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MUSIC MAN Sabre Bass 1979

エレキの神様、レオ・フェンダー氏がフェンダー社の次に世に放ったのが、ミュージックマンである。ブランドのネーミングと同様に音も直球勝負で、誰が聞いてもミュージックマン・サウンドと分かる音がする。
ミュージックマン社は1972年に設立され、最初の製品はベースやギターではなく、アンプだった。
ミュージックマンの最もポピュラーなモデルは1976年に発売されたスティングレイ・ベースで、数々の著名ミュージシャン達が愛用してきた。
筆頭としてミュージックマンの名を世に知らしめた存在は、Mr.Music Manこと、ルイス・ジョンソンだろう。
彼の為に開発されたベースと言っても過言ではない。

ルイス・ジョンソン

サンダーサム・ジョンソンの異名を持つこの人のプレイは、とにかく激しい。右手がブンブンまわる。私は学生の頃にジョージ・デュークの来日コンサートで2度も生で観ることが出来た。
その時の模様がこちらで、ルイスの見せ場だけが上手に編集されている。

ただし、この時に使用しているベースは、伝説のヤマハBBカスタム(ルイス・ジョンソン仕様で未発売)こんな音がするBBは他で見た事が無い。
私が死ぬまでに一度は弾いてみたいベースの最右翼である。
※ルイス・ジョンソンのベースソロパート後のポール・ジャクソンJr.のギターソロがまた素晴らしい。

MUSIC MANとの出会い

その他にも、クイーンのジョン・ディーコン、シックのバーナード・エドワーズ、キングクリムゾンのトニー・レヴィン、レッチリのフリー、カジャグーグーのニック・ベッグスなど、数え上げたらキリが無いほどのミュージシャン達が愛用している。
かく云う私も、プロになろうと決めた時に漢の36回払いで三鷹楽器で購入したベースが、ミュージックマンのCutlass Iというシースルーレッドのベースで、スティングレイを元にモデュラス社のカーボングラファイト製の安定したネックがセットされたモデルだった。長年愛用してきた楽器だったが、音楽の仕事から離れようと心に決めた時に、真っ先に手放したのもこの楽器だった。いま思えば取っておけば良かった。
このCutlass Iの他にCutlass IIというモデルも存在していて、それが表題のMUSIC MAN Sabre Bassを元にカーボングラファイトのネックがセットされたモデルだった。
ちなみにSabreは鳩「サブレ」ではなく、セイバーである。

Sabreは究極ではないか?

私はMUSIC MANベースの中では、Sabreこそがレオ・フェンダーが目指した完成形のベースだと思っている。スティングレイよりも構えやすくスタイリッシュなボディデザイン。大きなマグネットを備えた2基のピックアップを搭載し、幅広い音作りが可能なサーキットを搭載。チューニングがしやすいマシンヘッドのレイアウト。
そして握ると分かるが、なにしろこの初期型のネックは素晴らしい。

初期のMUSIC MAN Sabreがどんな音色なのかというと、Stanley Clarkeのアルバム『ROCKS, PEBBLES AND SAND』にゲスト・ミュージシャンとしてルイス・ジョンソンがベースを弾いている曲があり、この音こそがSabreの音だ。

また、ルイス・ジョンソンがお兄たまと組んでいたバンド、The Brothers Johnsonの楽曲『Celebration』でもSabreで弾いた強力なベースソロを聴かせてくれている。

変わったところで、かつてジミー・ペイジとポール・ロジャースが組んでいたロックバンド『The Firm』のベーシスト、トニー・フランクリンが、セイバーのフレットレスを弾いている。ロックバンドでフレットレスを使うだけでも十分に変態なのに、セイバーのフレットレスというのが憎たらしいぐらい変態だと思う。ちなみに、このトニー・フランクリンの現在は、フェンダーの社員でセールスマネージャーをやっているらしい。

ミュージックマンは1984年にアーニーボールに経営が移り、現在も製造が続けられている。ファンの間ではアーニーボール以前のオリジナルのモデルは『プレ・アーニーモデル』と呼ばれている。
私は現在、プレ・アーニーのスティングレイとセイバーを所有している。
また近年のスティングレイも所有しており、それぞれ似たような音ではあるものの、弾き心地も違うし、もちろん音のキャラクターも違う。
私の手元にある製造されてから40年が経過したオリジナルのセイバーは、誰が弾いても80年代ファンクそのものの音がする。

では細部を見ていこう。

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MUSIC MANのロゴは『M』の文字をデフォルメしてギターを持った二人の男の足に見立てている。ダサいと言えばダサいのだが、何が言いたいのか伝わるので良しとしたい。マシンヘッド(ペグ)のレイアウトは、G弦だけ反対側に付けられている。これにより腕の短い人でも楽にチューニングをする事が出来る。

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ピックアップは、スティングレイと同じ巨大なマグネットが特徴のハムバッキングが2基搭載されている。
ちなみに今では当たり前となっている、本体にアクティブ回路、プリアンプを搭載したエレキベースは、ミュージックマンのスティングレイが最初で、それまでのパッシブベースの場合、イコライジングはアンプ側で調整するのが普通だった。このミュージックマンのベースが登場した事で、ベース側での音作りが多彩となり、ミュージシャンの表現力が格段に豊かになった事は言うまでもない。ピックアップ1基だけでも万能だと言われたのに、このセイバーには2基搭載というメガ盛り仕様なのだ。
現在販売されているスティングレイには2基のピックアップが搭載されたモデルも存在しているが、当時はスティングレイとセイバーで明確に差別化されていた。

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ブリッジは弦の通し方を若干斜めにテンションをかけた構造になっており、弦が少しだけ右にカーブしてからヘッドに向かって伸びているのが写真を見ると分かるだろう。ブリッジ自体もフェンダー製品よりも一回り以上大きくてガッシリとしている。面白いのは丸いネジのようなパーツで、これを回すとウレタンスポンジのようなパーツが持ち上がり、弦に触れてサスティーンを殺し、ミュート効果を得る事ができる。レゲエやスタッカートの効いたプレイをしたい時には絶大な機能だ。実際あまり使うことは無いのだが。

では全体を見てみよう。

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とてもバランスの取れたプロポーションであり、フェンダーを代表するプレシジョンベースでもなく、ジャズベースでもない、ともすればフェンダーを代表する次のモデルとなっていたかもしれないベースだったのではないだろうか。とにかく個性が強いのだが、バンドで弾いても埋もれることが無ければ、邪魔をし過ぎることもない。曲中でどっしりとしたボトムラインを弾いていて、ソロの時にはグイッとトレブルノブを回せば、存在感バリバリのプレイを披露することだって可能だ。アクティブ回路が搭載されたベースの最も優秀なポイントは、手元で瞬時に音質の調整が出来る機能、そこに尽きると思う。

レオ・フェンダーは「世界中のアーティストにしてあげられる事は全部やった」と残してこの世を去ったそうだが、本当にそうだと思う。
彼が居なかったとしたら、現在の音楽の世界は全く違うものになっていたのだと思う。音楽が好きな我々は、レオ・フェンダーが生まれた8月10日にはカリフォルニアの方角を向いて敬礼すべきだし、命日の3月21日には「3・2・1」のカウントダウンをして「神様、仏様、フェンダー様」と唱えて献杯すべきだ。

Special Thanks Photo by Toshimitsu Takahashi

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