜日の朝の空いている電車に乗るのも久しぶりだ。子どもがいるとなかなか休日の朝の早い時間に電車に乗るのは難しい。空いている電車の中で、スプラトゥーン3のプレイ動画を観る。
会場の最寄り駅に着くと、医者らしい人たちがぞろぞろ歩いているのが見えたので、特に地図も確認せずついていった。
医者ってなんで一言も口をきかなくても医者だって分かるんだろう。今回は特に内科医しか受験しない試験だったからか、真面目で寡黙そうでいかにもおしゃべりが弾まなさそうなタイプの人間が群れをなして最寄り駅から会場へと歩いていくので、なんだか面白かった。
私も群れの一員になって一緒に彼らと歩いたが、なぜか皆一様に黙々と早足で歩いており、いつの間にか大きな群れから遅れてしまった。内科医ってそんなにせかせか歩く生き物だったっけ?私がとろいだけかもしれないが…。

会場に着くと大きなエレベーターに詰め込まれて上の階へと運ばれた。内科医が20人くらい詰まった鉄の箱がぐんぐん上昇していく。エレベーター内には係員のお姉さんがいて、エレベーターから出たら検温がありますとか、マスクは外さないようにとか、色々な注意事項を教えてくれた。鉄の箱に内科医が詰め込まれるたびに同じことを喋っているんだろうなという感じの流暢さだった。全員黙って大人しくお姉さんの話を聞いていた。

教室に入って唖然としたのが、机に備え付けられた椅子がパイプ椅子だと言うことだった。そんなあ!試験は2時間×3コマの合計6時間だったのだが、6時間腰を落ち着ける場所としてパイプ椅子って不適切すぎませんか…?普段外来をやっている時や病棟でカルテを書いているときは少なくともパイプ椅子よりはマシな椅子に座っているので、これにはちょっとびっくりした。

試験が始まると、予め提出しておいた写真と受験者本人の顔を照合する作業が始まる。試験官が座席の間を練り歩き、写真と私たちの顔が一致するかどうか一人一人確認するのだが、今は新型コロナウイルスの流行のせいで全員試験中もマスクを着用しており、一体どこまできちんと確認できているのかなあと思った。
試験会場でお手洗いに行ったり飲み物を買いに行ったりした時に、前の病院で一緒に働いていた同僚っぽい人なんかを見かけることもあったのだが、お互いにマスクをしていて確信が持てず、結局誰とも挨拶はしなかった。試験は丸一日かかったのに誰とも口もきかず、手持ち無沙汰の時に気を紛らわせようと思ってリュックに入れておいた鳥のぬいぐるみを休み時間にこっそり揉んだりしていた。

試験についてきてくれたありがたいぬいぐるみ

試験は最後のコマは早めに終わらせて退場した。出来としては全く満足いくものではなく、合格しているかどうかは五分五分だと思う。一か八かで選んだ選択肢は半分くらい外していた。試験にギャンブルを持ち込んだ時点でそれは負けであるから仕方がない。
どちらにせよ、来年以降再受験するとなると大量のレポートを提出せねばならず、それがかなり面倒くさいので受かっても落ちても私の受験は今回が最後だった。
本当は、この試験は昨年の同時期に受けているはずの試験だった。
新型コロナウイルス流行のせいで、昨年の試験は予定日の1ヶ月くらい前に中止のお知らせが届いてキャンセルになった。仕事がかなり忙しい時期だったので、”そんなことなら勉強などせず仕事に集中したかったよ!!”と強く思ったが、昨年は全く勉強が足りていなかったので、結果としては1年試験が延期になってちょうどよかったのかもしれない。
そして、1年延期になっても特に余裕で合格♩というわけでは全くなく、試験後の実感としては落ちた可能性も濃厚なので、やっぱり総合内科専門医試験って大変なんだなという感じだった。落ちていたら職場の上司に泣いて謝ります(仕事に穴をあけて受験したため)。

試験が終わった後、会場近くの街をしばらくぶらぶら歩いてから帰った。普段あまり足を運ばない場所だから、目にする全てが物珍しかった。駅前には大きな書店や洒落た花屋があって派手な感じなのに、駅から少し離れた場所は古いマンションやアパートが立ち並んでいて、そのギャップが良かった。少し足を伸ばすと大きめの公園があって、上半身裸の小学生くらいの男の子が自転車に跨って猛スピードで走っていた。母親らしき人が慌てて後から男の子を追いかけていく。
知らない街、知らない人たちの生活。内科医ってどこかみんな似ていて、均一な集団を眺めているとそれはそれで面白いのだけど、丸一日そればかりやっているとやっぱり飽きてしまうから、全然知らない街の全然知らない子どもとその親ばかりの公園に足を運んでバランスをとった感じだった。

その後は大人しく家に帰った。明日はまた朝から外来業務だ。専門医試験は受かったか落ちたか判然としないのだけれど、勉強したことは実務に役立つ形で私の中に残るからラッキーだなと思う。
今回の試験が、実は私の人生最後の試験だった。今後何かに目覚めて新しい分野で試験を受けようと思わない限り、私が受験生になることももうないのだ。
勉強のせいで控えていた趣味にも今後は精を出そうと思う。絵を描くために買っておいたiPadをたくさん使いたい。やりたいことがたくさんあるな。実際手を出すとうまくいかなかったりやる気が折れたりすることの方が多いから、こういうふうにわくわくしている時が一番楽しいと知っているのだけれど、やっぱり素直にわくわくしてしまうな。

Big Love…