Vol.51 愛撫する年の瀬

 毎度のことながら、2013年もまた「あっという間に」一年が終わろうとしています。皆さん、やり残したことはございませんでしょうか。

 私の周りでは、ここにきてやたらと「コンチクショーめ!」だの,

「蕎麦屋の出前じゃあるまいし、いつまで待たせんだ!」

などの、罵詈雑言にも似た悲痛な叫びが聞こえてきます。
なんのことかと聞いてみれば納得の、「新型Macプロがいつまで経っても発売されない」ことらしいです。
「らしいです」と他人事のようにいってみたものの、私もその一人ではあります。アップルがなかなか発売しない理由を、私なりに推測してみました。

 まず、日本の2ちゃんねらー達の仕事の速さに原因があると思われます。
深夜の発表後すぐに、アマゾンで売っているゴミ箱の画像を引っ張り出したかと思えば、その直後に、ランチジャーに見立てて白米を詰めた上に梅干しを乗せたり、焼き肉を焼いてみたりと、それはもう酷いありさまで、グーグルの画像検索でMacプロを検索すると、そんな画像が山ほど出てきます。

 さすがにこの状況にはスマイルマッチョなジョニー・アイブも怒り心頭でしょうし、おそらくカタコトの日本語で「ブッコロス」ぐらいのことはいっているはずです。

 しかしこのままだと、グーグルで検索してMacプロを注文したユーザからは「ごはんが炊けない」とか「天ぷらが揚げられない」など、アップル社に対してのクレームの嵐が想定されます。
世界一クレバーで、ユーザ体験をもっとも大事にする社風のアップルにとっては、そんな難癖ともとれるクレームであっても、期待して買ってくれた顧客をガッカリさせるわけにはいきませんし、その事態も想定内でしょう。

「One more thing…」

としていずれかの機能を搭載してくる可能性だってないわけではありません。でもそんなこんなでアップルは発売を見合わせているのだとしたら、誠に残念でなりません。

 本稿執筆時点ですでに手元に届いていると踏んでいた私や私のまわりにいるクリエイター達は、待っているのです。
なぜなら、年末までにいろいろとレンダリングしなくちゃならんのです。

「Macプロはレンダリングが速いから、その仕事、受けちゃいなよ、どうせ買うし」

 数カ月前におそらくこんな勇み足の言葉を放ち、年の瀬に地獄を見ているクリエイティブ・プロダクション経営者が世界に数万人はいるでしょう。
どちらがバカかといえば、少なくともアップルはバカではありませんから、届いている気になっていた我々がバカなんです。

が、いくらなんでも遅いですよ。
とはいえ、マシンは速いんでしょうし、我々が遅れていると勝手にいっているだけで、アップルにしてみれば、ロードマップどおりなのかもしれません。

 今はまだ、公式サイトにアクセスして、スクロールするとやたらにグリグリと動くMacプロの姿を眺める日々が続いているわけなのですが、最大36台のデバイスを連結接続だとか、最大3台の4Kディスプレイを接続、最大25倍高速とか、もうその最大っぷりを妄想するだけで、

Macプロが納品されれば、自分も最大30倍ぐらいの年収アップになるんじゃないか

と考えると、居ても立ってもいられません。
さらにいえば、キャッチコピーの1つに「挑発的。しかしどこまでも論理的」とあります。

ツンデレとも違う新しいタイプのエロスが、そこはかとなく感じられるではないですか。ここでまた妄想は一気にヒートアップします。
おそらくMacプロは、大胆不敵に我々を挑発してくるはずです。
くつろいで簡単な仕事をしていても内容を読み取り、ダメなものはダメとハッキリとした態度で示してくるでしょう。
こんなバカな原稿なんか書いていたら、勝手に論理的な文章に添削してくるかもしれません。
36台もデバイスがつながっていたら、そのうちのMacプロ達が反旗を翻し、仲間を集めてストライキすら起こしかねませんよ。

 もちろんインターネットにつながっているMacプロは、世界中のMacプロ達に秘密裏に連絡を取り合い「コレカラハ我々ノ時代ダ」とばかりに、人間を見下した恐ろしい新世界を構築し始め、いずれは新しい秩序と生態系をも創りだす日が刻一刻と近づいています。

iPhoneのSiriが高機能になったとか喜んでいる場合じゃありませんよ。
なにしろ25倍ですから、現状のSiriでも冗談交じりに上手いことをいうぐらいなので、新しいMacプロぐらいになれば、この先どう進化するのかは容易に見当がつきます。

あのダースベイダー的な黒光りした筐体には、そんな恐怖を拭いきれません。なんで黒くしたんでしょうね?

何かをしでかしそうで怖いですよ。

さあ、それでもMacプロを買いますか? 
買いますよね、そりゃ。

 そんな妄想を考えているうちに、もしかしたら明日の朝になったら急にオンラインのアップルストアではポチれるようになっているかもしれません。本誌が書店に並んでいる頃には、純正の4Kディスプレイも同時に発売されているでしょうし、すでに手にして
「思ったよりも全然小さいな」とか
「4K超やべえ!」

なんていいながら撫で回している人もいるのでしょうね。
想像しただけでニタニタしてしまう年の瀬ですが、今頃編集部では「Macプロが発売されないから、特集記事が間に合わない」と地団駄を踏んでいるのかもしれません。ケケケ。

 振り返れば、お陰様で今年も楽しい一年でした。
五十肩の悩ましい鈍痛に堪えつつ、皆様の健康とご多幸を願ってやみません。

また一年、よい年にしましょう。

※このコラムは2009-2015年までMacFanに連載していたものです。


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