秋風索漠は蜜の味

「暑さ寒さも彼岸まで」とは言い得て妙で、毎年綺麗にすとんと気温が落ち着くのには驚く。

私はかつて秋の寂しさが苦手だったのだが、今ではその寂しさもまた味だと思えるほどの落ち着きを得た。

この世は大別して嬉しい事とそうでない事に二分できるが、嬉しくない事まで楽しめたら人生は二倍楽しくなるな、と小学生のような算段を思いついてからは随分と生きるのも楽になったものだ。

今日は空気の温度や風の優しさが草葉をなびかせる音が心地良い日だった。
こんな日に猫と共にうとうとする仕事があればどれほど良かったか。
とは言っても私は幸福を得るに金のかからぬ方だから、休みの日だけの副業とする程度でもそこそこ満足しているのだが。

「バス停を毎日少しずつ動かして自分の家の前まで持ってくる」という笑い話があったような気がするが、この穏やかな秋の風も気がつけば苛烈な冬を私の目の前まで運んでくるのだろう。

私は寒さが苦手なので冬があまり好きではないのだが、一年も間を置くとあの苛烈さを忘れ、猫を布団の中に招いて共に眠る日を楽しみにしてしまっている。

猫がまだ小さい頃は夏であっても私の上やら足の隙間やらで眠っていたのだが、最近は私の隣に敷いた座布団で眠るようになってしまったので余計に寒さが恋しくなっている。

変わりゆく季節に身を置きながらも、私はいまだ停滞の中にいる。
終わらぬ秋の中に。
私のかすかな日々がいつか冬を、そしてその先の春を引き寄せる事を願い、今宵も猫を横に眠るのだろう。

今夜だけでも私の上で眠ってくれないかなあと少し思ったりもする。