V●RY妻にはなれないが

退勤後に髪を切って、帰りの電車の中でこれを書いている。髪色を久しぶりに黒に戻したのでヘンな感じだ…。

新型コロナに罹患した後からどうも髪の調子が悪くなった気がして、具体的には抜けやすくなった。と言っても見た目上気になるほどではなく、抜けている気がするだけ。これは私が新型コロナ後遺症の患者さんを診る機会がそれなりにあって、彼ら彼女らから抜け毛の相談をされることが多いせいかもしれない。髪を洗えば誰でも多少は抜けるから今まで意識したことがなかったのだけど、患者さんから相談を受けていると、自分も罹患してから髪が抜けやすくなった気がしてくる。

大学を卒業するまでずっと黒髪で一度も染めたことがなくて、働き始めてからは赤寄りの茶色とか青みがかった黒とか、病院勤務に差し障りのない暗い色の範囲で色々楽しんできた。初めて髪を染めて親に会った時はなんだか緊張した。もう良い歳だったしとっくに実家を出ていたのに無駄にドキドキした。"あら、良い色じゃない"と言われてなんとなく安心したことを今更思い出す。

子どもを産んでからも欠かさずせっせと美容室で髪を染めてもらっていた。自分で染めたことは一度もないな、そういえば。自分のキャラデザを変えるのは面白いと思うタイプだから、髪を切ったり染めたりするのは割と好きだ。染め始めてからは、死ぬまでこれをやるんだろうなと思っていた。

でも、髪の毛へのダメージを理由に黒に戻すことになった。多分25歳くらいの時に初めて染めたから、ほんの10年の楽しみだったことになる。またいつか、ダメージを無視して髪を染める日が来るのかしら。

前にも書いたけれど、美容室に行くと大抵、母親向けの雑誌を置かれるようになった。毎回パラパラめくって必ず読む。”ママだってオシャレしたい!”、”子どもと公園デビュー、ママ友ウケするファッションの最適解は?”、”子どもが一番だけどヒールも諦めたくない…❤️”などなど、様々な特集が組まれている。

これが本当に毎回読むたびに律儀にイラつかされる。なにがそんなに腹立たしいのか自分でもよく分からないのだが…。"ママって、本当に大変だよねっ!"という目配せが嫌なのかもしれない。確かに大変だが私はそれをあなたと共有したくない。私の苦しみをあんたのそれと一緒にしないでくれ!私の苦しみは世界でたったひとつのオリジナルな輝きを放つオンリーワンの苦しみなんだから…。

指摘されるまでもなく、傲慢の極みである。ママ向けの雑誌を読むたびに自分のそういうどうしようもなさに心底げんなりする。げんなりしながらも、イラつくのをやめられない。そして、毎回他の雑誌も一緒に置かれるにも関わらず、真っ先にママ向けの雑誌を手に取ってしまう心理も、自分ごとながら意味不明である。私、本当はV●RYのことが好きなのかもしれない…。私たち、いつか分かり合える日が来るのかな…。

帰りに百貨店に寄って化粧水などを買った。BAさんに”肌診断をしていきませんか?”と言われてなんとなく頷いてしまい、顔の左半分の化粧を丁寧に剥ぎ取られてカメラを頬に当てられた。皮膚のターンオーバーについて一生懸命説明してくれるのを神妙な顔できく。家にある皮膚科の分厚い教科書のことを思い出しながら…。

肌の状態はキメと血色はかなり良く、しかしちょっと乾燥してますねとのことだった。なかなか子どもと一緒だとケアする時間もなくて…へへ…などと要らぬ言い訳をしている自分に気づく。それさっきV●RYで見たフレーズじゃん。来月も美容室に行ったら絶対V●RY読みます。

Big Love…